お題A
呆れた笑顔で
キャァァァ! 跡部様ぁぁ!!
黄色い女の子たちの悲鳴。
本来静かに読書が楽しめるはずの図書室に響くその声援は、わたしにとって騒音でしかなかった。
「あぁぁぁ、もう。毎日毎日跡部跡部跡部! よくも飽きないわ」
ポツリと小声でつぶやきながら、出だしだけ読んだ本を閉じ、棚へ戻した。次の本を選ぼうと、指と目はたくさんのタイトルを追っていくが内容や意味はさっぱり脳に入ってこなかった。これもすべて敵――跡部景吾へのイライラのせいであろう。
「って、それって騒がれてる跡部に罪はないんじゃないの?」
我慢の限界に来ていたわたしが友達のに愚痴をこぼしていると、聞かされていたは不思議そうに首をかしげた。そう返されたわたしは、右手の人差し指をピンと立て、左右に振るという古臭い動作でそれを否定した。
「跡部がナルシストだっていうところに罪がある。だって、見た? この前の練習試合」
「・・・・・・ああ、見た見た。あんたの隣で見てたよ。『勝つのは、俺だ』だっけ?」
「それそれ。あれは完全にギャラリーを煽ってるね。確かに、騒いでいるのは跡部じゃないかもしれないけど、騒がしてるのは跡部でしょう?」
「そういわれると、そうかもね。典型的なナルシーってやつ?」
うんうん、と息を合わせてうなづく。
「宍戸や鳳くんが騒がれててもイライラしないのよ。彼らは鬱陶しそうだからね」
「同じく迷惑に感じているからいいのか・・・」
「そう。どっちかというと同情するね」
そうかもね、と。
そこで丁度昼休みの終わるチャイムが鳴った。
・・・・・・最悪だ。
今日ほど学校の図書館が最低の場所だと思ったことはない。
「・・・・・・なんでここに跡部がいるんだ」
思わずポソリと口にする。
そう、いつもと同じ図書室なのになぜか違う世界に感じるその存在感。本棚の向こう側にいても気配を感じるのではないかと思うほどだ。
いや、いっそ向こう側にいてくれればよかったものを。
(なんで目の前の席に座ってんだよ)
口がだんだん悪くなっているような気がするが、そこはスルーする方向で。
ちなみに席はたくさん空いている。
しいて言えばこの辺りの席は隅の方にあり、割とどこからでも目に入りにくい。入り口からだと完全に死角だ。人知れず読書をするには適しているというところか。
しかし、だ。
なぜかいるだけで別の世界に行ったように錯覚させる存在感では無意味な気がした。
(大体見られているのが好きなんだから、もっと見やすい位置にいればいい。それとも図書室では静かにって?)
アホらしい、と思わず鼻で笑う。
すると跡部が微かにわたしの方に視線をよこす。考えていることがばれたかと、一瞬ドキっとしたが、すぐに本へ戻ったため今度は心の中で安堵のため息を漏らす。
・・・・・・それにしても、キレーな顔だよなぁ。
敵であることに変わりはないが、綺麗なことは認めよう。女のわたしよりきめ細かい肌だし、年中テニスコートを走り回っているとは思えないほど白い。髪だってサラサラで、まつげも長い。かといって女みたいな顔とは違うし、無駄のない体は制服を纏っていても窺える。
――ああ、別の意味で腹立ってきた。
なんだよ。天は二物を与えずって嘘だな。知ってたけど、絶対嘘だな。
そりゃ天に与えられたものだけじゃなく、自分で手に入れたものもあるんだけろうけど、それを手に入れられるだけいいよなぁ。
「・・・・・・おい」
「――え?」
突然小声で跡部に話しかけられ、驚いて声がひっくり返ってしまった。
そんなわたしを気にした様子もなく、跡部はこちらにチラリとも視線をよこさずに続けた。
「ジロジロ見るな。気が散る」
――はぁぁぁ?
気が散るぅ? わたしなんかお前のせいでいっつも集中できねぇよ!
その一言にカチンと来て跡部を睨みつけながら、日ごろの不満をぶつけるようにファンが聞いたら卒倒するような言葉を口にする。
「・・・・・・じゃあ、どっか行ってくれる?」
「・・・・・・あ?」
「鬱陶しいのはわたしも一緒。こっちだってあんたみたいなのが目の前にいると集中できないの」
「・・・・・・」
「この際だからぶっちゃけさせてもらうけど、いつもいつも煩わしいのよ。ここテニスコートに近いからアンタのファンが騒ぐ声が直に聞こえてきて静かなはずの図書室がまったく静かじゃなくなるの。はっきりいって大迷惑。わたしの楽しい読書タイムが台無しな上激しくイライラするから精神衛生上よろしくないわけ。アンタがどれだけ金持ちで見た目も麗しいかしらないけど、迷惑に思っているヤツもいるってことを忘れないことね」
小声で早口、しかしはっきりと聞こえるようにいい、跡部を見ると驚いて目を見開いて固まっている姿が確認できた。
・・・・・・そんなに驚くことだったかな? いや、言われなれないだけか。
「・・・・・・お前」
「なに?」
「名前は?」
今度はわたしが驚く番だった。
ちょっと戸惑いながらクラスと名前を教える。
「、」
「か。気に入った覚えておく」
「・・・はぁ?」
「俺様に面と向かって暴言を吐いた女は初めてだからな」
・・・・・・なんだろう、予想外の展開だ。
わたしは思わずフ、と呆れたような笑みを漏らし、先ほどよりも随分短いが、すごい暴言を放った。
「M?」
「・・・・・・、忘れてやらねぇからな」
この数分の会話が、わたしの学園生活を――いや、人生を大きく変えることになるとは
まったく想像していなかった。
あれ? なんか続きそうな雰囲気?
うん、たぶん続く。(多分?
続きまったく考えてないけどねー・・・(結局どっちだ)
つーかお題にそれてねぇ!!