なんぞ、微妙…。


最低→最高



 ……見覚えのない天井。知らないベッド。見たことのない部屋。

  そして、同じ布団の中によく知るクラスメイトの男が一つ。



 普通の女の子ならこういう時ってパニック状態に陥ると思う。でもわたしは“普通”とは違うらしく、頭の中はずいぶんと冷静だ。そりゃ、最初に目覚めて自分の部屋じゃなかったときはびっくりしたけど、隣で寝てるのが仙道だったから一気に冷静になれた。
 服は、着ている。昨日出掛けに来てたのと同じ服。と、いうことは少なくとも妙なことがあったわけではない。とはいっても、仙道なら安心だけどね。いろんな噂流れてるみたいだけど、実は結構誠実なヤツだってよく知ってるから。
 ……さて、身体を起こして頭が働くようになってきたところで、なぜ仙道に腕枕をされてるか、昨日の行動を思い出してみよう。

 昨日は確か、欲しい本があって出掛けたら半年付き合っていた同じ学校の彼氏が別の女の子と仲良さそうに歩いているのを発見したんだっけ。
 向こうから告白してきて、別に嫌いじゃなかったら付き合い始めて、最近ようやく好きになり始めてたのに、それを目撃した瞬間一気に愛情が冷めた。ああ、こいつはこういうやつなんだ、と即座に彼氏を見る目が冷たくなるのが分った。
 冷えていくのと同じぐらいのスピードで腹が立ってきた。このまま静かに別れるのはなんだか無性に悔しいので、どうせなら目の前の二人も破局…まではいかなくても、泥沼ぐらいには落としてやりたいと思った。
 何事もないかのように普通の足取りで二人の前に行き、立ち止まる。瞬間、ヤツの顔が真っ青になった。それを見た私の視線から冷気が漏れたような気がしたのは気のせいではないだろう。
「…ごめんね? わたし一人で満足させてあげられなくて。……ああ、それともその子が本命かな?」
 女の子をみると、心底驚いた顔をしている。二股かけられていることに驚愕しきった顔だ。
「いや…誤解だ!」
「誤解って何!? あたしは遊びってこと!!?」
「あ、ちが…そうじゃ……」
「じゃあわたしが遊びかな?」
「いやっ! そんなつもりは!」
「じゃあやっぱりあたしが遊びなんじゃない! どういうことっ!? あたしのこと好きっていったじゃない!!」
 街中で三角関係とは、わたしもよくやる。涙を流して怒る女の子と、明らかに二股かけてたじたじの男と、いやに冷静な女。周りにはどう映っているんだろう、と頭の隅のほうで思っていた。
「……ねぇ。わたしとしてはもうどうでもいいから、二人で仲直りして付き合ったら?」
「なっ…!」
「多分こいつ、二股三股は当たり前だろうけど。それでもよかったら」
 じゃ、と手を軽く上げてその場を去った。後ろから怒鳴り声やら泣き声やら聞こえたけど、無視してやった。

 ……んで、それから……。そうそう、なんかまだ腹の虫がおさまらなかったからコンビニでお菓子やらジュースやらを買い込んで公園でやけ食いしてたんだよね。時々よってくる子供たちに分けながら。
「うっわ。なにやってんの、
 チョコチップメロンパンを口に含んだ瞬間、後ろからよく知る声がしてそろそろと振り返った。ベンチに座っていたわたしからではあまりに高すぎる位置にある驚いた顔、ツンツンとハリネズミのように立てられた頭。
「食べすぎ。太るぞ?」
 そして、仙道特有ののん気な声。

――ドバーッ

「って、え!? っ!?」
 まさしく、まさしくドバッと涙があふれた。情けないことに止めることができなくて。仙道が驚いて困ってるのも分ってるのにどんどん涙が流れてくる。
 この後すぐ仙道が抱きしめてくれたから、またどんどん泣けちゃって。それも何も聞かずにずっと背中を撫でててくれたから…。
 …きっとわたしは腹の虫がおさまらなかったんじゃなくて、裏切られて悲しかったんだと思う。わたしのほうはすごい彼氏のことを好きだったわけじゃないけど、やっぱりあんな光景を見せられて傷ついてたんだ。
 そしたらよく知った仲のいい仙道が、あの独特の声で話しかけてくるから途端に涙腺が緩んじゃったんだ。


