聖なる意思-5
聖なる意思
「・・・・・・どうする?」
「どうしよう・・・・・?」
≪・・・どうするか・・?≫
2人とプラス1は困惑して立ち止まっていた。
メイアは地図を片手に苦笑いをしているし、シルヴァは眉間に皺を寄せてあからさまに怒りをあらわにしている。
ウィルはなにか考えているようで時折唸っているような声が聞こえる。
「・・・やはりあの胡散臭い商人から地図など買う物ではなかったのだ」
「や、地図はあってるよ。・・・多分」
「多分とはなんだ、多分とは」
えーと、とメイアは地図を見た。
「今までの道順で間違ったところは一つもないし、ここまで正確にこれたでしょ?」
ぴく、とシルヴァの眉間が一瞬動いた。
それから紅い眼を見開いてこれから行く先を勢いよく指差した。
「ではその地図にこの森は載っているか!?」
「・・・・・・載ってません」
かなりご立腹の様子のシルヴァはキバを剥き出しにしてその端正な顔をゆがませている。
「いくらここまで来れてもこの森を抜けれなければ無意味だろう!!」
「そうなったらほら、シルヴァが飛んでくれれば簡単に・・・」
「どうして今まで歩いて来てると思ってるんだ、馬鹿者!!」
(・・・・・・どうしてわたしが怒られるのよ・・・。しかも馬鹿者呼ばわりだし)
と思ったが、シルヴァの怒りは八つ当たりだということは分っているので黙って聞いていた。
もっとも、八つ当たりされるのも勘弁してもらいたいところなのだが。
「大体この森の広さも分らずに飛ばせるつもりか? 空中は無防備になる、もし霧の奴等が・・・・・・」
「ああ、その辺は大丈夫じゃない?」
「・・・なに?」
「みたところここは結構新しい森みたいだからそう広くないんじゃないかな?」
メイアは一本の木に近寄ってその幹を2、3回軽く叩いた。
その仕種を見ているシルヴァの眼は明らかに疑いの色を帯びていて表情で何を思っているのか全て語っていた。
メイアも少し困ったように丸めた地図で頭を掻いて、先ほど叩いた木を見上げた。
(そうなのよね。地図に載ってないこともあるし新参の森という事は間違いないんだけど、木が大きすぎるし・・・。何より短期間で“森”と呼べるまで木が育つとも思えない)
≪多分、かけらの影響だと思うんだが≫
唐突にウィルがそう言った。恐らくメイアの思考を聞いていたのだろう。
「かけらの? それなら説明できない事も無いけど」
説明できない事もないが・・・。
「どうして“多分”なの?」
メイアにしてみればそちらのほうが気になる。
ウィルはうーん、と一拍黙ってから自信なさそうに口を開いた。
≪一応かけらの波動は感じるんだが、それが弱いんだよなぁ・・・≫
「そうなの?」
≪ああ、多分ここにあるのは大地を司るかけらだと思うんだけど・・・。きっとそれでここの土地で植物が育ちやすくなったんだろうけど、恐らくその所為でかけらの力が散布してて・・・≫
多分、きっと、恐らく、などいまいち歯切れの悪い言い方にシルヴァは溜息をついた。
「・・・・・・使えぬな・・・」(ボソ
≪うるっせーなッ!! お前がいうな!!≫
「我は使える」(キッパリ
≪ど―――――――――っしてそこまで自身満々にいえるんだよ!!≫
「あー、はいはいはい。で、どうする? って、行くしかないけど」
「・・・行くのか?これで無かったら単なる無駄足だぞ」
シルヴァが目を細めながらメイアにそう言う。
と、いうよりメイアの中にいるウィルに対する嫌味といったところか。
「あるわよ」
「・・・は?」
「だって、そうでもないとこの木が短期間で育つわけないじゃない。さ、いこうか!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
(い、怒りが・・・!! 後ろから黒いオーラがひしひしとっ!! ウィル〜〜〜!!)
