社会人は大変です
苦手極まりない。かも
本当に唐突だが、わたしには苦手な男がいる。
――いや、この言い方だと少し語弊がある。だって男の人は基本的に苦手だし。
苦手、といっても表面上にはあまり出ていないと思う。普通に目を見て会話はできるし、嫌いではないから。
だが、どぉぉぉぉしても駄目な人が一人だけいる。
それは我会社の、とある支店の支店長だ。
その支店は営業成績No1。しかも支店長がその人に代わってからTOPへ上り詰めたという、すごい人なのだが……。
なにぶん……。
プルルルル……プルルルル……
あ、電話。――って、ゲッ!! この短縮番号は…!
「……はい、桃源株式会社、西事業所です」
『――玄奘だ。だな?』
なにぶんエライ偉そうなのだ……!!
そしてこの重低音が怖いのよ…。
「そうです。お疲れ様です、玄奘さん」
『ああ。で、用件なんだが……』
「はい。……あぁ、はい、かしこまりました。いま調べますので、少々お待ちください」
保留ボタンを押し、とりあえず電話を置いて一つため息をつく。
正直、このぐらい自分のパソコンからこっちのシステムにアクセスして調べて欲しいものだ。わたしだって暇ではない。というか、むしろ日々忙しい。
「もしもし、お待たせしました。えーと、ですね……」
『……わかった』
ブチッ ツーツー……。
切るの速ぇよ!! そして礼の一言でも言ってくれ!
「さん、また玄奘さん?」
「そうなんですー。わたしこの人苦手なんですけど……」
わたしが困ったように言うと聞いてきた同じ部署の人が、だろうね、と苦笑した。
「結構高圧的だしね、玄奘さん。でも玄奘さんの方はさんのこと『得意』みたいだけど」
そうなのだ。
実はわたしは少し前にこの部署に配属されたばかりで、正直言ってまだ分からないことのほうが多い。なのに玄奘支店長はわたしを名指しで指名し、電話をかけてくる。しかも席にいないときにはまたかけ直してくる。わたしじゃないと分からないことなんてないのに、だ。
「最近なんてさんが社内を回る時間覚えちゃったみたいだしね。よっぽど急ぎの用じゃないかぎりその時間にかけてこないよ」
「そうそう、それに絶対電話は毎日かけてくるじゃないか。西に来るのも頻繁だし」
ええ。そうですね…。前は毎日電話なんてかかってこなかった。たずねてきた回数もかなり多い。一回もあったことがない営業さんが多い中、玄奘さんだけにはもう数回会っている。この短期間で。
「玄奘さん、かっこいいんですけどね…。見目麗しいことこの上ないんですけどね…」
「確かに。内でも外でもすごい人気だよ、あの人は」
「でもわたしは怖いんですっ! あの低いステキ☆ボイスが怖いんです!!」
「……でもステキだと思うんだ……」
……最初見たときは、なんて綺麗な人なんだろうと思った。
始めて会ったのは……配属されて一週間目のことだったか。
「さん、こちら玄奘さん。たしか、電話では話したことあるでしょ?」
「はい。始めまして、こんにちは。です。まだまだ至らない点が多いと思いますが、これからよろしくお願いします」
「……玄奘三蔵だ。そうか、お前がか」
(すでに呼び捨てだ……)
なんとなくびっくりしながら会釈。顔をあげると深い紫色の瞳と視線がぶつかった。
まぶしい金色の髪と綺麗に合わさってるな、なんて的外れなことを思っていたような気がする。
突然玄奘さんの方が視線を外し、課長と話を始めた。
(わたしの挨拶は適当にスルーかよ)
とも思ったな。名前言い合っただけだもん。
――そういえば、それからか。毎日電話がかかってくるようになったのは。
「まあ、がんばって。気に入られるのはいいことだ」
「…正直遠慮申し上げたい。電話あると仕事できないし」
「まあまあ。そういわない。電話も仕事の一つでしょう」
いいたくもなる。
……でも、ちょっと間違ったぐらいじゃ怒らないんだよね、玄奘さんって。そこはありがたい。
これで怒ってクレームもってこられたら泣く。あの声でいわれたら泣く。絶対泣く。自信あるね!!(悲しいかな)
気は短そうなのに意外と長いのかな…?
そんなこんなでしばらくたち、何とか仕事にも慣れてきた。相変わらず玄奘さんから電話は毎日かかってくる。
が、今日は土曜日。怖い怖い玄奘さんの声を聞かなくてすむ。
……怒られたことないのに怖いってナンダロ……。
(しょうがないよねー。怖いもんは怖いし、一回もった印象はそうそう変えれないよ)
コトン、と持っていた商品を棚へ戻した。
欲しいものがあって買い物に来たのはいいが、店についたら何を買いに来たか忘れた。
最近よくあるんだよなぁ…。年か……? もしくは仕事のストレスか。いや、両方か!
(……それにしてもなにが必要だったかさっぱり思いだせん。余分なもの買っても仕方ないし、帰るか)
カバンを持ち直して、颯爽と出口へ向かう。途中自販機で飲み物だけ買うことを決めて、サイフだけはいつでも出せるようにしておく。
「このっバカ猿!!」
ビクッ!!
