想い想われ?

戦女神?


バタン!!

「失礼します!」
「……どうした、レイニー?」
「ミルズ大尉、少尉を見かけませんでしたか!?」
? ……いや、今日はまだ見てないが…。どうかしたのか?」
 特殊部隊ジャッカルの隊長、グラハルト・ミルズは勢いよく入室してきた部下である色黒の青年、レイニー・クルーガーに対して内心首をかしげた。
 SAAの近接戦技に長けたあのレイニーが息を切らしているのだ。よほどのことではないのだろうが、如何せん探している相手が相手だ。くだらない用事のようにも思える。
 レイニーの捜索相手であるはジャッカル唯一の女性隊員で、隊長のミルズ、副隊長のユリアン・クレイズに続きその実力は部隊bRを誇る。SAAの扱いはもちろん、潜入捜査をやらせれば確実に思っている以上の成果を挙げてくる。その実力ゆえ、戦女神――ヴァルキリー――と呼ばれていた。……だが、非戦場では少々子供っぽくなってしまうのという難点もあった。
「実は、ひじょ〜〜〜〜〜に、くだらないことなのですが」
 力をこめていうレイニーに、ミルズは小さくうなづいた。
(ああ、だろうな
「SAAの動きが鈍くなってきたというので、データを取り直して調整するよう勧めたのですが、まったくもってやる気配がなく、なのに先ほど私が自分のSAAを見に行くと、ほとんどのSAAにヒゲやら睫毛やら鼻毛やらのラクガキがしてありまして……」
 レイニーが顔を上げてミルズを見ると、ミルズは口元を押さえ、小刻みに肩を震わせていた。懸命に笑いをこらえようとしているのだろうが、バレバレだ。
「大尉ぃー?」
「悪い…。実に“らしい”と思ってな」
「それはそうですけど。でも落とすほうの身にもなってくださいよ! 水性ペンだからよかったものの、数が数ですし、おまけに脇毛なんかも書いてあるんですよ!?」
 まったくもってらしい。くだらないことに時間と労力を尽くすのが本当に好きなのだ。
 ミルズが小さく笑うと、レイニーは困ったような顔をしてから
「まあ、脇毛をかかれてたのはバロスので、俺は関係ないですけど」
 と、歯を見せて笑った。
「バロスは大激怒だろうな…」
「ええ、それはもう。……大尉のところに逃げてきてると思ったんですが」
「俺のところではすぐ見つかると思ったんだろうな。まあ、俺のほうでも探しておく」
「ありがとうございます。では、失礼しました」
 ピッ、と綺麗な敬礼をしてレイニーは部屋から出て行った。ドアが閉まってすぐに走り出す音が部屋まで響いてきた。
「さて……」
 ミルズはあごに手を当て、少し考えてから部屋を後にした。


「なんですかー隊長」
「やはりここか、
 ミルズが一本の木の下に来た瞬間、上から声が降ってきた。レイニーが探していたの声である。
「レイニーとバロスが探しているぞ」
「あはは。見つかりましたか」
「もう見つかってるのは知っているんだろう?」
 は異常に耳がいい。建物から少し離れた木の上という場所でも、建物の内部に誰がどのあたりにいるか大体足音で分っているだろう。ゆえに今まで一度たりともつかまったことがない。
「結構傑作だと思ったんですがねー。隊長はご覧になりましたか?」
「いや。なんとなく想像はついたからな」
「それは残念。毛しかかかなかったのがポイントなのですが」
 そのが狙っていたポイントもレイニーから聞いてなんとなく分っていた。

 それほどまで彼女のことが分ってしまうのは、おそらく自分が思っている以上に彼女のことが愛しいからだろう。


「はい?」
「降りて来い。いつまでもそこにいるわけにはいかないだろう」
「そうですね。この枝もミシミシいってますし
「……なに?」
 バキッ
 ミルズが聞き返すと同時に、の乗っていた枝が音を立てて折れた。
 も想像以上に折れるのが早かったのか、受身の態勢が取れていない。
ああぁぁぁあぁあああぁぁぁぁ〜〜〜!!?
「くっ!」
 背中から落ちてくるを、ミルズが受け止める。少々高い位置から落ちたので衝撃もそれなりだったが、さすが“ジェノサイド”というべきか、なんとか倒れることなく支えきった。
「あ、ありがとうございます…」
「まったく…。なぜ折れそうな枝にいつまでも座っているんだ」
「いや、結構太かったので、平気かと」
 落ちてきた枝は確かに太かった。を支えるには十分の太さであったろうが…。
「太ったか?」
「失敬な! あの過酷な訓練で太れる人がいたら見てみたいですよ!!」
 ハッ、と言ってからは唐突に自分の状況を理解した。これは俗に言う

お姫様抱っこというやつか…!

 見る見るうちにの顔が真っ赤になっていく。
「ぉお、おろしてください隊長!」
「あ、ああ…」
 の慌てっぷりにミルズは思わず手を離す。
 は簡単に軍服の汚れを落とし、赤い顔のまま敬礼した。
「助けて頂き、ありがとうございます。追っ手が近くまで来ておりますので、わたくしはこれで失礼いたします!」
 ミルズがなにか言う前には立ち去った。そのすぐ後、バロスが通りかかり、逃げたことを伝えるとすごい勢いで追いかけていった。
 二人がいなくなったあと、ミルズの顔に浮かんでいた穏やかな笑顔を見たものは、誰もいない。



 “戦女神”と“戦場の死神”の、戦場以外での一日。



いまいち不完全燃焼。
ミルズ少佐とレイニーの可愛らしさが微塵もでてないなぁ。
設定としては一巻よりも前というカンジで書いています
('05/8/26)