 …………ああ、ダメだ。ここから記憶がない。多分仙道の胸で泣き疲れて寝たな。いや、絶対。
 そして対処に困った仙道がとりあえず泊めてくれたってところかな。迷惑かけてすまない仙道。いや、ホント。
「……それにしても、すっきりしたなー」
「それはよかった」
「! 仙道…」
 のそり、と仙道が身体を起こした。本当にたった今起きたらしく、目がショボショボしている。
「ごめんね、仙道。ずいぶん迷惑かけたみたいだ」
「はは、気にしなくていいよ。辛いときはお互い様だろ?」
「仙道が辛いときにわたしが力になれるかどうかね?」
 苦笑いすると、仙道が大丈夫、と返した。何が大丈夫なのかを問おうとした瞬間、自分が無断外泊であることを悟った。
「ヤバイ! 親に連絡してない! 捜索願とか出されてたらどうしよう!?」
「あー、それなら大丈夫。俺が電話に出でおいたから」
「…はぅあ?」
が眠っちゃって、とりあえず家に連れ帰ってからしばらくしての携帯におばさんから電話があったんだよ。それこそ捜索願とか出されて誘拐犯扱いされたらたまらないから出ちゃった」
「それはどうもありがとう」
 仙道の話はいつもしてるから大丈夫だっただろう。ちゃんと信用できる相手として説明してあったはずだし。
「それにしても寛大だな、のお母さん。男の俺が出てるのに“ごめんねー、よろしく”だもん」
「仙道ですって名乗ったならそういう反応が来るかも。いいヤツってよぉく話してあるから」
 あとはその日にやったアホなこととか。「仙道がねー」って話始めると「今日の仙道くんね!」と割とノリノリだから。獄寺くん好きだもんね、母さん。
「そっか。それでいやにあっさりだったのか」
「うん。多分母さんにとっては男のところに泊まるっていうよりお友達のところへお泊りって感じだったと思うよ」
 多分っていうか、間違いなく。
「……」
「……」
 仙道の小さい相槌で、会話が途切れた。
「……わたしね」
「うん」
「振られちゃった。……のか?」
「いや、聞かれても」
 仙道が困ったように突っ込む。いやぁ、だって……どうなのよ?
 わたしが振ったのか、あれは。
「まぁ、どっちにしても別れたことには変わりないか。相手の二股で」
「そっか」
「昨日二股相手とのデート現場を目撃しちゃってさー。その場で縁切って来たんだけど、なんかイライラが治まらなくて。ヤケ食いしてたら仙道が通りかかったってカンジかな」
 仙道は相槌を入れながら静かに話を聞いてくれた。
 ほっとする、あの仙道の空気で。優しさが、わたしを満たしていく。
「……よかった、仙道がいてくれて」
 仙道がいなかったら悲しみとイライラで圧し潰れてたかも。
「俺がいて、ホントに良かった?」
「うん。仙道があの時来てくれなかったらどうなっていたことやら」
「じゃあさ」

「俺にしなよ、次の相手」

「…えぇ?」

 冗談だろう、と問おうとした瞬間、仙道の真剣な瞳につかまった。
 見たことも無い顔に、息が詰まる。
「俺…ずっとのこと好きだった」
「……」
「でも今の関係が壊れるのが怖くてなかなかに気持ち伝えれなくてさ。…そしたらいつの間にか別の男に取られてるし」
「……それは、スミマセン」
 よくわからないけど、なんだか口から謝罪の言葉がもれていた。
 仙道はわたしの言葉に小さく笑って、ゆっくりと抱きしめてきた。
の口から“彼氏が出来た”って聞いたときすっげぇショックで、すっげぇ後悔した。だから、もう後悔したくないから……」
 背中にまわった仙道の手に力がこめられた。
 少し苦しいくらいに抱きしめられて、その暖かさに安堵感を覚える。

「――好きだ。俺と、付き合ってくれ」

 わたしは仙道の背中に手を伸ばし、胸に顔を埋めて、うなづいた。
 すると抱きしめる腕にますます力がこもり、
『大事にするから』
 と、耳元でささやかれた。今まで聞いたことの無いような甘い声で。

 まったく、こんなにいい男が想ってくれていたのに、なんて鈍感なんだろうか…。


半分以上願望(笑
いい男に密かに想われててぇ…。絶対ないけど。

名前変換なんですが、デフォルトでは苗字を使用しています。
最初はお友達設定なのでそんなものかと。
まあ、どうでもいいですけど(笑

ちなみに、翌日登校して元カレと言い合いになり殴られそうになったところを仙道が守ってくれる、なーんていう
のも考えてましたが、上手くまとまらなかったのでやめました。
('05/11/30)