Eternal Shine
Eternal Shine
「な、なんだこれ・・・・・・」
呆然とアルディアとメディスが空を仰ぐ。
真っ黒い巨大な膜のようなものがフェイノリア一帯を被い、外から隔離した。
「キャアアァァァァッッ!!」
「うわぁぁっ!!!」
だんだん辺りから悲鳴が上がり始める。
周りにいた人たちも頭を抑えて苦しみ、それから暴れ出し、物を壊す。
あらあら、と男は周りを見て笑った。
「あなたの愛するこの街の人々はかなり憎しみを持っているみたいね」
「そんなことない!! すぐ元に戻せ!!」
「どうして? 普段抑えている感情を開放させてあげただけなのに。―――コレが、人間の本当の姿よ」
アルディアは眉を吊り上げて男を睨んだ。
「ナメるんじゃない! 人間は・・・・・・人はそんなに弱くない!」
アルディアの翠の瞳が輝く。
「でもコレが現実。人を憎み、人を恨み、人を妬む。そんな人間が弱くないとでも?」
「だが、人はそれだけじゃない。他人を慈しむ心・・・・・・愛情を持っている」
メディスが嘲笑する男にキッパリと言い放った。
「愛情? ……何それ?」
男の顔が変わった。
今までの嘲笑は消え、変わりに強い憎しみの表情が浮かんでいる。
「そんなもの、人間の勝手な感情である事に変わりないわ!」
男が武器を抜き放つ。禍々しい輝きを放つ、二つの剣。
「愛がなんだっていうの? そんなもの……好き嫌いの言い訳に過ぎない!!」
男が地を蹴り、メディスに襲い掛かろうとする。しかしその二つの剣は、メディス
の剣の鞘に受け止められた。
「な……なんで剣を抜かないのよ!?」
「……お前はキスイではない。剣を抜く必要はないさ」
「……ふうん」
男は口の端を歪め、奇妙な笑みを浮かべた。
「なるほど、そういう事」
男は剣を引いて鞘に納めた。
「……いいわ。愛情がいかに脆いかなんて、私が教えなくとも――」
突然、闇の濃度が増す。そして、集中する視線――闇の色。
「この街中の人々が、あなたたちの身体に刻み込んでくれるわ」
ガッ、と、メディスの後頭部に衝撃が走る。誰かの投げた石が当たったのだった。
それを皮切りに、憎しみに支配された人々が、一斉に襲い掛かってくる。
「フフ……遠くで見させてもらうわ、愛情が崩れ去っていく様を……」
男の姿は、人々の群れに紛れて消えた。
「待てっ!!」
ルミーが手を伸ばすが、もう男の姿はどこにも見えなかった。
まだ追いつける、とルミーは走り出す。
襲ってくる人たちの中に飛び込んで追いかけようとするルミーを、アルディアが止めた。
「ルミー止めるんだ!! お前1人突っ走っても何とかなるわけない!」
「でも、アイツの所為で・・・っ! アイツがアルディアやエステルをッ!!」
ルミーの意識は全てあの男のほうへ向っていた。
怒りに染まったルミーの瞳を見てアルディアは、パシン! とルミーの頬を叩いた。
「落ち着きなさい、ルミー。お前らしくも無い」
「アルディア・・・」
「わたしだってあの男には腹が立っている。だが、今やるべきことはあの男を倒す事ではなく、愛する民を守ることだ」
その言葉に、ルミーは俯く。
「でも……どうすれば……」
「……お前な」
アルディアはルミーの手を取った。
「これは飾りなのか?」
ルミーの手のガントレットで、ルビーが紅い輝きを放つ。闇の中にいるというのに、その光は失われていない。
「お前は想いを力に変えられたんだろ? だから……その力で、民たちを救ってくれ!!」
アルディアはルミーの手を握り締めたまま、頭を下げる。
「すまない……わたしの責任まで押し付けてしまって」
「……ううん、そんな事ない」
ルミーはアルディアの手を握り返す。
