Eternal Shine
Eternal Shine
4人はメディスの案内でミュートラスへの道を順調に進んでいた。
特に妨害もなく、予想以上に早いスピードで進むことが出来ている。
「……大丈夫か、みんな。結構ハイペースで進んでいるが……」
「ぼくは平気です。でもエステルとアルディアは」
ルミーは後ろを微かに振り返る。
エステルとアルディアは心なし疲れたような表情を見せ、少し息を切らしている。
やはり男と女では体力に明らかな差がある。失念していたことに、メディスは表情を濁らせて頭を掻いた。
(そうか……考えてみれば、当然だな)
謎の敵に追われる少女と、悲しい過去を背負う王女。かなり特殊な人生を歩んでき
たとはいえ、彼女たちがごく普通の女の子である事も、また揺るぎない事実なのだ。
(なにか、気晴らしになるような事はないか……?)
キスイの言葉も確かに気になる。今メディスたちがすべき事は、少しでも早く
ミュートラスに着いて、態勢を整えておくことだ。しかし、戦いや敵の襲撃に怯える
ばかりの毎日では、戦士でもない彼女たちは身が持たないだろう。
「……どうしたものかな」
人生のほとんどを自己鍛錬に費やしてきたメディスには、こんな時に何が必要なの
かわからない。世の中には、一見無駄に思える知識が役に立つ時もあるのだ。
「わたしなら大丈夫だ。心配いらない」
「わたしも、平気です。先を急ぎましょう」
メディスの頭の中を知ってか知らずか、二人は懸命に笑顔を作りながら足を前に進めた。
エステルとアルディアが横を通り過ぎようとしたところで、メディスはやんわりと引きとめた。
「休もう、二人とも」
「でも、急がないと・・・・・・」
「そうだ。こんなところでのんびりしている時間はない」
二人の言葉に、メディスが首を横に振る。後ろからルミーもメディスに同意する。
「少しぐらい休まないと。もしものことがあったときに動けないと困るでしょ?」
「ああ。それに、まだミュートラスまで少しだが距離がある。ここで休んでおくのは正解だろう」
「でも……休むと言っても」
エステルは困惑の表情を見せた。
ここはミュートラス行きの街道の途中だが、辺りは木々に囲まれている。足を止め
る事は出来るが、休憩に適しているとは言い難い。
「そうだな……近くに立ち寄れる村でもあれば」
メディスが地図を広げようとした、その時。
進行方向よりやや南の方角で、パンパン、パンと、続け様に3つ音がした。
「きゃっ!?」
思わず身を竦ませるエステルに、音の正体を知る他の3人は苦笑する。
「あれは花火だよ、エステル」
「……花火……?」
不思議そうな顔をするエステルに、ルミーは笑顔で頷いた。
「祭やなんかの合図に使われるんだ」
へぇ。 と、エステルはまだ不思議そうにしながらもルミーの言葉にうなづいた。
それを微笑ましそうに見たあと、メディスは地図を広げた。
「・・・・・・あぁ、近くに村があるな。小さいようだが、休むぐらいならできるだろう」
「えーと・・・・・・セルヴァーニ? 現在地はこのあたり?」
地図を覗き込んだアルディアが村の場所と今いるあたりを指差した。
「いや、おそらくもう少し村に近い・・・・・・ここぐらいだろう。方向からしてさっきの花火もセルヴァーニからだと思うが」
地図と方角を確認しながらメディスが言う。
確かに、花火上がった方向と地図に示されている村の場所がほぼ同じ場所にある。
「じゃあ、そこにいって休みましょう。お祭りをやっているなら気も紛れますよ、きっと!」
「……でも」
しかし、エステルは沈んだ声を出した。
「わたし……人込みは……」
エステルは、フェイノリアでの出来事を思い出していた。
周囲の人間の精神に影響を与える、エステルの力。人が多ければ多いほど、その力の脅威は増す。
「……その点は、心配しなくてもいいと思うが?」
静かな声で言ったのはメディスである。
「いくら祭とはいえ、ここは他の街から離れた辺境だ。せいぜい、露店が増えたり、
旅人が滞在期間を延ばす程度だろう。……それに」
メディスはそこで、軽く息を吐く。
「皮肉な話だが……キスイたちが本当に大きな戦いの準備をしているのなら、こんな
小さな村にまで手を出している暇はないだろう。戦力を蓄えながら待ち構える方が無難だからな」
こんな時にまで冷静な戦略説明を持ち出す自分に、メディスの心は微かに翳った
が、彼はそれを表情には出さず、代わりに精一杯の笑顔を見せた。
