お題B
欲求不満
――ああ、もう。だからなんでこんなことになってるかなぁ!?
跡部と初めて会話してから早1ヵ月。
何故かよくわからないが、ここのところ図書室にいるのを頻繁に見かける。と、いうよりも、わたしの目の前に座るのが定位置のようだ。
何度か気のせいかと思い泣く泣くいつもと違う席に座ったことがあったが、わざわざ追って来るかのようにわたしの向かいの席に座った。向かい席じゃないところにしたら隣に座ってきたし。
意味わかんねー。
そしてこの男が入り浸るせいで、本来図書室になんぞさらさら興味のない女生徒までもが足を運ぶようになり、座る席がなかったり、ダイレクトに騒がしかったりするようになった。
これならまだテニスコートでキャーキャー言ってるのを聞いてるほうがマシだった。
ていうか、テニスしろよ跡部!!
そんな感じで、読書が満足に楽しめない状況にあるわたしは激しく欲求不満だ。
ああ、本当に今すぐここで大声で訴えたい。テニスしろよと訴えたい。
むしろ今すぐ(この場から)消えてくれ。
「ああ、おったおった」
「?」
こちらの方ではあまり耳慣れないイントネーションが聞こえてきて、わたしは思わず顔を上げる。そして顔を見て納得した。
「跡部、お前こんなところで何してるん? 来るの遅いから探してくるよう監督にいわれたやん」
「うるせぇな。多少いいだろ」
「よくあらへんて。時間削られるこっちの身にもなってみ」
――救世主か、忍足。
わたしは思わず小さくガッツポーズを取った。すぐ前に座っていた跡部からは死角だったようだが、立っていた忍足には見えたらしい。なんの仕掛けもないメガネを押し上げながらわたしを見た。
「なんや、? 俺が来たことがそんなに嬉しいん?」
「冗談。テニス部の人気上位2名がきて迷惑甚だしいよ」
ニ、とちょっと笑いながらいうと、忍足も笑い返して来た。
「・・・・・・知ってんのか?」
わたしと忍足のやり取りを見てか、跡部が不機嫌そうに――なんで?――小さくつぶやいた。
「同じクラスや。は他とちょっと違って付き合いやすいねん」
「ありがとう。ワタシモ男友達トシテハ忍足ガ一番カナー」
本に視線を戻しながら棒読みでいうと、忍足が「思ってへんやろー!」と突っ込んできた。
――ふと、唐突に目の前からダークネスな気配を感じた。
恐る恐る顔、というよりは視線だけそちらへ向けると、文章などまったく追っていないであろう跡部が本の一点を凝視して真っ黒いオーラをだしていた。
軽く恐怖を感じてすぐに本へ視線を戻し、それからゆっくりと忍足を見てみると彼も困惑して固まっていた。なんとなくそのまま忍足を見ているとわたしの視線に気付いて、それからもう一つ別の何かに気付いたようでハッとした表情を見せ、すぐにニンマリとした顔へ変わった。ああ、なんか嫌な予感。忍足がこういう顔するときって大抵ろくな事ないんだよね・・・。
「」
「・・・・・・何?」
わたしの妙な間にも気付いたのか、忍足はもっとニヤリと笑った。
完っ全に嫌な予感的中のようだ。
「俺もう戻らなあかんし、跡部はまだやることあるようやからあと15分ぐらいしたら部活くるよう言ってくれるか?」
「はあぁ? 直接言えば?」
すぐそこにいるんだし。というよりこの会話だって聞いているだろう。
「結構集中すると時間忘れるタイプやから。じゃ、頼んだで〜」
「え? 忍足!?」
わたしの呼び止める声空しく、忍足は笑顔で去っていった。
その笑顔殴り倒したい衝動に駆られたよ!
救世主かと思ったらとんだ用事押し付けていきやがって・・・! あの役立たず! 今度目の前で叫んでやる!!
「・・・・・・はぁ」
「?」
わたしが忍足への怒りをオーラで露にしていると、目の前から深いため息が聞こえてきた。まあ、発信源は跡部だが。
「おい」
「・・・忘れないとか言っておきながら、わたしの名前忘れてるわけ?」
「・・・・・・。ちょっと来い」
「なんで」
間髪いれずにそう聞く。
だってわたしが動く意味わかんないし、そもそも部活に行くならさっさといけばいい。
「話がある」
「わたしにはないけど。それに、ここでしたら?」
普通ならば図書室で話などもってのほかだと思うが、跡部のせいで騒がしくなり、おまけに今日は忍足もきたせいでますますうるさい図書室では小声で話すぐらいはまったく問題ないように思えた。『図書室では静かに』という張り紙がこの短期間で4〜5枚増えていたが、気にしないでおこう。
「まあ、俺様はどこでもかまわないんだが」
「じゃあここでもいいわけだ」
「が嫌かと思って気を利かせたんだがな」
「・・・?」
気を利かすとかいったよ、この男が。
跡部の口から出るのがびっくりするほど似合わない言葉だな。
心の中で笑っていると、突然アゴを軽く捕まれ、上を向かされた。
何をする、って手を振り払おうとしたらすでに跡部の顔が異様に近くにあって。
次の瞬間には唇が重なっていた。(どこからかイヤーという叫び声が聞こえた)
「っっ!!?」
ガタンッ
慌ててイスを引いて、体を大きく後ろへ反らす。少しでも跡部から距離をとるために。
「なっなっなっ・・・!?」
「ほら、場所移動したほうがよかっただろうが」
「話じゃねぇし!!! 信じられない!!」
跡部は慣れっこかもしれないが、わたしにはこういう行為への免疫がまったくといっていいほどない。しかもこんな人前で!! それも跡部ファンに囲まれた中で!!