「君のおかげで、やるべき事がわかったよ。……ありがとう」
ルミーは微笑んで見せた。
「しかし……この人数相手では、さすがに戦いきれないだろう」
メディスの言葉に、ルミーは首を振る。
「ぼくは、先にエステルを助けます。あの子が目覚めれば、この力も解けるかもしれないし……それに」
ルミーはそっと手を握り締め、持ち上げる。彼とエステルを繋ぐもの、ルビーの輝きを確かめるかのように。
「エステルが、呼んでいるから」
メディスは頷いた。
「ならば俺は、周りの奴らをなんとか食い止めよう。姫君は……そうだな、安全な所で怪我人の看護をしてくれ。動けなくなる奴がいるかもしれん」
「わかった」
三人は、一瞬視線を交わす。
「……行くよ!」
ルミーの合図で、三人は三方に散った。
ルミーは拳に力を込める。紅の炎が噴き出し、拳を覆う。傷の痛みも、少しずつ引いていく。
(待ってて、エステル……必ず、助けるから)
エステルの元へ向うルミーの前に、闇の力に染まってしまった街の人が数人立ちはだかる。
「はぁっ!」
メディスが剣を鞘から抜かずに振るう。
何人かが剣に当たって周りの人を巻き込みながら勢いよく倒れた。
「どいて!!」
ルミーの拳が目の前に飛び込んできた人たちを蹴散らす。
炎が街人を包み、暖かな紅い光が人々を捕らえる魔を消していく。
(……わたし、またここにいる……)
エステルは、暗闇の中に囚われていた。
遠くには外の光景が、スクリーンに映った映像のように流れている。そして、その
微かな光とエステルを隔てるように伸びる影は、彼女を捕らえる鉄格子。
(いつもわたしは……ここでこうして……何も出来ないままで……)
この暗い独房にいると、嫌でも昔の事が思い出される。いつかの彼女も、こうして
自分が誰かを傷つけるのを、ただ見ている事しか出来なかった。
(それは、わたしの心が弱いから……。わたしの力が、あの子に及ばないから……)
自分を責めたって仕方がない、そんな事はわかっている。
だが、これは――結局の所、彼女の戦いでしかないのだ。
(でも……わたしは……)
”………ステル……”
「……え?」
”……エステル!!”
突然、紅い光が満ち溢れた。スクリーンに、見覚えのある姿が映る。
”諦めないで……。ぼくがきっと、君を助ける!!”
ルミーの拳で、ルビーが目映く輝いていた。
「・・・・・・ルミー・・・」
強い、優しい光。
包まれて癒されるのが分かる。
ツ・・・。 と、エステルの頬を涙が伝う。
――どうして彼はこんなにも、こんなにも温かいのだろう――
「・・・・・・ありがとう、ルミー・・・」
エステルの周りのものが消えていく。
スクリーン、鉄格子、そして暗闇が。
「ルミー……!」
エステルは、ルミーに向かって手を伸ばす。
「エステル――」
ルミーも、エステルの手を取ろうとする――だが。
「きゃああ!!」
エステルが一瞬、ルミーの視界から消える。
彼女は、地面に突き飛ばされていた。
「エステル!!」
助け起こそうとするルミーに、容赦なく拳が振るわれる。
その動きが――読めない。
「がは……っ」
咄嗟に腕で防御したが、防ぎきれずにバランスを崩す。倒れ込みながら、必死に拳
を振るうが、そこから炎は出なかった。
(そうか……力が、尽きたんだ……)
ルミーの瞳に、闇に覆われたままの空が映った。誰かの拳が、それを遮る。エステ
ルの声も、もう届かない。
(ごめんね……エステル……)
振り下ろされた拳を、ルミーは何も出来ないまま見詰めている――
「やめなさい!!」
ふわりと翻る、ドレス。
戦場にはあまりに似つかわしくない姿の彼女は、しかし凛としてそこに立っている。
(……え?)
