thought of glass1
なんか、よく分からないが……。
……うん、やっぱり考えてもよく分からないや。
あれから跡部に連れられるまま(よく考えたら、跡部様御自ら迎えに来てくださるとはすごいことだ)校舎内を進んでいくと(みんなが道をあけてくれるという状況を初体験した)どういうわけかテラスへついた。
中に足を踏み入れ、一番奥の一番日当たりのいい席、純白のテーブルクロスが眩しい丸テーブルの上には豪勢な料理がズラりと並べられていた。これが跡部の昼食だと気付くのに一瞬必要だった。だって、昼食……お弁当とか給食レベルじゃない。ここはどこぞの三ツ星レストランだ、と声を張り上げて問いたかったよ。
跡部が定位置につくと、いつも付き従っている体の大きな2年、確か『樺地』といったっけ? 彼がイスを引き、そのイスに跡部が当然のごとく腰を下ろす。
いや、だから、ここ、学校だろ? 普通じゃないっていっても限度あるだろ?
思わず一回周りを見渡してここが校内であることを確認してしまった。まあ、当然のごとく間違いなかったけれど。
ふと、そこでようやく跡部と樺地くん以外に人がいることに気がついた。
(確か、この人テニス部の……)
僕の視線に気付き、メガネをかけた関西人はにっこりと笑んだ。
「跡部、が固まってるで。席を勧めるぐらいしたらどうや?」
「ああ…。勝手に座ってるようなやつがいるからな、忘れていた。――樺地。」
「ウス」
跡部に名前を呼ばれた樺地くんは跡部の向かい、今僕が立っているところから一番近いところのイスを音も無く丁寧に引いた。それから無言で僕を見、大きな手でイスを示した。
――す、座れとおっしゃるのですね?
高級レストランとか行かないから驚くよ……。僕は民間人なんです……から。
とりあえずお礼程度に樺地くんに会釈をしてから席に着く。なんとなく緊張して背筋が伸びるが、誰でも突然非日常的な事態が起きれば緊張するであろう。
つれてきた張本人である跡部を見ると、ナフキンを膝の上に広げていてすでに食事する体勢が整っていた。ちなみに忍足はとっくに始めています。
「……さて。まず、今朝は部員がすまなかった。怪我はないと聞いているが後から痛みとか違和感はないか?」
(……今朝?)
思わず首をかしげる。気にしていないことに関しては驚くほど記憶力がないので思い出すのに時間がかかる。時々時間をもらっても思い出せないことがあるが、それは別の話だ。
部員、朝……。跡部……ああ、忍足とはテニス部つながりか。ということは長太郎という少年の放ったサーブの話だろうか。
僕は軽く首を横に振り、なんとも無いことを伝える。
すると跡部の片眉が上がり、瞳には新しいおもちゃを見つけた時の子供のような光を浮かべていた。彼のその感情が掴めないのと、僕の中の『跡部像』とその瞳が一致しなくて少々戸惑った。
「ホンマか? ちょっと見せてみい?」
ミネラルウォーターを飲みながら手を差し出し、忍足が言う。逆らうことも必要も理由もないし、僕は素直にボールをキャッチした腕を忍足の手に置いた。
忍足は僕の手首や肘を色々な方向へ動かし、僕の変わらない表情を窺いながら筋肉を触ったりした。その触り方や、度の入っていない伊達メガネの向こうからこちらを窺う目なんかよりも、一見男らしくて綺麗な忍足の手が肉刺だらけであることに驚いた。僕の腕を滑るたびに硬い皮特有の感触が僕の脳髄を刺激する。
ラケットを毎日何百と振り続けることで出来たもの。
それはとても、心地よくて とても懐かしくて
とても不快なものだった。
『っ!!!』
「――!」
バッ!
突然聞こえた声に動揺し、僕は忍足の手から逃げるように勢いよく手を引いた。忍足のクールな顔が驚きで崩れていたが、そんなことを気にしている余裕はない。
あの日の夢を見たのは今朝だ。
ならばあの夢は今の僕への警告か――。
(分かってる。分かってるから。もう、ラケットは握らない。僕にテニスをやる資格なんてない)
目を閉じ、自分の感情を揺さぶったものを振り切るように一度音が出るほど拳を強く握った。
「……どうした?」
「!」
「やはり……痛む、か?」
跡部が突然様子の変わった僕を窺うように問いかけてきた。覗き込むその顔に浮かぶ不審な色を隠そうとせず、真っすぐに僕を見ている。何があってもにも折れないであろう強い意志を感じさせる目が苦手だと思いつつ、右目の泣きボクロが妙に妖艶な色気を醸し出す綺麗すぎる顔を見ていたいとも思った。
僕は心の中で自分の馬鹿馬鹿しい思考を鼻で笑い、跡部の問い掛けには曖昧に首を振ることで返答した。
どう受け取ったのか、跡部は「そうか」とだけ短く返し、乗り出していた体をイスの背へ預けた。
細い、と思った。
折れそうな手首や忍足の手のひらにすっぽりと収まるの手。体の大きさから考えても、かなり小さくか弱く見える。
これはそう、まるで……女の骨格…?
「まあ、確かに異常はないようやけど。でももし違和感とかあったらすぐに言ってや?」
忍足が言うと、は無表情で小さく頷いた。顔を隠すような長い前髪がゆれるが、表情は呼び出したその時から微塵も動いていない。目は見ているようで何も映していないし、唇は横一直線に閉じられ言葉一つ紡がず、眉さえピクリとも動かない。
が、しかし。
忍足の手から逃げる少し前ぐらいから心が揺れるのを感じた。声を掛けると元に戻っていたようだが、それでも確かに変化はあったと確信している。
(そして、理解した)
何故この無表情で無愛想な男にこんなにも興味をそそられるのか。
確かにこの細さでスカットサーブを受け止めたのはすごいといえる。正直近くでこいつを見た今の方が受け止めがたい事実で、そのぐらい衝撃的ではあった。が、それだけといえばそれだけだ。俺様の興味対象となるにしては不十分も甚だしい。
俺はを揺らしたい。
理由は分からないし、大して興味もないが、のダイヤモンドのように硬く氷のように冷たく閉ざされた心をぶち壊したいと思ったのだ。
姿を確認した瞬間に、そう。
何も映さない瞳、音の届かない耳、すべてを否定している肉体。
その硬く冷え切った心に波紋が描かれた時、
俺はたまらなく興奮した。
心臓を鷲掴みにされたような激しい動悸。柄にも無く、呼吸の仕方も忘れた。
そして、の本当の顔を見たくて、心の底を感じたくて、身震いさえした。
のすべてを知りたい。
恐らくこの気持ちはテニスコートから始まっていた。
(本当に、柄じゃない……)
まさか、この俺様が一目惚れとは――。
「ククッ……」
「? どないした、跡部?」
「なんでもねぇよ」
忍足の問い掛けにそう答えるが、笑いが止まらない。
怪訝そうに眉間にシワを寄せる忍足と、無表情で首をかしげる、それからなにやら悟ったように無言でいる樺地がちぐはぐでさらに笑いを誘う。
「――さ、いい加減に食べないと時間なくなるな」
男だろうとなんだろうと関係ない。
絶対に、お前のすべてを曝け出してやるからな。
覚悟して置けよ、。
あとあがき
途中、こっちが跡部についていけなくなりました。(ぇ
勝手に走って行っちゃうからもう道がズレるズレる。
予定してた話と全然違ってきちゃったよ!
でも修正するの大変なんでそのまま行きます。なるようになれ!(待て。