聖なる意思-3
聖なる意思
「へえ、あそこがスクッサか。大きな街ね」
小高い丘の上に立って少し遠くに見える街を見つめるメイア。
金色の髪が風になびいて1本1本が日の光に照らされて輝いている。
あの衝撃的な事件から一週間。あれから何事もなく二人のたびは順調に進んでいた。
唯一、この旅の目的である欠片の手掛かりすらもつかめていないことを覗けば、だが。
しかもあれから一度も襲ってこない霧の一族。ここまで静かだと逆に不安だ。
≪考えてても仕方ないだろ。それにお前の疲労は俺にも影響を及ぼすんだ。さっさと街にいって休むぞ。
たく、肉体てーのは不便だな≫
そう、メイアの体を借りている(というか勝手に乗り移っている)ウィルにとってこれほど不都合な事はなかった。
今まで“疲れ”というものを知らなかったウィルは疲れを感じると常人以上に不機嫌になる。
いくら体力と運動能力に長けているメイアでも、自分の中に世界単位の強大な力を宿すというのは容易な事ではない。
通常の旅よりも体力を消費して当たりまえなのである。
だがこの一週間そんな勝手な言葉にメイアは文句一つ言わない。
それどころか、体力がついて丁度いい、などと余裕を見せたりもしている。
「でも昨日は驚いたわよ。いきなり夢にウィルが出てくるから」
「・・・あれ?ここはどこ?霧が深くて・・・」
「メイア、ここはお前の精神世界だ」
あたり一面真っ白な中に、一人の男が立っている。
振り返ったメイアは怪訝そうに顔をしかめて、その聞き覚えのある声を懸命に思い出そうとしていた。
「・・・って、ウィル?」
「そうだ。・・・気がつかなかったのか?」
闇のように黒く短い髪と黄金色の瞳。背が高くて、中肉と言うよりは少しばかり細い。
顔は整っているが、切れ長の目はとても世界を見守っているようには見えない。
そもそも・・・。
「世界の意思に性別なんてあったんだ?」
「いや。人格が“男”のほうに片寄ってるらしくてこの姿をとらせてもらっただけだ。何もないところに話し掛けるよりもこっちのほうが話しやすいかと思ってな」
「それはどうも。・・・それにしても私の心ってなんにもないというか、曇っているというか・・・」
メイアはウィルから視線をそらして辺りを見回した。
最初に見たときと何一つ変わらない景色。今もウィルが見えるだけで他は何も見えない。
「そりゃな。お前記憶喪失なんだろう?少しでも思い出せば多少晴れると思うけど」
「ああ、そうだった。・・・で、何かようなの?」
そう切り出したメイアにウィルは腕組みをしながら軽く息を吐いた。
「すこし、話し合っておこうと思ってな」
「? 別に昼間でも話そうと思えば話せるでしょう?」
「〜〜〜だ、か、ら。こっちのほうが話しやすいだろう?それに昼間じゃ独り言みたいに口に出るし、いつ聞かれてるかも分らないからな」
「そうか。でも寝言いわないかな・・・」
すこし不安そうなメイアに大丈夫だろう、と適当に返事をした。
むしろ寝言でもそうたいしたことは言わないだろう。
「で、これからなんだがどうする?欠片の気配も遠くてよくわからないし、手掛かりもない」
「ああ、そのことなんだけど。あと半日程度のところにスクッサっていう大きな街があるはずなの。とりあえず今はそこに向かってるんだけど」
「ああ、わかった。じゃあスクッサに向かうということで、いいな」
「ええ。・・・それにしても、1度別れた魂の欠片をもう一度集めないといけないなんてね」
世界のバランスを正すには今までの糧を壊して再度造りなおす必要があるのだ、とこの間聞いた。
「俺だって好きでこんな事するか。・・・さてと、今日はここまでだな」
「え?もう?」
そうメイアが言うとウィルは一瞬だけキョトンとした表情になった。
「寝てる間にも頭使うのは疲れるだろう?ま、話していたいのなら別だが」
口端を少しあげたウィルにメイアは笑った。
くすくす、とメイアは思い出すようにもう一度笑う。
≪そんなに笑うな≫
「だって。まさかあんなこという人だとは思わなかったんだもん」
≪まあ、人じゃないし≫
「そこは突っ込むところじゃないよ」
ウィルの言葉にメイアが素早く突っ込む。
なんだか眠っている時よりも頭の回転が数倍速い気がする。
「・・・・・・なにかしら・・・?」
メイアは先程まで笑っていたのが嘘のように鋭い視線で街を見た。
妙な違和感を感じる。そう、人の通りがまるでない。
門に続く道を歩いていて、今はそう早い時間でも遅い時間でもないのに、誰一人として周辺を歩いていないのだ。
「!! 誰か倒れてる!!大丈夫?どうしたの?」
メイアは苦しそうに横たわる10歳前後の少女を抱きかかえて優しく声をかけた。
少女は咳き込み、辛そうに瞳を動かしてメイアの姿を確認する。
艶のない真っ黒な髪と瞳は命の輝きを感じさせない。
「苦し・・・い、よ・・・ゴホ!ゴホゴホッ!!・・・助・・・けて・・・」
メイアは少女の真っ赤な顔と酷い咳、それから頬にある大きな痣を見て驚きを隠せないように呟いた。
「これは・・・伝染病だわ」
≪伝染病?≫
「ええ、ブランディス病、と呼ばれるものよ。この病は結構性質が悪いわ。最初は風邪程度の症状しかでないの。それから徐々に進行していって高熱と咳、吐き気。最終的には体の機能がどんどん失われていく病気よ。・・・この痣が病気の特徴なの」
そういってメイアは腰のバックに手を入れて水筒を取り出す。
喉を湿らせる程度に少女の口の中にゆっくりと水を流し込んだ。