敵は彼女の姿に一瞬怯み、その隙に足払いで倒されていた。
「……王女を甘く見るんじゃない」
そして彼女は、振り返る。
「大丈夫か、ルミー?」
輝く瞳が、ルミーを見詰める。
「ここからはわたしの番だ。……しばらく、休んでいなさい」
その瞳は。
大地を覆い、命を育む樹々のような。
エメラルド色に輝く瞳。
「エステル、頼む……。わたしに、この国を守る力をくれ!!」
「――ええ!」
フワッ! と、エステルから力が沸き出る。
フェイノリアを闇に染めた力ではない、巨大な強い力。
「――汝の意志を力に変えよ! 翠玉の力を宿せ!!」
アルディアの瞳がより輝き、彼女は新たな力を得た。
握った左手から光が上下に伸び、通常よりも小ぶりの弓がその手に産まれた。
アルディアは静かにそれを構えて、弓を引いた。
弓を引いた瞬間、そこに風が集まり、矢をつくった。
「頼む……。目を醒ましてくれ……!」
アルディアは、ルミーを狙っていた男に向かって矢を放った。光り輝く風が、男の
身体を覆う。その風が吹き抜けた時には、男は正気を取り戻していた。
「うう……。い、今のは……?」
「……怪我はないか?」
「……え?」
男は顔を上げた。その瞬間、アルディアと目が合う。
「ああ、ひ、姫様!? し、失礼致しました!!」
「怪我がないなら構わない……」
アルディアは頷いてみせ、そして街を見渡した。
(この力なら、民たちを救える……。でも、これでは時間がかかり過ぎる……)
「……どうすれば……」
その時。
遠くから、声が聞こえてきた。
”アルディア……。聞こえますか、アルディア……?”
それは、どこか母を思わせるような、優しい声だった。
「この声……」
「え?」
アルディアが呟くと、エステルは首を傾げた。どうやら、彼女にはこの声は聞こえないらしい。
”アルディア……気高く、優しき姫君……。今一度、あなたに私の力を貸しましょう……”
ざわ……。どこかで、樹々のざわめきが聞こえた気がした。
パァッ! とアルディアの全身を柔らかい光が包んだ。
淡い翠色をした光が、全身を巡ってからゆっくりと右手に集まった。
アルディアはその光を握って、弓を真上に向けた。
強く弓を引き、上空へその力を放つ。
矢は真っ直ぐ上空へと飛び出し、肉眼では確認できないほどのスピードで上昇していく。
矢は勢いを保ったまま、闇のドームへと衝突した。
「――――消えろっ!!」
アルディアがそう叫んだのと同時に、何かが割れるような音がして、ドームに穴が開いた。
穴はみるみるうちに広まって、青い空が顔を見せた。
・・・パラ・・・
「え・・・? これは・・・・・・」
空から綿毛のような、雪のようなものが空からゆっくりと舞い落ちてきた。
一つ、また一つとそれはどんどん振ってくる。
「みんな、見て! 街の人たちが!!」
ルミーが嬉しそうに頬を紅潮させて声を張り上げた。
人々は軽く首を捻り、幾つかの憶測を話し合った後、当たり前のように日常に戻っ
ていった。中には、突然目の前に現れたアルディアに驚き、慌ててあいさつする者も
いた。アルディアは王女らしい涼やかな微笑みで、それに応じていた。
「なんだか……あっけない終わり方だったね」
呟くルミーに、エステルが苦笑する。
「それは、姫様がそれだけの強さを持っていたからよ」
「そうか。……そうだね」
ルミーは軽く溜め息を吐き、自分の手を見詰めた。
(ぼくにはまだ……それだけの強さがない)
「なに暗い顔してるんだよ、ルミー」
声がした。
ルミーが振り向くと、アルディアが腰に手を当てて立っている。
「……おあいこなんだよ。ルミーも、エステルも、そこの剣士……えーと……」
「メディスだ」
「メディスも、それから……それから、この街の人々も。みんながいたから、わたし
は自分の闇を祓えたんだ」
アルディアは、満面の笑みを浮かべる。飾りっけのない、素直で無邪気な笑顔だ。
