thought of glass1
同じ日に同じお腹から生まれて、同じ顔をして同じ身長で同じ重さで同じ声で同じ色の肌と髪。
僕たちは三つ子で、見た目もそっくりで、違う事があったとしたらそれは僕だけだった。
上の二人が一卵性双生児で、僕だけ違う卵の子。
違う卵のはずなのにとてもそっくりで、よく似た兄弟というには似すぎていた気がする。
でも、あの頃の僕たちはそのすべてがかけがえのないものだった。
『ー、ー! 早くこいよ!!』
『早いよ。もう少しゆっくり行かないとが』
『ああ、そうか。ごめんな』
『大丈夫だよ、、。僕だって一緒にいけるよ』
『あ! !! 走ると危ないよ!?』
『平気だよ〜! は心配しす…』
キキィィッ!!
『『っ!!!』』
−Thought of glass−
「――っ!!」
僕は“あの日”の夢を見て跳ねるように飛び起きた。全身に大量の汗をかき、“あの日”から伸ばし続けている長い髪が肌に張り付いてなんともいえない気持ち悪さに顔を顰める。
「はぁ、はぁ……っはぁ………」
荒い呼吸を整えながら髪をかき上げ、すぐ隣にある鏡に映る自らの姿を見てさらに気分が悪くなった。
――情けない面だ。
吐き気がするほど、ひどいひどい顔だ。
元々そう綺麗な顔でないが、こんなにも情けなくて酷い顔をしているのは“あの日”の夢を見た後だけだ。
……ああ、そうか。
もうすぐ……。もうすぐ“あの日”だ。
あれから6年。
――僕が口をきかなくなってから6年だ。
僕はのろのろとした動作で布団を退けた。その時同時に時計を見るといつもより一時間も早い。心の中で大きくため息をつきながら髪を結う。結うといっても後ろの低い位置で一つにまとめるだけだ。よほど絡まっていないかぎり櫛も入れない。
制服にも着替え、鏡の中の自分の顔へ手を添える。
起きた時のまま。 情けない、顔。
(この顔で、こんな表情は、してはいけない)
ふっ、と夢を振り切るようにいつも通りの無表情を作り上げた。このほうが先ほどの顔よりはずっとこの制服にふさわしい。
都内でも有数の名門校。
――――氷帝学園の制服に。
朝食を取り、顔を洗って忘れ物がないかを確認してから家を出た。早く起きた分早く出ることになったが、家にいてもしょうがないからたまにはいいだろう。
いつも通っている道だが、いつもと違う時間のせいか少し表情が違う。車の通りは少ないし、元気よく挨拶をしてくる小学生も、僕の顔を見るたび気の毒そうな表情を浮かべるおばさんもいない。
都内ではその名を知らぬものがいないほどのマンモス校、『氷帝学園』の名を掲げた門をくぐり校内へ入った。
やっぱり学校にも人はいない。運動部の朝練はあるようだったが。
――ドンッ!
(おっと)
「あ、わりぃ」
後ろから突然衝撃を感じ、少しふらつく。聞き覚えのある声に顔を上げると、去年同じクラスだった宍戸が息を切らしてこちらを見ていた。
「ちょっと急いでて……。、大丈夫か?」
よほど急いでいるのだろう。運動部で体力のある宍戸がこんなになっているのは体育でも見たことない。おまけにYシャツも裏表だが、その辺は黙って見送ろう。
僕が頷くと、宍戸はもう一度『悪いかった』といって走り去っていった。向かった先はテニスコート。どうやら部活に遅れそうだったようだ。
「……?」
宍戸がぶつかって来た衝撃で肩からズレ落ちていたカバンを背負い直したとき何かが地面に落ちた。拾ってみてみるとそれは鍵だった。僕の鍵ではない、とすると宍戸のものか。これが家の鍵なら今日中に返せばいいが、もし部室のロッカーの鍵なら今頃失くして困っている頃だろう。(大きさ的に家の鍵のような気がするが、この学校は一般人の常識から逸脱していることが多々あるので安易に判断できない。)
「……」
――テニス、か。
仕方ない。テニスとはあまり関わりを持ちたくなかったが返しに行くぐらいはいいだろう。
一度鍵を握り締め、テニスコートへ向かった。
……そういえば、学校のテニスコートへ行くの初めてだ。
(うわっ、なんだこれ……。)
初めて来たテニスコートは驚くほど広く、完璧なまでに整備されていた。
うちのテニス部は強いと聞くし、氷帝ほどの学校ならばこのぐらいで当然といえば当然なのかもしれないが、中学レベルでここまでやるものか、普通……。いや、この学校に『普通』という言葉が存在しないということは3年間で学んだはずだ。
……とにかく、さっさと宍戸を探して用件を済ませよう。
テニスから、一刻も早く離れるため。
幸い、宍戸はすぐに見つかった。他の部員と明らかに違うオーラを放つ連中の中にいたからだ。
宍戸の方は僕に気付いていないだろう。ならばこちらから近づいていくしかない。
(お邪魔します)
心の中のみでそういってなるべく邪魔にならないよう目的の方へ向かう。
それから、あまり『テニス』を見ないようにして。
ボールが跳ね、ラケットが風を切り、打球を放つインパクト音だけでうずいてくる体を少しでも押さえつけるために。
「――危ない!!」
「!」
黄色の丸い物体が僕の顔面をめがけて飛んできていた。それがテニスボールだと気付くのに、時間は必要無い。
ドクン
心臓が波打ち、脳からの指令が行く前に体が動く。
パシッ。
乾いた音を立て、テニスの硬球が手の中におさまった。
懐かしい、感触。6年も前に手放した、忘れたはずの手触りと重みと、思い出……。