少女はそれを飲んで少し咳が治まったようだったが、すぐに飲んだ水を全て吐き出してしまう。
それを見たメイアの表情が曇る。
「あなた、名前は?家はスクッサ?」
少女は頷き、口を弱々しく動かした。
「・・・ラ。・・・名、前・・・セラ・・・」
「セラちゃんね?大丈夫、安心して。私は魔導薬師。貴方を助けるわ」
メイアはセラを優しく抱きかかえて立ち上がった。
そのメイアの行動にウィルは素早く口をはさむ。
≪おいちょっと待て!俺たちは寄り道している暇なんてないんだぞ!?こんなことに・・・≫
(もともと行くはずだった街に行くんだから問題ないでしょう。それにこの子はもう末期の状態で危険なの。・・・もっとも、街のほうもこんな感じでほとんど機能してないでしょうけど。それと)
≪・・・なんだよ?≫
(最後の言葉、気に入らない。しばらく話し掛けてこないで。)
ウィルはたった一言でメイアを怒りの頂点にまで追いやった。
文句を言わせない、と言ったような恐ろしく低い声にウィルはそれ以上何もいえない。
門に近づいてきたとき、既にセラはメイアの腕の中で眠りについていた。
家を出る時に調合してきた即効性の薬が思わぬところで役に立った。
とはいうものの、飲ませた薬は単なる咳止めでブランディス病のワクチンではない。
眠る事は出来ているが、真っ青でつらそうな寝顔である。
門の側まで行くと、兵士二人と一人の女性がなにやら言い争っているのが見えた。
「・・・!!・・・・!」
まだ遠くてよくは聞こえないが、近づくにつれて会話が鮮明に聞こえてくる。
「お願いします!!娘を探してください!娘も病気なんです、死んでしまうわっ・・・!」
「えぇい、近寄るんじゃない!そういうお前も病にかかっているのだろう!我々に伝染するっ去れ!」
「お願いです、お願いします!!」
その三人の言い合いを見ていて、メイアの機嫌はさらに降下する。
兵士の言葉を先程のウィルの言葉に重ねてしまう。
イライラを押し殺してメイアは兵士に縋りつく女性に声をかけた。
「娘さんとは、この子ですか?」
「え・・・? ッセラ!!」
セラの母親は叫び声を上げて近づいてメイアの方へ駆け寄ってきた。
真っ青な顔だった所為か、死んでいると思ったのだろう。
よほど焦っているのか呼吸している事にも気付いていないようだ。
「大丈夫。眠っているだけですよ」
「・・・そうですか、ありがとうございます・・・」
メイアの言葉で母親の顔から緊張した張り詰めた表情が消える。
が、母親が喜んでいる間もなくメイアに兵士が声をかけた。
「住民を助けてくれたことは感謝する。しかし、ここには何もない。もてなしは出来んぞ」
むしろ・・・、と言葉を続けようとした兵士を、メイアが制する。
「むしろ伝染る、と仰りたいんでしょう?大丈夫、平気です。それよりこの子を早く寝かせた方が良い。家は?案内してください」
「あ、はい。こっちです」
母親はメイアを先導して門の奥へと消えていった。
それを追いかけるメイア。その金の髪は兵士の目に長く残像を残した。
「セラは、大丈夫なんですか?」
「・・・病気は治ったわけではありません。今は一時的に呼吸を楽にしてあげているだけです。ところで、娘さんの心配もよろしいのですが、貴方も相当辛いんじゃないですか?」
メイアはセラの母親、スレラの顔色と手の甲にある斑点状の痣を見てそう訊ねる。
スレラは苦笑いをして手を斑点の無いほうの手で覆い隠した。
「咳、我慢しているんでしょう?喋り方を聞いていればわかります。うつるのが心配で我慢して下さっているのなら、それはあまり意味のない事ですよ。もうこの閉ざされた街には病原菌が充満しています。うつるのも時間の問題でしょう、だから咳をしても大丈夫ですよ」
「いや、それは・・・大丈夫じゃないのでは?」
スレラにそう言われてメイアは笑んだ。
「あはは。あ、これ。セラちゃんにも飲ませたんですけど即効性の強力な咳止めです」
メイアはバッグの中から小袋に入った白い粉薬をスレラに渡した。
スレラはその薬を受け取って、少し迷ってから水と一緒に飲んだ。
吐き気が襲うが、我慢してのどを通す。
「・・・あ・・・!」
「楽になったでしょう?まあ、時間の問題なんですけど、ないよりマシです。・・・ところで、ここに薬師はいないんですか?スクッサにはいい薬師がいると聞いたことがあるんですけど」
メイアの当然の疑問にスレラの表情が曇る。
そして、
「薬師は・・・逃げました。あの人は無免許だったんです。病気が流行りだすと、うつりたくないが為に一番にスクッサを捨てました。きっとこの病気のワクチンの作り方を知らなかったんでしょうね。・・・最後には死にいたる病です。きっと自分だけでも生き残りたかったんでしょう」
スレラは悲しそうに言った。その表情には色々な感情が渦巻いているのがメイアには見えた。
逃げた薬師に対する憎しみ、娘が病気かかって苦しんでいるのに他の街にも助けを求めに行けない歯痒さ。そして、明日死ぬのは自分かもしれない恐怖。
「・・・・・・知ってます?」
「え?」
今までスレラの表情を辛そうに見ていたメイアが唐突に言葉を放つ。
メイアはきょとん、と驚いた風のスレラを見て笑う。
「このあたりで、たくさん薬草が生えている所です」
「・・・?」
スレラは不思議そうに眉間に皺を寄せた。
まさかこんな年端もつかない少女が薬師ではないだろうと思っているらしい。
それがそのまま顔に出ていて、それがメイアには容易に読み取れた。
メイアは少し笑って、スレラに言った。
「わたしは魔導薬師です」