大きな怒鳴り声が聞こえ、思わず足を止めた。妙に聞き覚えのある声だったので、そちらの方を見に行くと
玄奘さんがいた。
会社の人によく会うと思っていたが、まさか支店の人にまで会うとは…。
しかも声聞かなくてもすむーvって思ってたのに…。
「だって三蔵! 腹減ったんだもん!!」
「“だもん!!”じゃねぇよ! さっき食ったばかりだろうが!!」
「まあまあ三蔵。店内でそんな大声出したら他のお客さんに迷惑になりますから落ち着いて」
「迷惑になるだけならいいけど、追い出されたらたまんないぜ?」
…玄奘さんのお連れさんだろうか。
こんなに麗しい人々が揃っているなんてありえるのか……。
「チ……」
あ、出た。舌打ち。
「じゃあ、俺なんか食いに行ってくる!」
「はいはい。試食コーナー全滅させないでくださいね」
「するに決まってんだろ……」
……試食コーナー全滅……。なんて面白い響きなんだ。
――あ。……なんか、顔。
やっぱり会社と違って、“表情”がある。
ちょっと、楽しそう、かも…。
「じゃあ三蔵、僕も自分の買い物済ませてきます」
「俺も。ったく、たまたま行き先が一緒じゃなかったら野郎四人で買い物なんてごめんだぜ」
「ふんっ」
(声も楽しそう。そりゃ仲間といるときと職場じゃ違うよね)
それに私服だからか。なんだか新鮮だ。……ちょっとかわいいと思ってしまっても仕方ないだろう。
バチッ
――ギャー……。目が合ってしまった……。向こう超ビックリしてるし。
「こんにちは、玄奘さん」
「……ああ」
挨拶したはいいが、会話が…っ
「……買い物か?」
――続かないと思っていたけど、すごい、向こうからふってきた。
「あ、はい。とはいってももう帰ろうと思ってましたけど」
わたしがいうと、玄奘さんは常に寄っている眉間にさらに深いシワを刻んで怪訝そうにわたしを見た。…うん、買い物が済んでいるようにはみえないだろう。
「……何を買いにきたのか忘れちゃったんですよ……」
「――バカか?」
「!!! 酷っ! そりゃ自覚ありますけど、人にいわれるとグサッときますよ!」
ズバッとものを言う人だな! 他人にバカかって冗談抜きでいわれたの初めてだよ!
「――フッ」
わっ……
笑った……!!
わたしの言葉でっ さげすむ笑いじゃなくてっ
うわうわうわっ!!
「……? どうした?」
「い、いえっ! その、笑顔が素敵だなぁ、と」
「!」
今度は玄奘さんがビックリする番だったようだ。
どうしよう。真剣にかわいく思えてきた。
「なんか、かわいいですね」
「……」
ヤバ。多分コレは地雷だった…。一気に眉間にシワついた。
基本的に男の人に“かわいい”は禁句か。
「えっと……その……。会社で会うときとは雰囲気違うな、って意味で」
「……当たり前だろ。会社でもプライベートでも同じでいるわけねぇだろ」
偉そうなところ以外はね。
「だってそうだろうが」
「それはそう、なんですけど……。んと…意外に話しやすい、といいますか」
「あ?」
しまった、余計なこと言った! フォロー入れたつもりが墓穴掘っちゃったよ…。
ここまでいったらぶっちゃけるべきか?
「その、正直いって玄奘さんのこと苦手だったんですけど…。さっきお友達と話してる顔みてたらイメージとちょっと違うかなぁ、って」
「ダチじゃねぇ。下僕だ」
「ゲボ…ッ!?」
「変なところで切るな」
「ああ、すみません。……どこまで話しましたっけ……。ああ、そう、それで結構表情豊かだなと思いまして。今もこうポンポンと会話が続くとは、みたいな」
つまりはすべてが意外だといいたいのだけど、それを口にしたら拙いような気がするからやめておこう。
「最初からこのぐらいお話できてたらもっとよかったのに。そしたら怖いなんて思わずにすみましたよ」
「……怖かったのか?」
「ええ。でも、もう大丈夫です。……うん、結構玄奘さんのこと好きかも」
「……!」
「あ、もうこんな時間! すみません、このあと用事があるので。失礼します」
用事っつーか、アニメみたいだけだけどね!! もともとさっさと帰るつもりだったから録画予約してないんだよ!
「さーんーぞーう」
「! な、なんだ」
「見てましたよ。誰なんです、あの子」
「……同じ会社の、事業所のヤツだ」
「へー。同じ会社の?」
「なんだその目は」
「三蔵、今の子好きなんですか?」
「っ!!」
「おお、図星か。三蔵のあーんな顔見たことねぇもんな」
「〜〜〜〜っ殺す!!」
ナンダコレ。
ダメだな、ちゃんと考えて書かないと(いつも言ってる気がする)
しかもこれ、仕事でいっぱいいっぱいの管理人がもしも癒しがいたならば、
と思って書いたやつですしね。大体苦手としてるから癒しじゃないしね。(致命的
そしてこの社名はどーなのよ?(笑
ところで『エライ』って方言ですか?
だとしたらわかんない人結構いますよね? 『すごい』とかそういう意味です。
あ、新年一発目の夢じゃん。……こんなのかよ(笑
('06/1/29)