≪あ?≫
「本っっっっ当に、かけらの場所分らないの?」
≪何度も言わせんなよ。分らんものは分らん≫
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
メイアは背中にかいていた冷や汗がさらに増したのを自覚した。
背後からくる無言の威圧が辛い。
森に入ってから一時間ほど。かけらに近づいている気配も森の出口に近づいている気配もない。
森の入り口から引きずったシルヴァのイライラがそろそろ頂点に達しようとしているところだろう。
≪森全体がかけらの気配に満ちていていまいち場所がつかめない。遠ざかっているわけじゃないんだが、近づいてるわけでもなさそうだ≫
はっきりしてくれ。
メイアはそう言いたい気持ちでいっぱいだった。
「じゃあ次はどっちにいこうか。近付けてないんならこっちに向かっても無駄だし」
「・・・別にどちらに行ってもかまわんが・・・?」
いつも以上にドス低いシルヴァの声にメイアは振り返ることなく右手に進むことを決定した。
が、2人とも足を進める事は無く目の前の茂みを構えることなく凝視している。
「・・・人の気配がする」
「そうだな」
≪それにしても、こんな地図にもないようなところに人がくるのか?≫
メイアとシルヴァが顔を見合わせていると、すぐに木の陰から人影がにゅ、っと顔を出した。
「あ、人がおる〜」
「「!!!!?」」
メイアとシルヴァが目を見開いてその人を見た。
「もう出れんかと思ったわ〜。よかったよかった〜〜」
そう言って笑う人物にはボサボサの髪の間から猫科の動物のような耳が生えている。
指の爪はかなり硬そうな上尖っていて、あの爪で引っ掛かれたらひとたまりも無いだろう。
「・・・き、霧の、一族?」
「え? わて等の一族のこと知ってんの〜?」
くりん、とその人は首をかしげた。
口調からして男だろうが、どうにも判断しづらい外見をしている。
「その姿は貴様等一族の他にはいない」
「ふーん、そーな〜ん?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
(ああ、イライラしてる!! 間延びした喋りが気に入らないみたい・・・!!)
が、霧の一族の男はシルヴァのイライラに気付かずひたすらニコニコしている。
メイアは心のソコからこの鈍い男が羨ましいとおもった。(らしい)
「え、えーと・・・。あなた、わたし一応人間なんだけど、襲わなくていいの?」
我ながら変な質問だと思ったが、帰ってきた答えはそれ以上に変だった。
「クィット」
「はい?」
「わての名前、クィットってゆーからそう呼んで〜」
はぁ、とメイアは困惑しきって曖昧に返事をした。
「んで質問の答えだけどー、別にわてに君を襲う理由ないからさ〜」
「・・・へ?」
「霧の一族全員が人間を憎んでると思ったら大間違いだよ〜」
「ほぉ? では貴様は人間が憎くないというのだな?」
「クィットって呼んでってゆってるのにー」
それからクィットは自分の後頭部をポリポリと掻きながらシルヴァの質問に答えた。
「そりゃーね〜、人間には色々やられたけど〜。ほら、得体の知れないものって怖いじゃん?しょうがないかな〜って。それに君達だってわてに何もしてこないだろ〜?」
「それは、そうだけど・・・」
≪・・・なんか、コイツ手ごわいな≫
(いろんな意味でね・・・)
急に疲れた、とメイアは片手で顔を押さえた。
始終ニコニコしているクィットが逆に怪しいようで、だが警戒心を削がれるような奇妙な感じがまた疲労を呼ぶ。
「・・・で、君達は何をしてんの〜?」
「散歩だ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・んなわけねーだろ――――――ッッ!!!
クィットの質問にメイアが答える前にシルヴァが答えた。
シルヴァの答えに思わず心の中で突っ込むメイアとウィル。
が。
「へ〜。そーなん? いやーこんなところまで物好きもいるもんだねぇー」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・なんで信じてんだ――――――ッッ!!!
クィットの返答に今度はショックを受ける二人。
(見るからに馬鹿だからな。ああいっても信じることは目に見えていた)
(・・・それってさぁ、酷くない?)
