今までで一番わけ分からん。








その日、青い空がとても綺麗だった。









 そういうわけで、わたしはなんとなく散歩に出掛けていた。
 今日は思いっきり平日で。夏休みは間近だけど、所詮間近であってまだ学校はあって。だけどあんまり天気がいいから暑苦しい教室でむさ苦しい先生の顔を見ながら授業するのも馬鹿馬鹿しくて。みんなが授業をやっている中、わたし一人だけアイスを片手に好きな曲を聴きながら海沿いを歩いていると思うと最高だ。
 アイス、すごく美味しいしね。
 このアイスは今年の新商品で、実は発売前からチェックしていたものなのだ。予想以上の美味しさに、ますます気分がいい。
「……やや?」
 アイスに舌鼓を打っていると、釣りをしている一人の男を発見した。その男は一方的によく知っていた。
「仙道先輩…?」
 学校一の有名人といっても過言ではないその人は、いつもと同じの重力に逆らったツンツン頭で、いつも通りなに考えているのか分からない顔で、いつも見ている制服とは違うTシャツにジーンズというラフな格好でボーッと魚を釣っていた。
 それにしても、こんなところで何をしているのだろう?(いや、釣りだけど)
 今頃は学校で授業を受けてないとおかしいと思うのだが(いや、わたしもだけど)
「……?」
 なんだか、服以外も、ちょっといつもと違う気がする。
 実はわたしは勝手に片思いをさせていただいていて、お姿を拝見する機会があればよく観察しているので、なんとなく先輩がいつもの仙道先輩じゃないように思えた。


 ただ釣りをしているだけ。

 そう、体育館にいないだけ。

 でも、何か違うんだ。



 ――あ。



 もしかして、この前の大会……?



 原因に気付いてからしばらく見ていたが、微動だにしない仙道先輩と、先輩の竿。
 わたしは自分の下げていたコンビニ袋の中身を見て、少し迷ってから仙道先輩に近づいていった。
 猫背で胡坐をかいている仙道先輩のすぐ後ろに立ってみたが、寝ているかのようにわたしがいることに気づかない。袋の中からそーっとアクエリアスを取り出して、男の癖にセクシーなうなじにピトッ


「うわっ!!?」


 と、くっつけてみた。こっちも驚くほど盛大に驚いてくれた。(楽しいよ)
 仙道先輩は驚きを隠せないまま首の後ろを押さえながら振り返った。
「えーと……?」
「こんにちは、仙道先輩」
「……こんにちは。君は?」
 “先輩”と呼んだことで多少察しがついたのだろう。落ち着きを取り戻してわたしに笑みを送ってくれた。
 いつもなら、多分興奮するんだろうな、わたし。
「陵南高校一年、です。隣、いいですか?」
「……どうぞ」
 アクエリアスを差し出しながら聞くと、本当は一人でいたかったのだろうが、仙道先輩はわたしに気をつかってか一緒にいることを許可してくれる。ついでにアクエリアスも受け取って貰えた。
「……釣れてます?」
「見ての通り」
 先輩はわたしの座ったほうとは逆の場所に置いてあったバケツを見せてくれた。
 うん、何にも入ってない。
「確かにアレだけボーっとしていれば釣れないかもしれないですね」
「え? いつから見てた?」
「えぇと、10分くらい前でしょうか。まったく動かずに虚ろな目で遠くを見てるから思わず声かけちゃったんですけど」
「・・・・・・そっか」
「そうです」
 そこで一端、会話が途絶える。
 わたしの方も特に話を振るわけでもなく、ただ食べかけのアイスを口に運んだ。

 ベキベキッ

「?」
 なんの音かと見てみると、仙道先輩がわたしのあげたアクエリアスのキャップをあけた音だった。
 それにしても、いい男が喉仏を上下させながら何かを飲むっていうのはかなりセクシー……って、すごい勢いで飲んでるよこの人!!
「プハーッ」
「って、先輩? そんなに喉渇いてたんですか?」
「まあね。朝からボーっと座ってただけだから」
 すげぇ。この暑い中。
「ところでちゃん。ちょっと聞きたかったんだけど」
「はい?」
「今、授業中でしょ?」


…………。


「その言葉、そっくりそのままお返ししますが」
「あー…。俺はちょっとね」
「……まあ、別にいいですけどね。ちなみにわたしは単なるサボリです。こんないい天気の日にただ授業受けてるだけなんてアホらしくて」
「そうかもな。今日は風も気持ちいいし」
「絶好の散歩日和でしょう? 釣りをするのもいいですけどね」
 わたしがそういうと、仙道先輩は笑った。





悲しい、笑顔だ。





「先輩?」
「ん?」
「無理に笑わないでください」
「……え?」
 わたしの言葉に驚いて、仙道先輩は一瞬固まった。
「先輩、顔は笑ってますけど、泣いてる」
「っ…!」
「悔しい、辛いって。先輩は泣いてるでしょう……?」
、ちゃん」
 わたしの口から次々と吐き出される言葉に目を見開いていく仙道先輩。それを見てもわたしは止まらなかった。
「先輩は、コートや部活の中ではエースとして頼られてしまう存在かもしれない。…でも
今はコートの中でもなければ学校でもないんですよ? バスケ以外の趣味も楽しめないほど辛いなら泣けばいいじゃないですか。ここにいるのは学校が同じっていうことのみが共通の初対面の後輩ただ一人だけなんですから。……あ、いや、その、初対面の方が泣きづらい、かな?」
 一気にしゃべって、呼吸を整えながら最後の言葉が微妙におかしいことに気が付いた。
 知ってる人よりぶっちゃけやすい場合もあるだろうが、この場合はどうなのだろうか。
 多分チームメイトよりは吐き出しやすいとは思ったのだけれど。





「……ぶふっ!!」





「はぃ?」
「ご、ごめん…! つい……。クククク……」
 な、何故か分からないが、突然仙道さんが笑い出した…!!
 さっきの無理した微笑みとは違って心底笑ってるみたいだけど、ナンデッ!?
「……ちょっと、新しかったから」
「な、何がですか?」
「結構さ、他の人にも慰められたり活を入れられたりしたんだけど、そういう時って大抵『来年がある』『来年頑張ればいいじゃないか』『来年なら絶対全国いける』とかなんだよ」


――でもさ。


「確かに、俺にはまだ来年がある。けど、魚住さんたち3年の先輩には今年が最後だったんだ……」
「……そう、ですね」
「簡単に“今年”を割り切れるものでもないんだよな」
「うん……」
 エースと呼ばれているからなのだろうか。この人の大きい背中にはおさまり切らないほどたくさんのものが乗っている気がする。
 部員の期待、先生の期待、学校の期待。
 すべてが仙道先輩の重しになって押しつぶしているような、そんな感じ。普段はきっと、そんなことあまり気にしていないんだろうけど。
ちゃん」
「はい」
「ありがとう。泣き言言ったら少しスッキリしたような気がする」
「少しでも力になれたのでしたら光栄です」
 ヘロ、とわたしが笑った瞬間、仙道さんの竿に獲物がかかった。
 二人でキャーキャーいいながら釣り上げた魚はそんなに大きいものではなかったけれど、その魚の分ぐらいは仙道先輩の気を紛らわすことができたのかもしれない。




見上げた空は、いつもより綺麗に見えた。








悩みこそ青春よね(なんだそりゃ)<無理やりお題にそったことにしたいらしい。
あーぁ。やっぱり何処へ行きたかったのか分からなくなってしもうた〜…。
そういえば、気付いたら「冷たいものペトッ」ネタ、三井のときもやってるなぁ。