久々レッドアイズ。
 桜を見たのは、いつが最後だっただろう。

  薄い薄いピンク色が、真っ赤に染まった手を見る瞳に恋しかった。





最後の春





「……ふぅ」
 は手に付いた血を丁寧に洗い流してから、簡易ベッドに倒れこんだ。
 目を閉じるとナイフで肉を裂く感触と吹き出た返り血の温かさと暗殺対象の断末魔が鮮明に蘇ってきてとても休むことはできなかった。それを振り切るように勢いよく起き上がり、乱暴に頭を掻いた。軍に入って随分たつし、殺した人数だって数え切れない。それでも、殺人という行為になれることはなく、戦争なのだと、仕方の無いことなのだとには割り切ることは出来ないでいた。
 手を止めると血の匂いが鼻についた。自分の全身から匂ってくるような、むせ返るほどの臭気。
 おそらく実際はこの部屋に血の匂いなどしていないだろう。の疲れた精神が血の匂いを思い出させるのだ。

――コンコン。

「……! どうぞ」
 キィ
 古びたドアから蝶番の擦れる耳障りな音がし、入ってきた人物をみて、は瞬いた。
「大丈夫か?」
「……ミ、ミルズ中尉!?」
 慌てて立ち上がろうとするをミルズは片手で制する。
「そのままでいい。気分が悪いんだろう?」
「あ、いえ。大丈夫です」
「大丈夫なやつの顔色じゃないな」
 両手で頬を押さえると、顔色云々よりも自分の指先の冷たさに驚いた。これならどんな顔色なのか見なくても分かる。
 ミルズはこれ見よがしにため息を付くと、無言で置くまで行き窓を開けた。
 風が勢いよく中へと吹き込んできて、血なまぐささを一瞬で掃うのを感じた。
「――あ」
「どうした?」
「……暖かい、ですね」
「ああ、もう春だからな」
 草木の匂い。命の息吹きを感じる春の暖かさ。戦場の冷たさと暑さとは違う、生命のぬくもり。
 は頬を撫でる風をうけながら、四季を感じる余裕をなくすほど自分を追い詰めていたのだと自覚した。
「……春は、好きです」
「そうか」
「ええ。桜並木の中から見上げる空がたまらなく美しくて」
「桜?」
「はい。わたしの国で最も愛されている木の名前です。春に薄いピンク色の花を咲かせるんですが、いくつもの桜が一斉に咲いている風景なんてすばらしいですよ。もちろん一本だけでも華やかですが」
 が懐かしむように話すと、突然優しく暖かい手が降ってきた。
 手の主はミルズで、グシャグシャにしてあったの髪をならすように撫で最後に二回軽く叩いた。
「中尉?」
「俺も見て見たいものだ。がそこまでいうならきっと俺でも綺麗だと思えるだろう」
「はい、絶対です!! 保障しますよ。もし機会がありましたらぜひ見ていただきたいです」
「……ああ」

 ふ、とミルズが笑う。
 はその微笑みで自分の心が軽くなるのを感じた。まるで、桜並木から見上げた空のように、嫌なことを忘れさえてくれる……。
(もし、このまま帰ることができなくても、ミルズさんさえいてくれたらわたしは二度と桜を見れなくてもいい……)



 しかし、このあとすぐジャッカルが結成され、もう一度春が来る前には自分の世界へと帰ることとなる。






久々すぎてキャラ忘れた……(氏
連載もいい加減更新しなくちゃ。
ああ、でも珍しく他のキャラなしでいけたので良し。