マイナー連載スタート(笑

Phantom


 ――2年。わたしは2年間こことは違うところにいた。

  いわゆる、『異世界』というところ。

 そこには“平和”なんてものは存在しなくて、あるのは血と悲鳴と硝煙の匂い。

  だけど、不思議と嫌いではなかった。

 仲間がいたし、好きな人もできた。人を殺すのはイヤだったけど、それなりに楽しかったのは事実だ。

  …………別れは、突然だった。

 わたしは好きな人を裏切るよういわれ、即答で拒否した。

  断れば命はないといわれたが、あの人を裏切るぐらいなら死んでも良かったし、
 
 平和ボケしていたわたしが軍人としてこの世界で生きてこられたのは彼のおかげだ。

  彼に出会わなければとうに無くなっていた命など、少しも惜しくなかった。

 でもこの危機を知らせなくては、裏切り者を彼に教えなくてはと思い、駆け出した瞬間

  腕を捕まれ、耳元でささやかれた。

「――残念だよ。君のことは嫌いじゃなかったが……さようなら」

 ドン、と窓から突き落とされた。

  落ちていく感覚に、不思議と恐怖はなかった。

 あったのは、裏切られた絶望と、教えられなかったという無念だけだった。

  ……目が覚めた場所は、2年ぶりに見た、己の部屋の天井。

 軍服のまま、わたしは涙を流して自分のベッドで眠っていた。

  2年前の小さくなった服に着替えて居間へ行くと、母が朝食を作っていて、父が新聞を読んでいた。

「……おはよう」

 声を掛けるとはじかれた様に振り向く両親。

  フライパンそっちのけで抱きついてくる母と、絶句したまま新聞を握り締めている父。

 聞くと、わたしは1年間行方不明になっていたそうだ。

  どうやら向こうとこちらでは半分程度時間の流れが違うらしい。

 と、すると、帰ってきてから1ヵ月強。あちらではもう2ヶ月以上の時が経っているのか…。



  はランニングを終え、家の中に戻った。
 シャワーを浴びて汗を流し、制服に袖を通す。鏡の前で一通り制服をチェックし、敬礼。襞の多いスカートが、なんだか不恰好でおかしかった。
 は現在17歳。高校入学の直後に異世界へ飛ばされ、帰ってきたときは当然出席日数が足りなくて留年。特に不満はなかったが、体感年月的にはすでに18。周りの幼さについていくのが大変だった。中学、高校の2年の差というのが大きいものだと改めて実感した。
「いってきまーす」
 妙な話だが、軍人生活に慣れきっていてこっちの平和な世界になれるのにもかなり苦労した。「いってきます」という一言も、なんだかのん気でおかしくて未だに笑えてくる。
(けど、これが“幸せ”なのだと思う……)
 あちらではとにかく生きて帰ってくることしか考えていられなかった。何度死ぬ思いをしたか知れない。戦場へ出かけるのに、あんな楽観的に挨拶なんてできない。
「……大尉、元気かな……」
 無事だといい、元気に暮らして、生きていてくれたら。帰ってきてからそればかりいつも祈っている。
 バシッ
! いざ尋常に勝負!!」
「……またですか。剣道部主将殿?」
「当たり前だ! 剣道部主将であるわたしが1年だったお前にああも簡単に負かされて黙ってなどいられるか!!」
 は受け止めた木刀をあさっての方向へ投げながらこれ見よがしにため息をついた。チラ、と目の前にいる主将殿を見てからその脇を通り過ぎる。
「逃げる気か、!!」
「逃げるも何も、やる気がないだけです」
「なにぃ!?」
 所詮学生の部活。……といっては悪いが、実際の戦場で、本物の軍隊で訓練してきたにとって、剣道部主将であっても相手ではなかった。たとえその人が全国区の実力の持ち主でも。
! 剣道部に入れ! お前、それほどの技術を持ちながら惜しいと思わないのか!」
「思いません。だって、わたしの力は……」
 振り返って、口角が上がっていくのがわかる。目を細めて、相手を射抜く。
 ビクッ、と相手が後ずさったのを確認してからまた踵を返して学校へ向かった。


(わたしの力。それは、そう)