「えぇっ!?」
「大丈夫、ちゃんと免許もあります。さ、知ってたら教えてください。皆さんを助けたいんです」
『さっきの門を出て、東方にある山中に“星観の塔”という高い建物があります。大人の足なら普通に歩いて半日ほどで辿り着けると思います。その塔の最上階に光苔という魔力を放つ特殊な苔に育まれた薬草が生えているそうです。どんな難病にも効く強い薬草といわれていますが、実際の所はどうなのか・・・。それに、そこには光苔の魔力を喰らっているドラクルがいるとも』
『大丈夫です。一応戦えるだけの実力はあるつもりですから。・・・でも、ドラクルか』
『ドラクルはドラゴンよりも凶暴でドラキュラのように人の血を好みます。以前はこのスクッサも何度も襲われました。病が流行ってからはなくなりましたが、これでは襲われたほうがマシです』
『そんなこといわないで下さい。何のために薬師がいると思っているのですか?大丈夫、絶対治してみせます』
「・・・ここね、星観の塔。確かに、膨大な魔力を感じる・・・」
星観の塔は山の丁度半ばにポツン、とそびえ立っていた。
高く、天に向かって真っ直ぐ建っているその様はどこか圧倒されるものがある。
塔には草が蔓延り、雨風に打たれて色褪せ、酷く寂れていた。
淡い紫色の壁から微量の魔力が漏れている。その所為か周辺の雑草にも傷薬程度ぐらいには使えるものが多かった。
メイアは自分の体の二倍はあるかという大きな錆びた扉を己のもつ怪力では開けず、火薬使って扉を跡形もなく吹き飛ばした。
≪・・・もう、しばらくたったよな?≫
「そうね。で、なに?」
口調に棘があるように聞こえるが機嫌は直っている。どうやらわざとらしい。
≪あのさ、爆破したら・・・。ドラクルに気付かれるんじゃないか・・・?≫
妙に途惑ったウィルの言い方が可笑しくてメイアは笑いを堪えるので大変だった。
「気付いたら気付いた時ね。どちらにしろ居たら会うわけだし。・・・でもタイミングよかったみたい。丁度お留守のようよ」
メイアは一歩なかに足を踏み入れた。
やはり何かいる気配はまったくない。小物の魔物すらいないようだ。
塔の中は窓がない所為か真っ暗で、それでも爆発で飛んだ埃がまとわりつくのが分かる。きっと下のほうは使っていないのだろう。
「このあたりに苔はないみたいね。でも上のほうにはかなりの数があるみたい、光が見える」
メイアの視線の先にはかすかな光が漏れていて階段の上数段だけを照らしていた。
メイアは壁に手をやりながら階段をゆっくりとあがった。
塔の中はかなり面倒くさい造りになっていた。
上の階にでると、ぐるりと壁沿いに人1人が余裕をもって通れるだけの足場が低い柵とともについていて、上ってきた階段とは丁度反対側にまた上りの階段がある。
塔は横にも大きめで、一回一回の階段は短い。
メイアは思わず、時間がかかりそうだ、と溜息をついた。
メイアの予想通り、上に行けば上に行くほど光苔がたくさん生えていた。
苔は互いに会話するかのように、光ったり消えたりを繰り返している。
「だいぶ上のほうまできたみたい。もう昼間のように明るいわ」
メイアは走りながら苔を眺めていた。
光苔の発する魔力の所為かこれだけ走っていても疲労は感じない。
それどころか心地良ささえも感じる。
最上階が近くなって、それがますます強くなった。苔は隙間がないほどびっしりと生えている。
「ここが頂上ね。・・・凄い薬草の数・・・。これだけあればスクッサの人たちを救えるわ」
メイアは嬉しそうに笑って、多めに薬草を切り取った。
バックに大切にしまってから光苔も少々削り取った。
≪おい、早く行ったほうがいいんじゃないか?ドラクルが帰ってきたら町の人を助けるどころじゃないぞ≫
「そうね、行きましょう」
メイアは階段を滑るように降りていった。短い階段だからと、全部飛び降りてしまう事もあったが。
塔の中腹、丁度苔と壁とのバランスで幻想的な雰囲気になっているところに辿り着いた時、塔の真ん中を巨大なものが凄い速さで通り過ぎていった。
「!! ドラクル・・・!」
目が、合った。
ここで叫ばなくてもきっとドラクルはこちらに気がついただろう。
《人間ゴときガ、我ガ住処で何をシている・・・!!!》
頭に直接響くような低音。お世辞にも好かれそうなトーンではない。
最初から闘志剥き出しのドラクル。その姿はメイアですら息を飲むほどであった。
全身が黒よりさらに黒い闇色の鱗で覆われていて、口からはみ出た大きな鋭い牙は血生臭い。
瞳は殺した人間の血で塗ったように思わせるようなダークレッド。
そして、その背中にある鱗と同色の翼は悪魔を連想させるように鈍く光っている。
それ故にこのドラゴンは“龍公”と呼ばれているのだろう。
《我が住処ニ足を踏み入れル者は誰でアロうト許サん!!》
そういって怒りをあらわにしたドラクルは翼を激しく動かして風を起こした。
ドラクルの翼から起きた風はまるで意思があるかのようにメイアに襲い掛かった。
「くっ!!」
風がメイアの衣類と肌を切り裂いていく。カマイタチがいるかのようだ。
この塔には出っ張りもなく部屋もない。風から逃れる手段はドラクルを倒すほかはない。
メイアは両腕で顔を庇いながら何とか出来ないかと策略を練った。
いくつか思いつくものの、どれも勝ち目はゼロに等しい。
とにかく逃げることが最優先だが、それもかなり難しい。
メイアは火薬球を取り出して、足元に叩きつけた。同時に爆発に巻き込まれないよう魔力でシールドを張った。
ドゴォッ!!
