thought of glass1




!」
 帰ろうと廊下をのんびり歩いていたら聞き覚えのある声に呼び止められた。振り返ると、大きなスポーツバックを背負った宍戸が手を上げて僕の方へ歩いてきていた。すぐ近くまで来ると、お互いにどちらかともなく歩調を合わせ歩き出す。
「今朝の、ホントに大丈夫だったか?」
「……」
 跡部や忍足といい、そんなに衝撃的だっただろうか? 反射で受け止めただけなんだけども。
 僕がなんでもないことを示すために手を握ったり開いたりすると、宍戸は安堵のため息をもらした。跡部たちとは違う裏のない真っすぐな反応に、なんだか僕の方も安心する。
「よかった。時間がたってから痛みが来るって事もありえるからな。長太郎もすげー気にしてたんだぜ?」
 なんか悪かったかな……。大丈夫だってことをちゃんと本人に言ったほうがよかったか。跡部から伝わるか、今からなら宍戸からも伝わると思うけど、そんなに気にしてるなら直接見せたほうが安心するかもしれない。明日にでもクラスを調べて会いに……
「なあ、今からテニス部にこいよ。長太郎もちゃんと謝りたいって言ってたし」
 ……テ、テニス……?
 ――正直、行きたくない。
 今までは無意識下で避けてたから大丈夫だったけど、今日行ったらダメだったから。まだあんなに未練があるなんて、自分でも驚いた。
 だから極力関わりたくないんだけど、明日長太郎少年のクラスを探すという労力と会いにいくという余分な時間を消費しなくてすむといえば……すむ。いや、その程度のことなら消費してもいいんだけど。
 ……それにしても、なんでこんな急にテニスと関わりが……。

ガシ。

 ん?
「んじゃ、さっさと行こうぜ! 練習に遅れちまう!」
 ちょ、ちょっと待っ……! 僕、行くなんて言ってないし!! おまけに廊下走ったら危ないって〜〜!!






 宍戸の手を振りほどけないまま、連れて来られたテニスコート。今朝見た風景となんら変わりなくて、やっぱり胸がざわめく。ここまで未練タラタラだったとは、驚きを通り越してすでに呆れだ。もう、何年にもなるというのに。
 ……それにしても、すごい部員の数だ……。この中からレギュラーに選ばれる確立っていうか、狙うのって大変だなぁ。
「あれ? ?」
 あ、羊。じゃない、芥川。
 ……芥川、テニス部だったんだ。そういえば今日の昼休み跡部に呼ばれてたっけ。それにしても、トランクスみたいなシマパンだ。
「何々? なにやってんの? 見学?」
 芥川の問いに、僕は首を横に振った。
 正直、芥川は苦手だ。いつもいつも僕のことを気にかけて話しかけてくれるが、僕は答えることができない。それが申し訳なくて……。
「じゃあ、誰か探してるの? 呼んでこようか?」
!」
 僕が首振りで返事をしようとした瞬間、ナイスタイミングで宍戸が戻ってきた。
「悪い、長太郎のやつ、なんか呼び出し食らってるらしくてまだ来てない。もう少し待ってくれ」
 マジデ。なるべく早くここから立ち去りたいのに。
 宍戸、お前……。長太郎少年に僕を連れてくるって言ってないだろ。
「あ〜。今朝のこと?」
「おう。長太郎がちゃんと謝りたいって言ってたから捉まえてきたんだけど、タイミング悪かったな」
「じゃ、一緒に待ってよ。そういうことならしょうがないC〜」
 ここで……? それはイヤだな…。
 顔には出ていなかっただろうが、思わず一歩後ずさりをしてしまった。テニスコートに居たくないという感情がそのまま足に伝わってしまった結果だろう。
「……? あ、もしかして用事あったか?」
 いや、と正直に首を振ってしまった。このとき嘘でもでっち上げて帰っておけばよかったのに。
 ……でも、嘘ついたり他人に迷惑かかったりするなら、自分が犠牲になる。自分を優先するなんて、絶対に絶対に許されない。
「ねぇ! あっちのベンチに座ってなよ。レギュラーはあっちのコートで練習するからさ」
 今度は芥川に手を引かれ、コート内へ足を踏み入れた。
 前に芥川、後ろに宍戸。なんだか逮捕されて連行されるみたいだなんて思いながら目的の場所へ行くと赤毛のおかっぱヘアーと目が合った。向こうは不思議そうに首をかしげて僕の後ろにいる宍戸の方を見た。
「誰?」
「ほら、今朝の」
「今朝? ……あ〜ぁ! 鳳の!」
 どうやら、朝の一件で僕はテニス部限定有名人になってしまったようだ。顔だけではピンと来なくても内容を言えばすぐに結びつくような。このままここにいると顔と名前、クラスまでも知れ渡ってしまいそうだ。
 おかっぱ君は好奇心いっぱいの目で僕をみる。隣にたって上で手を振ったり……。何やっているんだろう?
「俺とあんま変わんねぇじゃん。よくあんなことできたよなぁ」
 どうやら先ほどのアクションは僕と背比べをしていたらしい。
 適当な相槌のつもりで軽く首を傾けると、意図が分からなかったのか、おかっぱ君も首をかしげる。軽く流してくれればよかったんだが……。
「宍戸さぁん!」
 突然大きな声がして、その場にいた宍戸以外の者も声に反応して振り返る。
 樺地くんよりは劣るが、中学生にしては大きい体と銀髪猫っ毛を揺らして走ってくる少年は間違いなく長太郎くんとやらだ。恐らく僕がいることを聞いて急いできたのだろう。
「遅ぇよ、長太郎」
「すみません。俺ももっと早く来るつもりだったんですけど……」
 長太郎くんは宍戸に頭を下げてから大きく息を吐いて僕の方をみた。それから眉で見事なハの字を作り、深々と勢いよく頭をさげた。
「朝は本当に本当にスミマセンでした!!」
「……」
 よほど急いできたのだろういささか着崩れているジャージと下げられた頭から本気で謝っている空気が伝わってくる。
 僕は元々怒ってなどいないから、軽く肩を叩いて顔を上げさせる。
 長太郎くんは腰は曲げたまま首だけ動かし、上目遣いで僕を見上げた。見た目よりも硬い髪に指を通し、ワシャワシャと撫でるとようやく僕が怒ってないことが伝わったらしく、ゆっくりと頭を上げた。
「お怪我はないと聞いていますが、本当に大丈夫ですか?」
 コクン、と軽く頷く。
 すると長太郎くんは人懐っこそうな可愛い笑みを浮かべた。
「よかったな、長太郎」
「はい! 宍戸さん!」
 二人のやりとりを微笑ましく思いながら見ていると、不意に視線を感じた。誘われるように気配をたどると、芥川が何か言いたそうな視線を向けていたので先を促すように首をかしげる。
 いつの間にやらベンチの真ん中を陣取っていた芥川は自分の隣を勢いよく叩き、満面の笑みで僕に座るよう訴えて始めた。正直さっさと立ち去りたかったが、いつもかまってくれる芥川にはなんだか逆らえないので大人しく従う。適度に距離を置いてベンチに座ると、芥川は童顔な可愛いでニィと歯を見せて笑った。そして