そういったメイアの言葉にシルヴァは何もいわずにあさっての方向を見た。
これ以上発言する気はないらしい。
メイアは軽く溜息をついて、クィットを見る。
「クィット。あなたはどうしてこんなところにいるの?」
「うん? あー、実はさ〜ここに探し物があるらしくて捜索隊として借り出されたんだよね〜」
「探し物?」
もしかして、かけらの事ではないだろうか。
メイアがクィットの次の言葉に意識を集中させる。
「・・・何だったっけかなぁ〜?」
「・・・・・・・・・はぁ〜〜〜〜・・・」
≪この返答もなんとなく想像できたな≫
(そうだね)
メイアの大きな溜息を聞いてクィットが恥ずかしそうに笑った。
「や、実はもう大体の位置をつかめてるっていってたからさ〜〜」
「え? 本当に?」
近くまで行けば正確な位置がウィルで分かるかもしれない。
「ん〜、でも、道に迷ってるからなぁ」
「・・・・・・役立たずめ・・・」
シルヴァの呟いた言葉はクィットには聞こえなかったらしい。
あのあと、とりあえずクィットが来た道を戻って、霧の一族が集まる場所へ移動していた。
数分してからすぐ大勢なにかがいる気配がしたので、意外と近いところにいたことがわかった。
「? どうしたのぉ?」
足を止めたメイアとシルヴァに気が付いてクィットは振り向いた。
メイアは腰のバッグに手を入れて構え、シルヴァはキバを剥き出しにして魔力を高めていた。
「・・・・・・囲まれた」
ビュッビュッビュッ!!!
メイアが呟いた途端上空から氷の刃が降って来た。
2人はそれを上手くかわして体勢を整えた。
「まったく、どこに行っていたのかと思ったら・・・・・・。クィット!!」
「は、はいぃぃっっ!!」
「毎度毎度貴様ときたら足を引っ張ってくれると思ったら、今回はなんだっ! 人間まで連れてきおっ
て!!」
クィットの上司なのか、男が1人クィットに向って怒鳴った。
怒鳴られたクィットは、今までピンッと立っていた耳を下げて困った顔をしている。
「・・・やはり奴は阿呆か」
「そんな風に言っちゃダメ。・・・それより、どうにかかけらを手に入れないと・・・」
メイアは視線だけを森の奥へと滑らせた。
大量の機材が地面を削り、大きな穴をあけている。
きっと、あそこにかけらがあるのだろう。
(どうにかして、あそこまで行かないと・・・・・・)
メイアの眼光が一瞬鋭くなった瞬間、ウィルの柔らかい声が聞こえた。
≪・・・しゃがめ、メイア≫
「え?」
≪大丈夫だ。ここからならかけらも俺の波動に反応して姿を見せるはず。しゃがんで地面に手をつけろ≫
今しゃがむのはとても危険な事のように思えたが、何故だか体が勝手に動いて地に触れた。
その瞬間、手の平に・・・。いや、全身に暖かな空気を感じた。
覚えのある感覚に、メイアは目眩を起した。
(―――――――ウィル・・・?)
そう、まるでウィルと一体化しているような、そんな感覚。
温かくて強い力だけど、どこか切ない・・・。
ドクンッ
『お許しください、メイア様・・・・・・』
『・・・・・・そうか、仕方ないな』
『申し訳ございません・・・・・・ですが、これは我々の真意ではないのです。どうか、どうかそれだけはお分かりください』
『ああ、もちろんだ。ここまで一緒に歩んできたそなたたちを、どうして疑うことができようか?・・・・・・そなたたちには守るべき人がいる。守るためにはわたしを殺すしかないのだろう?』
『・・・・・・・・・メイア様・・・』
『だが、わたしにも守るべき人はいる。わたしが死んだらその人のことをかわりにに守ってくれないか?』
守るべき、人・・・。 ダレ・・・。
ドクンッ
メイアが今まで見ていたヴィジョンは唐突に消え、さっき感じたものも消えていた。
だけど、体の中には確実に新たな力が宿ったと確信できる。
「隊長! かけらの波動が消え、あの娘に移りました!」
「なにっ!? まさかあの小娘が!?」
メイアが構える間も無く、2人を囲んでいる霧の者達が一斉に魔術を放ってきた。
シルヴァは咄嗟に変身をといてメイアに覆い被さり、彼女を守る。
シルヴァの硬い皮膚が氷の刃を全て弾き、その体にも傷は一つとして付かなかった。
「ゴメン、ありがとう」
《気にするな。それより、さっさとここを脱出するぞ。かけらはもう手に入れたんだろう?》
≪そのへんは心配するな。ちゃんと俺の元へ戻ってきたからな≫
ウィルが自慢げにそう言うのを聞いてから、メイアはシルヴァに飛び乗ろうとした。
ズキッ!!
