またも変換少ない

「ウゼぇ!!」



 バン、とは勢いよく思い切り机をこぶしで叩いた殴った。
「どうしたの、? 何事?」
 こぶしを震わせ怒りを露にしているにも関わらず、今にも夢の世界へ旅立って行きそうな目に、友達のは怯えを通り越して呆れを覚えた。
「だって、聞いてよ!」
 はもう一度机が折れんばかりの勢いでこぶしを振り下ろし、怒りの理由を話し始めた。
 ここ数日、屋上へ昼寝に行くたび、必ずといっていいほど一年の流川楓の枕になっていた。屋上の中心で大の字になって眠っているの太ももを勝手に使っていびきをかいて眠っている姿は、いっそ爽快でもあったが、逆に腹も立つ。
 一言いって使われるのもイヤだが――つまり起こされるわけだし――目が覚めたときに足がしびれているというのはとてつもなく不快だ。
「しかもいくら殴っても起きないし、一昨日なんて身じろぎすらなかったんだから!」
 ――あいつ、だんだんなれてきてやがる…!!
 そうして頭を抱えると、は机に突っ伏した。が、の意外な一言にもう一度勢いよく頭を上げることとなる。
「ていうか、なんでそんなうらやましいことになってんの?」
「……はぁっ!?」
「いや、一年の流川くんでしょ? バスケ部の」
「部活なんて知らない」
「そりゃそうか。知ってたらそんな風にいうわけないもんねぇ」
「で、バスケ部とうらやましいがどう関係してくるの?」
 心底嫌がっているのか、うらやましいというところを妙に強調してくる
 はそれを苦笑いで返し、流川の人気を教えてやる。

「……る、……!?」
「そ。そんなのがあるぐらい有名な子だよ」
「あ、あああありえん! ヤツのどこがそんなにいいんだっ!?」
 はドモリまくって全力否定する。そしてダラダラ冷や汗まで流し始めた。そこまで信じられないことなのだろうか。
にとってはうっとうしいだけだからね…。でも、本当にしらなかったの?」
「興味ないわ、あんなヤツ! くそう、どこがいいのか5文字以内10文字以上で述べろっ」
「……それは述べるなっていいたいのい?」
「そうともいう」


 そんなやりとりをしてから一週間。その日から昼寝の場所を少し変えた。
 暖かいを通り越しすでに暑いという表現がふさわしくなってきた今日この頃。屋上は日陰も緑もないコンクリートむき出しで、昼寝には向かない季節になってきた。…が、屋上でもただ一箇所だけ真夏でも昼寝に快適の場所がある。
 それは貯水塔の裏である。位置的にちょうど大きく影が出来、風通しも抜群にいい。こちら側は日が当たらないから塔自体も比較的ひんやりとしていて気持ちがいい。おまけに、屋上の入り口から完全死角という利点まであるのだ!
 流川は一年だからまだ場所を知らないのだろう。最近では一応見に来てもすぐに帰ってしまう。
 ようやく快適な昼寝時間が戻ってきた。

――と、思ったら。

 膝の上に、頭が乗っている。もう見慣れた腹の立つ後頭部だ。例のごとく気持ちよさそうに寝息を立てている。
「……見つかった……」
 は頭を抱え、がっくりとうなだれた。
 それから気合を入れて殴るためにこぶしに力を入れ、大きく振りかぶる。
「…うぅ…ん……」
「!」
 突然、流川が寝返りをうった。思わずこぶしがその場で止まってしまう。
 寝顔を見るのは初めてだった。いつも後頭部を見せて眠っているし、見てやろうなんて思ったこともない。
「……なんだ、寝てればかわいいじゃん」
 スヤスヤと眠る寝顔にはあの生意気そうな色はなく、素直に端整な顔を受け入れることが出来るような気がする。
 振り上げていた腕を下げて顔を撫でてみる。憎らしいほどスベスベの肌はとてもさわり心地がいい。そのまま頬を滑って髪を梳くと、これまた腹立つほどサラサラのストレートな黒髪が重力にしたがって手から頬へと落ちる。
(男にしとくにはもったいないな。しかも、きっとこれで手入れなんてしてないんだろうなー)
 女の子は苦労してるのに、と口の中でつぶやく。
 頬をつついていると、うっすらと流川が目を開けた。殴っても目を覚まさない癖に。
「起きた? 殴っても起きないのにちょっとつついただけで起きるんだね」
「……くすぐってぇ」
 寝起きのかすれた声でかすかに返答があった。ちょっとだけセクシーだな、と思ってさらにつつく。
「…髪…」
「む?」
「どうせなら撫でてくれ…。気持ちいいから」
「ヤだよ。寝かせたいわけじゃないし」
。………センパイ」
 流川の言葉に、は軽く驚く。

  名前、教えてないのに…?

「わたしの名前、なんで知ってるの?」
「……バスケ部の、彩子センパイに聞いた」
 あぁ、とうなづく。
 彩子とは同じクラスだ。そこそこに仲はいいと思う。宮城とも同じクラスだが、話したことはない。
「そういえばバスケ部だっけ。…で、なんでわたしの名前なんかに興味持つわけ?」
「……」
 が聞くと流川は少し眉間にシワを寄せながら視線をそらした。
「言いにくいなら、いいけどね」

「…“さん”とか“先輩”ぐらい付けろよ」
 とがめる様なの言葉を無視して、流川はの頬へ手を伸ばす。
 意外な攻撃に少し驚いて思わず身を強張らせる。顔とは正反対のゴツゴツと硬い流川の手は、なんだか妙に気持ちよかった。
「……一度しかいわねーぞ」
「一度だけ聞いてやろう」


「ここで初めて見たときから、気になってた」

「つまり?」

「……好きだ、


 流川の真剣な視線がに刺さる。
 はそれを笑って受け止める。
「そっか」
「ん」
「じゃあ、わたしが授業に行きたいときに起きてくれるなら、専用の枕になってしんぜよう」
「……善処する」
「よし、がんばれ」
 が微笑むと、ちょうど気持ちのいい風が二人の間を通り抜けた。


「あ、


 ……風が流川の呟きをともにさらって行ったのなら、この後鈍い打撃音がすることはなかっただろう。



あー、よかった。後編の後半は何とか甘めに。
なんだか僕の書く主人公は男らしいor暴力的で甘くなりにくいですな。
でもラストはこんなシメ。
('05/9/1)

彩子さんの名前、間違えてた…。
(修正 '05/11/29)