《ナにっ!?》
大きな爆発で風の流れが変わり、しかも分厚い足場が崩れ落ちて下の階まで逃げる事に成功した。
床の破片をいくつも蹴り飛んで瓦礫の下敷きになるのも避けることができた。
≪おい、走っても無意味だぞ!?絶対に追いつかれる≫
「それは一階に向かって飛び降りても同じことね。わたしは空中で加速するのは難しいし、できたとしてもこの高さとスピードじゃ着地は不可能だわ」
爆薬で加速するのも可能だが爆薬の無駄づかいの上に上手いところで爆発するか分らない。
おまけにただ落下しているだけでも徐々に加速していくのだから着地は難しいだろう。
失敗すれば逃げられないどころかそこで確実に命を落とす。
「なんとかしないと・・・。ウィル、なんかアイディアない?」
≪そうだな・・・。・・・お前、魔導薬師だよな?この光苔は上手く使えないのか?≫
「苔を?」
《独リ言とは随分余裕ダナ!!》
ドラクルが目の前に立つ。
いきなり現れた為、足を止めても間合いがかなり近かった。
急いで足元を強く蹴り、後ろに跳ぶ。自分にとって都合のいいように間隔をとらなければならない。
《甘イわッ!!》
ドラクルは口を開け、鋭い牙をあらわにした。目が霞むほど酷い臭気がした。
ドラクルの口の奥、真っ暗な所に光が出てくるのが見えた。
「!!」
メイアはとっさにさらに後ろへ跳んだ。
先ほどまで足をついていたところが溶けて丸く穴があいていた。
もし直撃していたら体は溶けて真っ二つに分かれていたことだろう。
メイアは自分で体が強張るのが分かる。
―――逃げなくては。 ―――どうやって。 ―――早く動かないと・・・。
≪ッメイア!!≫
はっ
体勝手に動いて攻撃を避けたが、手袋にかすって手袋が溶けた。
ウィルの声がなければ腕は確実に消し飛んでいた。
「ごめんウィル、ありがと」
≪ボーっとしてんな、次が来るぞ!≫
《いツまデモ避ケられルと思うナッ!!》
ドラクルは攻撃の手を緩めない。それどころか着地する所を予想して光の筋を撃ってくる。
見えない攻撃に苦戦するメイア。一つ一つの攻撃が早すぎて考える暇がない。
メイアが体を縮めて攻撃を避けると丁度それが苔の生えている場所に当たった。
一瞬にして壁は溶けたが、メイアはそれで閃いたようだ。
「これだ・・・!」
≪何か思いついたのか!?≫
「ええ!と、いうより思い出したの」
《ナニをゴチゃごチャと・・・!こレで終ワリだっ!!》
ドラクルがメイアとの距離を縮めてきた。
今度は光の攻撃ではない。メイアを喰らおうとしているのだ。
メイアはその攻撃を身長の三倍以上ジャンプして避けた。そして・・・
「輝け我が力っ!弾けろ魔力!!」
カッッ!!