(なに・・・頭痛?)
メイアは一瞬頭の奥のほうで痛みを感じて頭を抑えた。
その時、またヴィジョンが目の前を過ぎった。
『メイア、そなたにしか頼めぬことなのだ』
『わかっています。いくら腕の立つものを集めても剣が効かないものが相手では・・・・・・』
『では引き受けてく
《メイア! なにを呆けている!! くるぞ!!?》
シルヴァの怒鳴り声で正気を取り戻した。
慌ててシルヴァに飛び乗り、下からくる攻撃を魔術で弾く。
ズキ・・・。
「っ!! まだ・・・・・・」
頭痛がして、メイアは己の金の髪を掴んだ。
激しい痛みと意識がもっていかれる不快感を必死で抑えながら魔術を繰り出す。それでも集中できないせいか、威力がとても弱かった。
「やめてください、隊長! どうして彼女を攻撃するんですかー!」
「えぇい! 邪魔だ、クィット!! お前は我々の目的を忘れたのか!?」
「忘れてなど! でもこのまま人間を憎しみ続けたら、どちらも分かり合えないままですよぉ!?」
「分かり合う? 人間とか? ――ハッ! キサマ、とうとう壊れたようだな。それともあの小娘に毒されたか?」
「!! 違・・・っ」
バシンッ!!
否定しようとしたクィットの顔を隊長各の男が殴った。
クィットは殴られた勢いで倒れて、数メートルほどとんだ。
「誰か、そいつを捕らえておけ。また教育が必要のようだからな」
「隊長・・・!!」
クィットの、のほほんとした表情が悲痛の色に染まっている。
殴られた痛みではない。わかろうとしてくれない、隊長への哀しみだ。
「・・・ぅっ・・・シルヴァ、クィットが・・・・・・」
《ダメだ。高度を落とせば捕まる可能性は高い。それに、あの一族は仲間殺しはしないはずだ。だからヤツが殺されることはない》
「でも・・・・っ!」
≪メイア、ここはシルヴァの言う通りにしておけ。お前の様子もおかしいし、クィットを助けれる状態じゃないはずだ≫
「でも、でもここで見捨てたら・・・・・・」
もう二度と人間と分かり合おうとしてくれるものには会えない気がする。そして、また新しい不信感を生み出してしまうような、そんな気がする。
メイアは痛む頭を抑えながら、クィットのほうをみた。
(・・・・・・? なに? なにか、いって・・・)
クィットの口が動いている。音は発していないのか、まったく聞こえてこない。
『ニ・・・ロ・・・・・・ニ・ゲ・ロ』
(逃げろ・・・? ・・・・・・クィット・・・)
メイアは無意識に己の拳を音が出るほど握りしめてクィットから顔をそらした。
「・・・・・・行こう。シルヴァ、ウィル」
シルヴァは微かに頷いて、翼を動かした。
白い竜が遠くなっていくのをみて、クィットは満足そうに笑んだ。
(・・・お願いねぇ〜。わてらと君たちが、仲良く暮らせるように)
クィットは他の奴等に見つからないように、小さく手を振った。
〜あと(あ)がき〜
・・・・・・はふぅっ(何
長時間途中で放置しておいたら何がなんやら・・・。まとめる事が不可能になりました。(書き直せよ
前回の予告とは違い頑張れなかったー。しかも凄い間あるな。
・・・・・・今さらですけれどね。
じゃあせっかくなんでクィットについて語らせて頂きます。
彼はぽっと出キャラです。・・・・・・以上!!(汗
(UP・'04・3・18)
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