「みんな、ありがとう。本当に……ありがとう!!」
アルディアの大声に、周りの人々が一斉に振り返った。声の主がアルディアと気付
き、不思議そうな顔をする。しかしその表情も、すぐに笑顔に変わった。
「姫様、本当にお美しくなられて……」
「ドレスはもちろん、ティアラもよく似合っていらっしゃる……」
「……え?」
アルディアは、気の抜けた声をだす。
「ティアラ……?」
アルディアは額を探った。その手が、複雑に細工された金属に当たる。
アルディアは、仲間たちの顔を見た。
「素敵だよ、アルディア」
「やっぱりわたし、あなたが羨ましいわ……」
「さすがは姫君、といったところか」
アルディアの額に現れた、金色のティアラ。
その中心では、エメラルドが輝いていた――。
「まず礼を言わせて貰おう。よくこのフェイノリアを救ってくれた。ルミナスもご苦労であった」
「いえ」
騒ぎが治まったあと、三人は王のもとに招かれていた。
元もとの原因であるエステルはそういわれて居辛そうにしていたが、それに気づいたルミーがすぐにエステルの手を握って笑いかける。
「平気だよ、姫もいっていたでしょ?」
「・・・うん」
『王が、父が会いたいといっている。是非城に来てくれないか』
『でも、そもそもの原因のわたしが行っても・・・』
『原因はエステルじゃない。あの男のせいだ。エステルが気にする必要はないさ』
ついさっきの会話を思い出す。その時の姫の言葉が妙に心に染みた。
「さぁ、アルディアからも礼を・・・・・・・・・アルディアはどうした?」
「それが、先ほどからお姿がお見えになりません」
王が近くに控えていた兵に聞くと、困ったような返答が返って来た。
王は小さく溜息をついて兵に探しに行くよう命じる。
「ここに居ります、父上」
もう耳になれた凛とした声を聞いて、ルミーたち三人が同じタイミングで振り向いて、同じように驚いた。
先ほどのドレスとは比べ物にならないほどの軽装をしたアルディアがこちらに歩いてきているからだ。
「な、なんていう格好をしている!!」
「見ての通り、旅支度に御座います」
慣れた動作で頭を下げるアルディアに、王は頬を紅潮させて怒鳴った。
「そうではない!! まさか一緒に行くつもりではあるまいな!?」
「さすが父上。御察しの通り」
ポカン、と口を開けるエステルとメディスを他所にルミー一人だけ肩を震わせていた。
それから二人に小声で話し掛ける。
「話してて大体分ったと思うけど、実はアルディアは凄く勇ましくて凄く行動力があるんだよ。悪く言えばじゃじゃ馬なだけなんだけどね」
こうして王様との言い合いもしょっちゅうだ、とルミーは笑う。
そういわれてエステルは、最初姫を見たときに言っていたルミーの言葉を思い出した。
確かに、今なら大人しくしているのは苦手そうに見える。
「・・・・・・でも、どうしてルミーくんは姫がじゃじゃ馬だと知っているんだ? 城の中にいる姫に君のような一般人がそう簡単にはあえないだろう?」
「小さい頃に城を抜け出していたアルディアに会って、それから時折一緒に遊んだりしてたんです」
なるほど、とメディスが言おうとした途端、ドスッ と鈍い音がして今まで続いていた二人の言い合いがピタりと止んだ。
「さぁ、父上の説得は済んだ。わたしも共に連れて行ってくれ」
三人は顔を見合わせた後、アルディアの後ろで王座に座りながら泡を噴いて気を失っている王を見て、否を唱えることはなかった。
BACK NEXT
コメント
なんかいろいろとキャラが出てきましたが、リレーで上手くまとめられるのか?
期
待と不安で、胸が、いっぱいです!(いっぱいです!)
鈴掛依音
あー、一先ずゴメンなさい。リレーを止めていたのは僕です。
本当にゴメンなさい。次もきっと止めるでしょう。(止めんな
星月陽雲
('03/12/31)