メイアの体から影も出来ないほどの光が放たれる。
《!?》
その不意打ちにドラクルも怯んで目を閉じた。
パン・・・パンッ・・・
何かが破裂するような音が光の中に響いている。
小さな小さな音が段々と増え、徐々に音も大きくなってきた。
最後に一回大きな音がしたかと思うと、光が一瞬で消えた。
《・・・マ、さカ・・・》
ドラクルは急に力を失ったかのように重力にしたがって落ちていった。
闇に吸い込まれるように。
「そう、そのまさかだよ。光苔は暗い所を明るく照らすよう、暗い所に生える習性がある。それともう一つ、光苔は自分達より明るい光が急に当たると近くにある魔力を吸収しようとする。何故だかはまだわかってないけどね。わたしの放った魔力はもちろん、ドラゴンなんて魔力で成り立っているような生物はかっこうの餌よ」
メイアは下に響くような声でゆっくりとそう言った。
それから、はぁ、と大きく息を吐いてそのまま膝をついた。
「・・・なんて、余裕ぶってみたけどわたしもほとんど魔力をとられちゃったわ。帰りは辛いね」
≪ほとんど賭けだったな≫
「ほんと。・・・・・・あ〜〜〜、疲れた」
≪まったくだ≫
少し休んで息を整えてから一階まで降りると埃にまみれてドラクルが苦しんでいた。
真っ赤な瞳を恨めしそうにこちらに向けてくる。
先ほどまでだったらその眼力に怯んだだろうが、地に伏したまま睨まれてもそう恐ろしいと思わない。
《・・・貴様を、切り刻んデヤりたい・・・・・》
「残念だけど、やられる訳にはいかないわ。それにわたしには重大な用があるもの」
《フん・・・。所詮、貴様など・・・街人、ノ、たメに・・・タだ無、駄な・・・殺シヲしているダけ・・・だロウ・・・》
強がっているが呼吸も辛いようだ。言葉が切れ切れに紡がれる。
“無駄な殺し”と言う言葉にメイアが一瞬眉を寄せた。
それから大きく息を吐いて真っ直ぐドラクルを見ながら言う。
「・・・・・・街一つの問題じゃないわ。わたしは世界を抱えているの」
どうしてこのドラクルに言ったのかはメイア自身にもわからなかったが、このドラクルになら言ってもいいような気がした。
妙だな、とメイアはふっと微笑んだ。
《生意気な・・・デは、貴様は・・・コノ世界の事を理解シテイるノだな・・・?》
「少なくとも、薬草に関してなら世界の意思より詳しいわよ」
≪うるさいな≫
ふふ、とメイアは笑う。
その仕種はドラクルにとって皮肉でしかない。
《ムかツク女だ。何故、そんナことが言エル》
「世界の意思がわたしの中にいるからよ」
《・・・頭がオかシイのか・・・?我等、地上に住ム者は・・・世界、の意思とはあえヌ。無論、話す事モ叶ワない・・・。霧ノ一族デさえ、やリ遂・・・げなカッた事ヲ、貴様のよウな小娘ニ・・・》
「“小娘にできるか”?・・・できるわけないでしょう」
ドラクルはその瞳に明らかな困惑の色をあらわにした。
《では、何故・・・?》
「偶然、かな」
《・・・・・・は?》
にこ、とメイアは笑う。
「だって、わたしは世界の意思の存在すら信じてなかったもの。・・・だから、きっと偶然。それとも世界の意思か。どう、ウィル?」
≪・・・・・・さぁな。≫
ドラクルは目を見開いた。急に意思の、ウィルの声が聞こえたような気がした。
そして、落ち着いてはじめて気付いた。メイアの体から抑える事が出来ないほど強い波動に。
《・・・望まナいかラ、ナノかもしレんな・・・》
「・・・そうね」
さっきとは違う柔らかな口調に、メイアは安心した。
それから少し考えるような仕種のあと信じられないようなことを口に出した。
「ねぇ、わたしと契約しない?」
ドラクルはもちろん、ウィルも言葉がないほど驚いたようだった。
当然だ。今まで殺しあっていた相手を助けようというのだから。
ドラゴンは外から魔力を得て生きる生物。魔力の高い人間と契約する事でその魔力を分けてもらうことができる。
そして魔力のかわりに契約者に強力するのだ。下僕ではない、あくまで協力者である。
《・・・ふっ、何ヲ言ッている。こンナ凶暴なドラごンを、どラクルと仇名さレル汚らわしイ「物」ヘノ情けカ?冗談でハなイ!!人間ごトきに情ケを受けルグらイなら、我は死ヲ選ぶッ!!》
「・・・・・・・・・っざけるんじゃないわよ!!!!」
≪!!?≫
《っ!!》
ビリビリ、と塔全体が揺れたように錯覚させるほど大きな声でメイアは怒鳴った。
どこかヒビが入ってないか心配になるほどだ。
≪急にデカイ声だすな!驚くじゃないか!!≫
メイアにウィルの声は怒りの所為かまったく聞こえていない。
またか、と思ってしまうのは仕方ないのだろうか。
「貴方のほうこそ命を無駄にしないでッ!!生きる道があるなら迷わずそっちを選びなさいよ!!それに、わたしは情けをかけているのは貴方じゃなくて自分自身よ。もう、目の前で少しでも分かり合えた人がいなくなるのは嫌なの。・・・ウィルの声が聞こえたんでしょう?協力して欲しいの。正直、わたし1人で解決できるとは思えない。だから1人でも仲間が欲しい、貴方なら信用できると思ったのよ。
勝手ないい分で悪いけど、貴方には生きて欲しい」
エレナの事を思い出して、メイアは少し興奮してしまった。
一気に語られてドラクルは反論も出来ないまま瞬く。
《・・・・・・妙な奴ダな。だガ気に入ッタ。・・・我も生きル事ニしヨウ》
ドラクルはそう言って目を閉じた。そのドラクルを見て、メイアは嬉しそうに微笑んだ。
「よかった。・・・じゃあ、貴方に名前を・・・」
≪名前?≫
《・・・世界の意思は無知ナノか?》
≪あぁ!!?しかも本当に聞こえてんのか!!≫
「はいはい、静かにして。今名前考えてるんだから。・・・説明してあげてもらえる?」
メイアはドラクルに契約と名前の関連性について説明してもらえるよう頼んだ。