――彼のためだけに、あるのだから。


(…とは思っているものの、この平和が続けばいいと思ってるのも事実なんだよね)
 どこの世界でも同じ真っ青な空を見あげながら、ため息が漏れた。
 平和はいい。ようやくコレが日常になりつつある今、平和に甘んじていたいと思う。
 それでも尊敬し、愛したあの人にもう一度でいいから会いたいとも思う。
(……あの人が、生きていればの話だけど)
 簡単に死ぬ人では決してないが、もしかしたらとっくに処刑されているかもしれない。
 そうしてまた、祈るように目を閉じるのだ。

 フワッ…
「……って、うぇ?」
 いきなり身体が浮いたような感覚に襲われる。いや、浮いたのではない、落下している。
「ええぇえええぇぇぇぇえぇぇええぇぇぇ〜〜〜〜!!!? 何事―――!!?」
 唐突すぎる状況にパニック状態に陥る。戦場で精神は鍛えられていたが、こんな予想外すぎる予想外の出来事に冷静に対処できようか。
 カッ
 突然目の前が白く光った。と、同時に頭に鈍い痛み。
「……ぶ、ぶった…。無様にも、見事に、受身すらとれず」
 涙目になりながらぶつけた部分を押さえて起き上がる。
 周りをみると、もうボロボロになった住居が確認できた。ボロボロといっても自然とそうなったものではない。火器や銃器でなったものだ。
「……な、に……。ここ…?」
 呆然とつぶやくが、頭のなかは冷静だった。“二度目”の経験と軍人としての観察力のおかげだろうか。
「…銃撃戦の音がする。――これは!」
 耳を澄ませて周りの状況を確認する。
(SAA!? FR−A4“バルメ”か。いや、正確にはそれのカスタムタイプ!)
 戻ってきてしまったことを確信したことと、近くにいるSAAの戦場で聞きなれたものとは微かに違うその音に、は眉間にシワを寄せる。
 レギウム軍に所属していた当時の自分と敵対するドラグノフ軍の主力としていたSAA“バルメ”。いくつも破壊をしてきたが、これは……。
(機体の性能もあるが、操者クラダーの実力も半端じゃない。SAAはおろか武器すら持たない裸同然のわたしが敵う相手じゃない)
 どうする、と心の中で自問する。敵わない相手に対しては“逃げる”という道しかないだろう。しかし、このサーモプロテクトなどされているわけもない学校の制服ごときではすぐに見つかってしまう。
(……というか、すでにロックオンされてるし……)
 建物の壁に張り付きながら、自然と流れてくるいやな汗をぬぐった。
 キュインッ
 関節の作動する微かな音を漏らすことなく聞き取り、は身をかがめて建物から離れるよう跳躍した。直後に大きな爆発音と壁の崩れ落ちる無残な音と土煙。すぐに動けるようは起き上がって体勢を立て直す。
「……今のを避けるか」
 姿を見せたSAAを見て、は目を見開く。
(あのエンブレム、COBRA!? うっわ、最低!! しかも107って書いてあるー!)
 どうりで半端じゃないクラダーなわけだ。は相手にわからないよう小さく舌打ちをした。
 ドラグノフ最強のSAA特殊部隊COBRA。中でも107戦隊とは市街戦に特化された部隊で、超軽量化されたSAAを纏い、市街戦では無敵を誇る。目の前にいるCOBRAも、耐弾性能よりも機動性を重視して徹底的に軽量化されたバルメのカスタム機を装備している。
「……わたしは一般人です。あなたに攻撃される理由がありません」
「ふっ。先ほどの攻撃を避けておいてよくもそんなことがいえるものだな。本当に一般人ならとっくに死んでいるはずだ」
「……ごもっともで……。でも、元・軍人であって、今は除隊されているはずなのでやはりわたしは一般人です」
 の言葉にCOBRAが目を細めた。銃口はに向けられたままだが、すぐに撃つつもりはないらしいことに気づき、は相手を観察し続ける。
 ――ふと、エンブレムの描かれている左肩とは逆の肩の装甲の数字に気がついた。
「……まさか、カーレル・シュワンツ…!?」
 言葉にしてしまってから、慌てて口を押さえた。しかし、一度口にした言葉が戻るわけもなく。シュワンツの引き金にかけられた指の力が心なし強くなっているのを見て、自分の信じられない失態に泣きそうな気分になった。
「……現役のときはこんな失態しなかったのに……」
「どうかな。しかし、ここまでマヌケな軍人も珍しい」
「だから、一般人ですって」
「除隊して勘が鈍ったとでも? 甘いやつだな」
 無理もないだろう。除隊してもこの世界で過ごしていたのならまだ緊張感もある生活も送れただろうが、戦争などないのん気な国で過ごしていたのだから。
「だが、俺の名を知っているということはそれなりに戦場を生きてきたということか。友軍ではなかったようだし、ここで消しておくか」
 ドンッ!
 シュワンツは問答無用で突然引き金を引いた。無論、殺すつもりで狙っていたが、間一髪が避けるほうが早かった。
「な、なにするんですか!!」
「ほぅ、とっさに避けたか。身体の方は鈍っていないようだな」
 ドンドンドン!!
「!」
「……」
 今度は正確に避けられた。一発スカートにかすってその部分が焦げたが、身体は無傷なのだから問題ない。
「まさか全弾避けられるとはな…」
 再装填しながら、シュワンツは目の前の女を見つめなおす。お世辞にも軍人をやっていたとは思えないような幼い顔。しかし、目だけはいくつもの死線を潜り抜けてきた者の色をしている。
「面白い女だ。殺すには惜しいな」
「……言ってることとやってることが違いますけど」
「そうだな」
(わかってるくせにこの人!)
 キッ、とが睨みつけると、シュワンツは口の両端を少し上げて踵を返した。
「……え?」
「見逃してやる。次の作戦もあることだしな」
 シュワンツは攻撃する手立てがないことも分りきっていて、に背を向けてその場を立ち去った。
 しかし、のほうは
(……なんか、舐められた? 馬鹿にされた…?)
 シュワンツの態度に肩と拳を怒りで震わせていた。
「畜生あのドンガメ!! こちとらレギウム軍最強の特殊部隊レッドアイズジャッカルの一員だぞ! COBRAごときに情けをかけられて黙ってられるか――っ!!」
 叫んだ後、武器を調達すべく行動に移った。