ゴロンッ


「!?」


 勝手に俺の膝を枕にして
「ぐ〜……」
 2秒で寝た。
 俺が無表情で固まっていると、隣から宍戸の大きな笑い声が聞こえてきた。
「やるなぁジロー。固まってるなんてはじめて見たぜ!」
 笑い事ではない。
 これでは帰れないどころの話じゃない。何ゆえにいきなり膝枕……。
 えぇい、いい加減笑いを抑えろ宍戸!!





「……なにやってんだ、お前等……」





 あまりに唐突で経緯の読めない状況を見て出た言葉には『呆れ』しか含まれていなかった。いや、含めることが出来なかったというべきか。
 笑いの止まらない宍戸はむせながら俺を見、は無表情だが困った空気をまとって俺を見上げている。そのの膝に頭を乗せて眠っているのは……慈郎か。
「部外者が入っているというのはこの際置いておいて……。とりあえず説明しろ」
「えぇっと、宍戸さんがさんを俺のために連れてきてくれて……」
「丁度帰るところを捕まえたんだ。長太郎がちゃんと謝りたいって言ったら来てくれたんだよ」
「……普通は謝るほうが出向くもんだろ……」
 俺様がさらに呆れながらそう口にすると、ダブルスコンビはウッと一瞬詰まった。
「あ、いや、ほら。上級生のところってなんだか行きづらいだろ?」
「行きづらいところにも行くのが謝罪ってものだろうが。まあ、俺様は感じたことがないから分からん感情だな」
 とりあえず、事情はわかった。膝枕も慈郎がほぼ無理やりやらせているのだろう。
 は起こす気があるのかないのかいまいち分からない力加減で慈郎の肩を叩いている。その振動は心地のいいものらしく、慈郎の眠りはますます深くなっていく一方だ。
 俺は一度深く息を吐いてからと慈郎の前に立ち、慈郎の頭を蹴り上げた。

 ゴッ!!
 
 ドサッ
 鈍い音がして、慈郎が地面に落ちる。その場にいた全員が青い顔をする中、だけがいつもどおりの無表情だ。(ちっ
「痛たた……。いきなり何すんの〜」
 いや、こいつもいつも通りか。
 アレだけ強く蹴られておいて『痛たた』で済む耐久力はなんだ。その力を別の方向へ回せ。
「部活中に寝転げてるからだ。しかも人を枕にして」
の膝すげぇ寝やすい」
 エヘヘ、と慈郎は笑い、に抱きつく。ムカついたので今度は拳骨をお見舞いしてやった。
「……なんや、今日の跡部暴力的やん」
「黙れ無駄メガネ」
無駄ちゃうわ!! 伊達メガネやっちゅーねん!!」



「何をしている、お前たち」




 いつの間にか現れていた忍足の突っ込みに割り込むようにして監督の低い声が響いた。
 全員がぎこちない動作で監督へ視線を送る中、この空気を作る元凶となった低音がまた状況を変えた。
「……?」
「…………」
 親しげに監督がの名を口にする。
 先ほどとは違うすばやい動作で部員全員がと監督を交互に見た。監督の不思議そうな顔も、驚いたような声も、この三年間で初めて見聞きする。
「理由はわからんが、いい機会だ。――跡部」
「はい」

と試合をしろ」

「――!」
 いつもいつもこの人の行動には驚かされるが、今日はまたすごい。
 今朝のことでに興味はあったが、まさか試合をしようなどとは思ってもいなかったし、ここでが断固拒否していなかったらこれからも思うことはなかっただろう。



――それにしても、そんなに首がもげそうなほど振らなくてもいいと思うんだが……。

 










あとあがき
半分以上寝ながら書いてます(氏
文章おかしいなーとか、支離滅裂なこと言ってるよ、とか思ってもスルーしてください。
もしくはこっそりと拍手にて。(笑
それにしても、もっと続けるつもりだったんですが…。
ちょっと長くなりそうなんで、微妙なところで止めます。