承知、とドラクルは寝そべったまま返事をした。
《人間と我々魔物が契約スる時は契約者が友好の証とシテ我らに名前をつける。以上ダ》
≪短っ!!≫
《今ノでわカらなカッタのか?世界の意思ヨ》
≪いえ、完結でわかりやすかったです。≫
そこまでのとてつもなく短い会話の終了と同時にメイアが閃いたように顔をあげた。
それからドラクルのほうを向き、微笑みかける。
「シルヴァ。貴方の名前、シルヴァがいいわ」
メイアがドラクル、シルヴァの額を撫でた。
シルヴァの体が輝き、今までの禍々しい姿とは一変した。
闇色の鱗は白銀の毛皮になり、翼は天使のような純白な羽根になった。
瞳の赤は変わらなかったが邪悪なものは感じられない。むしろ白い体によく似合っている。
シルヴァは名前をもらうことで美しいドラゴンへと生まれ変わった。
「やっぱり、それでよかったみたいね。どう、体は?」
メイアがシルヴァの毛皮に指を通す。フワフワの体がさっきとはミスマッチで笑えた。
《ああ、なかなかいい。貴様の魔力も心地良い》
ニヤリ、と笑ったように見える。牙の名残が彼の口元を飾り立てる。
「気に入ってもらえたみたいね。わたしはオール・ティス・クライメイア。メイアと呼んでね」
《わかった。・・・しかし、クライメイアか・・・》
「ん?どうかしたの?」
メイアがシルヴァのつぶやきに首を傾げる。
しかしシルヴァは気にするな、と一言言っただけだった。
メイアは含みのある言い方に引っかかりを感じたがあまり時間も無いことからそれだけで済ませた。
「とりあえず街に帰りましょう。この薬草を待っている人がたくさんいるしね」
≪そうだな、早く行こう。こんな所に長居は無用だ≫
《我の背に乗っていけば良い。疲れているのだろう、少しの間だけだが休むといい》
「ごめんね、ありがとう」
シルヴァも死にかけてまでいるのだからそんなに具合は良くないだろうに、メイアに命を救ってもらった借りもある所為か気を使っている。
行こう、とメイアが声をかけて先に外に出た。
赤かった空が今はもう暗い。結構長い間塔の中にいたらしい。
≪・・・っ止まれ!≫
「え?・・・・・・・・・!!」
ドスッ!!
メイアが進もうとしていた所に矢が刺さる。
驚いてる間もなく次々と矢がメイア目掛けて放たれた。
正確な射撃。
メイアはとっさに愛用のナイフを取り出して、切り払い、避けながら塔の中に戻って体勢を整える。
「・・・霧の一族ね。どうしようか・・・」
その時、1人の人物の顔が頭に浮上した。
―――――― セト。
何故かは分らない。ただ、いる。そう感じたのだ。
《このままでは塔も出ることが出来ぬな。どうする、空から行く手もあるが?》
「駄目よ。そうすれば奴らは私達を追って必ずスクッサに来る。そして潰していくわ。それだけは避けなくちゃ」
メイアは真剣にシルヴァに言う。その目に先ほどの明るさは微塵も見えない。
戦う者の強さと哀しさだけが彼女の顔にあった。
≪と、なると・・・。ここで完璧に追い払うか、倒すしかないだろうな≫
「そうね。・・・シルヴァ、早速で悪いんだけど、霧の一族を惑わしてくれる?」
《どうすればいい》
「簡単よ。ただ出て行ってくれればいいわ。それと、1人か2人痛めつけて頂戴」
そう、この言葉を平然と言うメイアに二人は冷や汗を感じながらこう思った。
怖っ。
と。
シルヴァはメイアのいう通り迫力満点で塔の外へ出て行った。シルヴァの呻き声が低く響く。
ドラクルがいる、と言う情報はあってもまさか手を組んでいるとは思わなかったのだろう、混乱して陣形を崩す霧の一族。
たが、さすがに戦いなれているのかすぐに混乱はおさまってきて態勢が整ってきた。
その先頭にたって指示を出しているのが、セト。
「怯むな!たかがドラゴン、我等が相手にするのはこんなものではないぞ!!」
(さすがはリーダーね。こんな状態でも冷静に状況を見てるわ)
≪落ち着いて観察している場合か!ハッタリだとすぐに気付かれるぞ≫
「わかってるわよ。・・・シルヴァ!」
前線まで出ていて、1人2人どころか何人も痛めつけてくれたシルヴァはメイアの声を聞いて後ろに下がる。
メイアの隣りに並び、霧の一族を威圧した。
「やはりドラクルと手を組んでいたか。久しぶりだな、女」
「・・・・・できれば二度と会いたくなかったわ」
「そうもいかない。貴様には切られた腕の礼をまだしていないからな」
そういってセトは腕をかざした。月明かりで鈍く光る金属の冷たい腕が肩からつけられていた。
「そんなものいらないわよ。それに、そんな個人的な用でこないでもらいたいんだけど?」
「任務は果たすさ。どちらにしろ貴様がいては世界の意思は手にはいらんのだからな」
そう言いながらも彼の頭の中には“復讐”の二文字しか存在しないだろう。
メイアを見つめる双眸には以前のような余裕はない。
―――― コロス。
ただそれだけを考えているのだろう。
「しつこい男は嫌われるよ」
「光栄だな」
セトが一気に腕を真上に持ち上げた。それを見た霧の一族全員が一斉にメイアに向けて矢を射る。
それをシルヴァが全て吹き飛ばし、メイアが呪文を唱え始めた。
「我と契約するものよ、我の力を与えん。その力ですべてのものに制裁を下せ!!」
シルヴァの体がより一層白く輝いた。白銀の光が闇の中に映える。
「シルヴァ、雑魚の相手を。わたしが奴を倒す!」
《承知。だが、無茶はするな》
「わかってる。そっちも、頼むわよ!」
メイアは走り出しながらシルヴァに指示をだし、そのまま真っ直ぐセトへと斬りかかる。
セトも待っていたと言わんばかりに身構え、メイアの攻撃に備えた。
メイアはセルヴァの懐近くまで飛び込んでから体を屈めて地面を蹴って横に跳躍した。
そのまま後ろに回りこみ、迷わず首を狙う。
ガッ!!