「……!」
「!」
宍戸の声でハッとした。
慌てたように走ってくる宍戸と、可愛い顔をした背の高い2年生。
「大丈夫か、おい! 長太郎のスカッドサーブを素手で受け止めるなんてお前馬鹿だろ!!」
「す、すみません!! 俺ノーコンでッ!! 怪我は! 手を!!」
キョトン、というのはまさしくこの状況だろう。僕の顔の筋肉は微塵も動いていないだろうが、この擬音を自分に使ったのは始めてだ。
確かにすごい威力の球だった。スピードと重み、中学生でこれだけ打てればたいしたものだろう。しかし僕の手は無傷だ。痛みもないし、痺れだってない。第一あのまま顔面に食らっているほうがよほど馬鹿のように思える。
僕は人差し指を己の口の前へ持ってくることで騒ぐ二人を制し、それから長太郎というらしい二年生の手にボールを、宍戸の手に鍵を置いた。
「え? あ、俺の……。まさか、コレを届けにわざわざ?」
「……」
僕は自分よりも高い位置にある頭二つに手を置き、ゆっくりと撫でた。
口をきかなくなってからの、挨拶代わりみたいなものだ。もちろん、年上にはやったりしない。
撫でていた手を下ろし、呆気に取られている二人に手をふって、テニスコートを後にした。
なんとなく、後ろ髪引かれるような気がしたが、気のせいだと自分に無理やり言い聞かせた。
――驚いた。なんだ、アイツは。
「宍戸。何者だアイツ」
「え? ああ、去年同じクラスだった、。朝練来る前校門のところでぶつかって、そん時落とした俺の鍵をわざわざ届けてくれたらしい」
……? 聞いた事ねぇな。
鳳のスカッドサーブを素手で軽々受け止め、尚且つ無傷。それほどのヤツなら名前ぐらい記憶しているはずだ。しかも男子生徒であんな長髪のやつが印象にも残ってねぇとは。
「何や跡部。気になるんか?」
「当然だろ、あーん。それとも忍足、テメェは気にならないと口が裂けてもいえるか?」
「いいや、俺も興味津々やで? それにしても今日は自分エライ正直やないか」
ふん。その言葉そっくりそのまま返してやる。
しかし、遠目だったが体格はかなり小柄なほうだろう。樺地みたいなヤツが受け止めても驚きなのに、どこに筋肉があるのか不思議なほどの体で平然と……。
「宍戸、他に知ってることは?」
「他? んー……」
俺が先を促すと、宍戸は後頭部を乱暴にかきながら唸り始めた。
同じクラスだった宍戸でも思い出すのが難しいほど印象が薄いらしい。
「成績はかなり悪いらしいって噂は聞いた事ある。あと見た限り体育とか苦手みたいだったけど…。アレを見る限りではそうでもなさそうだよなぁ」
もしくは運動はできなくてもパワーだけはあるってか?
ハッ! あのハイスピードの球を目で捉え確実にキャッチするヤツが運動できないはずないだろう。
「あと、それから」
「極端に無口だよねー。〜」
「慈郎」
今まで寝ていた慈郎が目を覚まし、大欠伸をしながら目を擦っている。
慈郎の発言に、宍戸が気付いたように言った。
「あ、そっか。お前今と同じクラスか」
「そー。結構話しかけるんだけどねぇ、首振るぐらいしかしてくれない。氷帝で声聞いた事ある人いないんじゃない〜?」
身体的障害がある生徒はいないはず。ならば性格上の問題か。
なんにせよ、なかなか面白いやつだ。退屈しのぎぐらいはできるだろう。
「?」
昼休み、お弁当片手に教室のドアを開けた瞬間、すぐ目の前から疑問系で声をかけられた。
俯いていた顔をあげると、見覚えのある整いすぎた顔が僕を見下ろしていた。
このクラスには僕と同姓の人はいないし、明らかに僕を見ているので僕に用事があるのは明らかだったが、如何せんこの氷帝一の有名人・跡部景吾とは微塵も関わりがない。何のようなのか見当もつかない上、突如現れた帝王に注がれるついでの視線が痛い。
念のための確認に一度自分を指差すと、跡部はいちいち優雅な動作で「フンッ」と鼻を鳴らした。普通だったらただ苛立ちを覚えるところだろうに、絵になると思ってしまうのはなぜだろうか。ああ、だから、この学校に普通は存在しないんだって。
「お前以外にいねぇだろ。慈郎、コイツで間違いないな?」
「Zzzzzz」
寝てるよ。
それを見た跡部がわざとらしく舌打ちし、それから品定めをするような目で僕のことを上から下、下から上へ見ていく。居心地の悪さはこの上ないが、目的が見えない以上下手なことはしないほうがいいだろう。
「ついて来い」
「……」
え?
跡部は一言いってさっさと歩いていく。
ついて来いって……いったよね? 聞き間違い……ではなさそう。
どうしよう、僕についていく理由も義理もないんだけど。
……睨んでるし。状況がよく飲み込めていないがついていくしかなさそうだ……。
あとあがき
連載が終わったためし、一回しかないけどやっちゃった。
とりあえずメイン跡部で。これから進んでいくのかよく分からないところで切りますが、進めます。(ぇ
ていうか、元々この設定誰にも見せるつもりなく書いてたものです。そして相手は手塚でした(笑
ネタ切れしてきたんで昔の掘り返して(これは中学ぐらいの……痛)書いていこうかなぁなどと。
(思えば3年勢が『先輩』だった時代もあったなぁ。)
できれば5話ぐらいでまとまったら理想的(何
ハチャメチャ設定ですが、お付き合いいただけるとうれしいです。