わたしは恥ずかしさと周りからの殺意でその場にいられなくなり、荷物をもって席を立った。読んでいた本を元の位置に戻してからさっさと図書室を後にする。後ろから跡部が余裕で付いてくるのを感じながら。
「――ついてくんな、このド変態!!」
「話はまだ終わってないんだが」
「始まってすらいないことを忘れるな!」
わたしがすごいはや歩きにも関わらず、跡部は優雅に歩いてくる。しかもジリジリとその距離は縮まっていた。ちくしょう、コンパスの差か!!
間もなくして捕まり、適当な空き教室に連れ込まれた。
「離して!」
「離したら逃げるだろうが、バーカ」
「バ・・・ッ!? 馬鹿はどっち!」
「少なくとも俺様じゃないな」
「跡部以外に誰・・・・・・っ」
わたしの言葉を遮るように跡部がまたキスをしてきた。しかも今度は先ほどの触れるだけのものとは違って・・・・・・。
「んんっっ!!」
他人の舌が自分の口の中に入ってくるなんてこと今まで経験したことなくて、わたしの頭は真っ白だ。反射的に跡部を殴ろうと手を振り上げるが、簡単に止められてしまう。
歯列をなぞられ、逃げても舌を絡め取られて、今度は跡部の口の中にわたしの舌が吸い取られて。
「ぷはっ! はあっはあっはあ・・・・・・っ」
ようやく開放されて、大きく呼吸をする。正直、マラソンやらされたときよりキツイきがした。
「ど、どういうつもり・・・?」
精一杯虚勢をはって跡部を睨みつけながらいった。舌がしびれたようでちょっとどもってしまったがこの際気にしない。
跡部は睨んでいるにも関わらずわたしの両頬を壊れ物にでも触れるかのように優しく包み、女なら落ちないほうが間違っていると思うほどの極上の笑みで耳を疑うような言葉を口にした。
「この俺様が好きでもない女にこんなことすると思うのか?」
と、いうことはつまり
「わ、わたしのことが、好きってことっすか・・・・・・?」
「他にどう取れる?」
「どうとも取れません」
いや、だって・・・・・・。わたし好かれることした?
ボロクソ言って普通なら嫌われるところを気に入られたってところまでは覚えてるけど。
アレで惚れたっていうなら正真正銘のMとして認定するぞ。どっちかというと確実にSだと思うけど。
「・・・・・・あのですね」
「あ?」
「わたくし、何か好かれるようなこと致しましたでしょうか?」
どう考えても分からなかったからぶっちゃけ聞いてみることにした。
そうしたら跡部がわたしの髪をいじくりながら質問を返してきた。
「気に入った、って言ったところまで覚えてるか?」
「・・・・・・うん。初めて話したときだったよね?」
「俺様に対して暴言を吐く度胸が気に入ったつもりだったんだが・・・・・・。気が付いたらどこかでいつもお前のことを探してて、側にいると妙に安心できた」
「・・・・・・」
「文章を追う視線とか、ページをめくる指とか、目的の本を探すときの後姿とか。気付いたらお前しかみてなかった、」
跡部は熱っぽい視線で語りながらわたしの頬を撫でた。
妙になれた手つきに、わたしは寒気さえ覚えた。
「え・・・・・・と、わたしは、その・・・・・・」
「いい」
「は?」
「だから、返事はいらない」
?
わたしが眉間にシワを寄せながら不思議そうにしていると、跡部は心のそこから面白そうに笑んでいった。
「絶対に俺に惚れさせてやる。俺のものにするから、覚悟だけしとけ」
「・・・・・・って! またキスするつもり!?」
「あぁ? うるせぇな。キスだけで勘弁してやるんだからありがたく思え」
――本当はこのまま最後までやりたいところだがな。
耳元でそうささやかれ、わたしはとりあえずキスを受け入れるのだった。
ビックリしたー。なんだこれ?(笑
つーか恥ずかしすぎる!
こんなん書いたの初めてじゃね?
今度こそお題にそりたかったのに・・・。主人公が最初に口走ってるだけやん。