ナイフを振るが、セトの義手によって防御された。
「くっ!」
先日とは違い実力がばれていて、しかも警戒されている。
実力がわかっているのはお互い。ほぼ同等の力量だろうが、この勝負はメイアのほうが断然不利だ。
今度はセトがメイアの顔面に向かって拳を繰り出す。
大振りの攻撃を読みきって避けるが、ナイフが軽くなったと思ったときにはもう遅かった。
「かはっ・・・!」
セトの義手がメイアの腹に食い込んだ。
しかし、苦しんでいる暇はない。次いで第二、第三と攻撃がだされる。
その攻撃は全て間一髪でかわし、隙の出来たところを狙ってセトに蹴りをいれて間合いを取った。
しかしメイアの蹴りは無理な体勢からのもので、たいしたダメージはないように見える。
「どうした?この間よりも動きにキレがないな。やはり世界の意思を自分の体に留めて置くのは辛いか?」
口の端をゆがめてセトがいった。その顔は少し余裕が出てきたようにも見える。
つっ・・・。
メイアの口から赤い液が一筋たれた。どうやら予想以上に深くはいったらしい。
メイアはそれを親指で軽く拭い、構える。
《メイア、大丈夫か?》
「・・・ええ、平気。大丈夫」
メイアはシルヴァの方を見ずにそれだけいった。
もはやメイアにはセトから目を離す余裕すらもないのだ。
≪メイア、無理はするな。勝とうと思うな、追い返すんだ≫
コクン、とウィルの言葉に軽く頷く。
「やはり疲れか。ドラクルと戦ったあとの消耗した体で俺の相手はキツイだろう?」
シルヴァとの戦いでそうとう疲れていて、オマケに大量に魔力も消耗している。
しかもこれを回復している暇もなかった。やはり、この勝負はメイアのほうが不利。
そしてこれがセトの余裕にもつながっているのだろう。
「見くびらないで。貴方なんかよりシルヴァのほうが数段上よ!」
「・・・コノ女が!一思いに殺してくれるわっ!!」
今度はセトが間合いを詰めた。義手の腕を全力を込めて上から振り下ろす。
メイアはその攻撃を回避し、何かを描くように腕を動かした。
空中に描いたものは魔法陣。闇の中に鈍い光を放ちながら浮き上がってきた。
メイアはバッグの中から削り取っておいた光苔を取り出し、魔法陣の真ん中に来るように投げた。
「響け、光の鼓動。宿れ、闇の息吹!我のもつ陣により、汝等の力を借りん。最高等の精霊達よ、命ずるものに力を。その特性を生かし、更なる力を与えよ!!」
メイアが呪文を唱え終えると光苔がその声にこたえるように形を変えて一層輝きを増した。
メイアはそれをセトのほうに投げて自分は後退する。
「シルヴァ、高く飛び上がって!早く!!」
シルヴァは返事する間も与えられずに一気に上空へと飛んでいった。
セトもその言葉に警戒し、光苔を回避した。
「ふん、貴様の策は失敗だったな。叫ばれれば誰で・・・も!?」
セトは義手を大地に擦りつけるようにして倒れた。
明らかに動揺していて、しかも義手は持ち上がらないようだ。
「・・・やっぱり、そうだったのね」
≪なにがだ?≫
「霧の一族は呪文を唱えないんじゃない。魔法アイテムを使ってるのよ」
ウィルの疑問にメイアが答える。
一方、セトを筆頭とする霧の一族は驚きを隠せない様子だ。
「霧の一族は呪文を唱えずに魔法を使う異種族として知られているけど、そうではない。本当はその高い技術力で魔力を特定の道具に封じて、それを何らかの形で発動させてるだけなのよ。この間の瞬間移動とさっき受けた攻撃でわかったわ。おかしいと思ったのよね、そんな軽々とつけてるのにあの重量感のある打撃。その義手も自分の思うが侭に動くように魔力が込められているんでしょう?それと、かなり軽くなるように」
メイアは地に伏せるセトを見下すように話し掛ける。地にうつ伏せているセトと立っているメイアではそうなっても仕方がないが、傍から見れば挑発しているようだ。
セトは納得いかないようで、刃物のように切り付けられそうな目でメイアを睨む。
「貴様、何をした!!あの攻撃は直撃していない、俺に大きなダメージもない!何故だ!!」
「・・・あれは光苔の特徴を利用したものよ。ただ、入れ物が破裂したら魔力を吸い取り再生するようにわたしが改良したけどね。朝陽に当たったら、すぐ消滅してしまうわ」
つまりはセトの義手から封じ込まれている魔力を吸い取ったのだ。
魔力のなくなった義手は本来の重さを取り戻し、思い通りには動かなくなる。
「くっ・・・。撤退するぞ!全員もどれ!!」
《メイア、見事だった。まさかあんな作戦があろうとはな》
「ほとんど賭けだったわよぉ。本当に魔力が込められてるなんて絶対の確信はなかったしぃ」
シルヴァの背中の上でメイアが疲れを殺したように声を絞り出した。
激しいバトルが続いた上に予想以上魔力を消費してしまったのだから無理もない。
≪お前ムチャしすぎなんだよ。少しは自分の体のことを考えろ≫
「考えてるつもりよ。あそこで光苔を使わなかったらそれこそムチャ・・・だ・・・」
メイアはそこまで言って眠りに落ちた。
翌日、ドラゴンに乗って街に現れた金髪の少女を待ち人は途惑いながらも歓迎した。
メイアは早急に薬を作って街全体に無料で配った。
セラ親子のところにも顔を出し、薬を置いていく。