「――だから、余計な心配はしなくていい。今の君に必要なのは、疲れを癒すことだ」
エステルは少し俯いて考えた。
確かに、メディスの言う事には一理ある。こんなところにまで手をつけているよりももっと重要なことがあるはず。
それでも、今までのことを考えたら簡単に“うん”とはいえなかった。
「――エステル」
「え? あ、はい?」
「メディスが言った通り、余計な事なんて考えなくていい。それよりも、休むなら早く休みたいから結論をだしてくれ」
アルディアが、唸っているエステルの後頭部を軽く小突きながら言った。
エステルはキョトンとしながらアルディアの顔を見上げる。
「えーと・・・・・・。あの、じゃあ、行きます」
「それなら、早く行こうよ!」
「え!? る、ルミー!?」
ルミーはエステルの手を取ると、村のある方角へと走り出した。
「……フフッ」
アルディアは笑みを零す。
「なんだかんだ言っても、まだまだ子供だな、二人とも」
その言葉に、メディスがニヤリと笑う。
「実はそう言う君が一番楽しみにしてるんじゃないのか? アルディア姫」
「な……」
茶化されたアルディアは真っ赤になる。
「失礼な! 祭りを楽しみにして何が悪い!」
「やっぱり楽しみなんじゃないか」
「…………」
恥ずかしそうに俯くアルディアの肩を、メディスはポンと叩く。
「いつでも王女である必要はないんだ。祭の日くらい、存分に楽しめばいいんだ――アルディア」
「――メディ」
アルディアが顔を上げた時、既にその剣士は、遥かに先を歩いていた。
「……ありがとう……」
アルディアはその背中に向かって、そっと囁いた。
「うわぁ・・・・・・」
「すごい! 賑やかだね!」
「これはこれは。予想以上だな」
「たしかに。でも、活気があっていいじゃないか」
セルヴァーニにたどり着いた一行は、村にそれぞれの感想を漏らす。
セルヴァーニは辺境であるわりに賑わいのあるところで、祭りだというのもあるだろうが、生き生きとした村だった。人々は皆楽しそうに笑っている。
一番近くにいた村の穏やかそうな女の人がエステルたちに気付いて微笑む。
「おや、珍しいこと。こんなところに旅の人がくるなんて。今日は祭りだから、楽しんでいっとくれ」
「ありがとうございます。ところでなんのお祭りなんです?」
アルディアが聞くと、いくつか歳のいった女の人は豪快に笑いながら説明をしてくれる。
「今日は収穫祭さ。まあ、単なるドンちゃん騒ぎだけどね」
「とりあえず、なにか食べようよ」
「賛成!」
ルミーの言葉に、エステルがすかさず答える。
「しかし……それにしても、すごい店の数だな」
メディスは広場の周りを見渡しながら言った。収穫祭というだけあって、辺りには
様々な料理の屋台が立ち並んでいる。中にはどこから来たのか、異国風の露店もあっ
て、子供たちが目を輝かせながら品物を眺めていた。
「うーん……これだけあると、何を食べるか迷っ……あれ?」
アルディアはルミーとエステルに話しかけたつもりだったのだが、二人の姿は忽然と消えていた。
「そ、そのジャガイモを揚げたやつくださいっ!」
「あ、ぼ、ぼくにも! 山盛りでっ!!」
『…………』
唖然とするアルディアとメディス。
「……はしゃぎすぎ……」
「……だな……」
ルミーとエステルは楽しそうにいろいろな店を一つ一つのぞきながら、
どんどん村の奥の方まで進んでいった。あっという間に人ごみの中に消えていった二人に、
アルディア困ったように笑みを浮かべ、隣にいるメディス見上げた。メディスのほうも
似たような顔で二人の消えた先を見ている。
「まったく、元気だな二人とも」
「いいじゃないか、祭りなんだから騒がなきゃ。こっちもこっちで楽しもう、メディス」
「そうだな。どこへ行く?」
メディスに問われ、アルディアはニヤリと笑いながら一つの屋台を指差した。
「飲み比べ、なんてどうだ?」
アルディアの不敵な笑いにこたえるように、メディスも口元だけ、ふっと笑みを浮かべた。
「俺は強いぞ?」
「望むところだ」
というわけで、二人の前には大量のグラスが並んでいる。
「おじさーん! ビールいっぱーい!」
「はいよー!」
アルディアは多少顔が赤らんでいるものの、かなりのハイペースで飲み続けている。
「うふふ……。わたし、まだまだ余裕よ?」
それどころか、メディスに挑発的な笑みまで送ってきた。
(くっ、手強い……。……てか、未成年だろ?)