「こんなものかな?」
 は奪った銃器、ナイフの具合を確認しながら身に付けていく。
 COBRAの、シュワンツの居所は分っていた。武器を調達しつつ、一定の距離を保ちながら後を付けていたし、他のバルメが集まっていたのも確認済みだ。
(それにしても、地下通路とは……。逃げるには最適のつくりだな、ここは)
 少しずつ進みながら暗闇に目を慣らす。SAAを装備しているのであればそんなことする必要はないのだが。
(近い。すぐそこにいる!)
 は銃を構えながら目の前にいるCOBRAへ向かって叫ぶ。
「見つけたぞこの野郎!! よくも舐め腐ってくれやがって! 見逃したこと後悔…さ、せて……」
 はシュワンツを指差した状態で固まった。
 気づけばSAAが他に2機。シュワンツをあわせた3人でこちらもキョトンとしている。
 背中に、またいやな汗が流れ落ちた。




多分気が向いたときにしか書かない連載スタート(ぇ
微妙に主人公のキャラがつかめていません。ただミルズ大好きっ子にすることは間違いないですが。
ていうか、まだミルズとの絡みないし。コブラメインってなにさー?(涙
しかもちょっと年月の間違いを見つけたので書き直したせいで文章がおかしいところがあるかも…。

せっかくなんでちょこっと用語集でも書いてみたり。(知らない人多いでしょうし。知らない人は読まないでしょうが)
●SAA
 Special Assault Armorの略。特殊強襲用装甲。またはそれを装備した兵士のことをいう。正式には機動重装歩兵というらしい。
 パワードスーツ的なものをイメージしてください
SAA特殊部隊レッドアイズ・ジャッカル
 当時のレギウム軍最強の特殊部隊で、グラハルト・ミルズが隊長を務める機装兵集団(?)
 こちらの世界へトリップした主人公がミルズの推薦で配属されたところでもある。


('05/9/18修正)