全員に薬が行き渡ったところで、街に充満した病原菌を殺すために別に調合した薬をシルヴァに頼んで上空から撒いてもらった。
「これでスクッサも生き返るわ」
「おねーちゃん」
撒かれる薬を見ていたメイアは後ろから声をかけられて振り返った。
少し目線を下げると、そこには痣の消えたセラの姿があった。まだ顔色が悪いがそれは時間問題だろう。
「もういいの?」
「うん!おねーちゃんのおかげですっかりいいみたい。ありがとう、おねーちゃん!」
無邪気な子供の笑顔。どこか、懐かしい。
『お姉ちゃん!お姉ちゃん、今行くよ!』
小さな女の子。わたしはこの子を知っている。この子はたしか・・・。
「おねーちゃん?」
はっ、とメイアはセラをみた。セラは不思議そうに首を傾げ、メイアをみている。
(今、誰か・・・。・・・だめだ、思い出せない)
「ごめんね、なんでもない」
「そう?あ、あのね!みんながおねーちゃんにお礼がしたいんだって。広場に集まってるよ」
生気に満ちた可愛らしい笑みをみせて、セラはメイアを連れて広場へと急いだ。
広場は隙間がないぐらい街の人がいて、総出でメイアを迎えた。
メイアが広場に現れた瞬間から広場全体が街中に響き渡るほどの歓声に包まれた。
ある種、街を救った救世主だから当然といえば当然か。
所々からお礼とメイアを称える声が聞こえる。記憶をなくしてからほとんど1人だった為か、こういう席ではどうしたらいいのかわからずメイアは途惑っていた。
セラに手を引かれて連れて行かれている間も終始苦笑いが絶えない。
広場の中心あたりで街の責任者が来てメイアの前に立った。
「本当にありがとう御座います。どんなにお礼を言っても足りません。それで、ここまで助けていただいた上に図々しいとは思うのですが、この街に残っていただけませんか?またこのような事態になった時に心強いですし、皆で歓迎します」
メイアは軽く手を振って断った。
「とても嬉しいお話ですがわたしは先を急ぎますので。・・・ところでこのあたりでなにか妙な話を聞いた事はありませんか?」
「妙、とは?」
「わたしにも詳しくは・・・。でも、何でもいいんです。なにか突然変わったものとか、空から落ちてきたとか」
メイアの言葉にほとんどのものが首をかしげている。今まで自分達のことで精一杯だった事もあるし、何より話があまりにも抽象的すぎる。
やはりこのぐらいでは有力な情報は得られないだろう、とメイアが肩を落とした瞬間、1人の若者が「あ」と声を上げた。
「なんですか?」
その小さい声を、メイアは聞き逃さなかった。
「知りたい情報かどうかはわかりませんが、一ヶ月ほど前にここから少し行った所にあるロチェという村の近くに“聖歌の泉”と呼ばれるものが森の中にあるらしいのですが、最近その泉の水がただの水じゃなくなった、と言うのを聞きました。しかもそれが、流れ星が落ちた後だって」
≪当たってみる価値はありそうだな≫
ウィルのつぶやきにメイアが何故、と心の中だけで問い掛ける。
≪流れ星、それが重要なんだ。俺は命の欠片を空から飛ばした。だから人間達がそう勘違いしてもおかしくない≫
(そうなの?じゃあ、そっちに行って見ましょうか)
メイアは即座に踵を返し、門のほうへ歩き出した。
「おねーちゃん、もう行っちゃうの?」
セラにそういわれてメイアは足を止めて振り向いた。
軽く笑って、街に別れを告げた。
《なんだ、もういいのか?》
街の外で待っていたシルヴァがメイアたちを見て声をかける。
もう少し休んでこればいいものを、と言いながらやれやれと立ち上がった。
「ごめんね、もう少しゆっくりはしたかったんだけどかけらについて情報がはいったの」
メイアは苦笑いしながらシルヴァの体を撫でて申し訳なさそうに謝った。
《仕方がない。・・・暫し待て》
シルヴァが目を閉じる。それから両方の翼で自分の体を隠したとおもった次の瞬間にはそこに銀色のドラゴンはいなかった。
翼も消えて、メイアよりいくらか年上に見える白銀髪紅眼の男は先を促した。
「・・・どうした、行かぬのか?」
「・・・・・・シルヴァ・・・?」
「うん?・・・ああ、この姿でよく人間どもを欺いたものだ」
ニヤリ、と端正な顔がゆがむ。こう笑っても、誰も彼がドラゴンだとは気付かないだろう。
むしろその高い身長と整った顔に、黄色い声があがることだろう。
「あ、ははははは。」と、メイアは驚きのあまり笑うことしか出来ない。
それを無視してどんどん先へと進むシルヴァを、正気に戻ったメイアが慌てて追いかけた。
そうそう、しっかり服を着ていることはあえて気にしないでおく。
〜あと(あ)がき〜
うーわー。どれだけ時間かかってんだよ。書いてなかっただけですけれども。
何も言う事はありません。言ってもらうことはたくさんあると思いますが・・・。
思ったんですけど、僕が小説の更新遅いのって、一話が長いからですか?
・・・関係ないですね。飽きっぽいだけです(この駄目人間が!!
これからはちゃんとやります。がんばります。すみません。
(UP・'03・8・1)
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