メディスも負けじと、グラスの残り半分を飲み干した。
「こっちにもビールだ!」
「はいよっ!」
いつの間にか辺りには、かなりの見物客が集まっていた。
(あの姉ちゃん、なかなかやるな……)
(いや、それを言ったら、あの剣士風の男だって……)
二人は横目で相手を確認しながらどんどんビールを飲み続けた。空のグラスがテーブルの上にごろごろ転がっている。
「おじさん、おかわり!」
「こっちも追加だ!!」
「へいっ」
「いいぞー!」
「飲め飲め!!」
集まった見物客が二人をあおり、その一部がいつの間にやらグラスの数をカウントしている。現在飲んだ数は同数。ますます盛り上がってきていた。
「アルディア、無理するなよ。キツイだろう?」
「そっちこそ、顔が真っ赤だぞ」
お互いに顔が真っ赤で目が虚ろ、おまけにふらふらしている。やめればいいのに負けず嫌いな性格のせいか、二人とも譲らない。
「よし、次!」
「わたしだって!」
次のグラスを受け取ろうとした瞬間、アルディアが唐突に机に頭突きでもするかの勢いで倒れた。あまりに極端な潰れ方に、メディスだけでなく周りにいた見物客全員があっけにとられた。
「お、おい、アルディア!!」
慌ててメディスが抱き起こすと、アルディアは完全に座ってしまった目でどこかを見ながら、一言呟いた。
「やっぱり……金髪がいいのね……」
「はあ!?」
ガクッ。アルディアは今度こそ、完全に意識を失った。
「なんだ今のは……」
とりあえず介抱しなくては。そう思ったメディスは、アルディアを抱えて立ち上がったが、足がもつれて思いっきりコケてしまった。
(ま、マズい……。俺も相当酔いが回ってるな……)
その時、たまたま近くを通りかかったルミーとエステルが、地面に倒れた上に人込みに取り囲まれている二人を発見した。
「ね、ねえ……あれってもしかして……」
呆気に取られるルミー。
「……見なかった事にしましょう」
エステルはさっさと立ち去ろうとする。
「え!? でも、助けてあげた方が……って、待ってよ! エステル!!」
さっさか歩いていくエステルを追いかけてルミーが人並みをかき分けて進む。
やっとのことでエステルに追いついてエステルを引き止めた。
「エステル、ちょっと待ってってば! 助けてあげないと!!」
「大丈夫だよ、他の人が助けてくれるだろうし」
「いや、そうでなくてね」
僕らが知り合いなんだから、とルミーがいう。エステルは少し不服そうに唇を尖らせた。
「エステル?」
「・・・・・・だって、二人は楽しんでるんだから、わたしたちだってもっと楽しみたい」
ルミーは十分祭りを満喫したような気がしたが、初めてのエステルにとっては
まだはしゃぎ足りないらしいことに気が付いて、すこし苦笑いをした。それから
エステルの手をとって村の奥のほうへ足を進めた。
「まあ、あの二人のことだから多分大丈夫だろうし、行こうか!」
「うん」
二人はすぐに、黒い天幕で覆われた、なんとなく怪しげな建物を発見する。
「なにかしら、これ……」
「えーと……『占いの館』?」
しばらく眺めていると、若い男女の二人組が、腕を絡めながら出てきた。二人は顔を見合わせる。鼓動が速まるのを感じた。
「ルミー」
エステルは上気した顔で言う。
「わたし、ここに入ってみたい」
「えぇっ!?」
ルミーは珍しく、裏返った声を出した。
「で、でもここ……子供が入っちゃいけないんじゃない?」
「そんな事ないわよ……。こんな目立つ所に堂々と建ってるんだもの」
エステルは瞳をキラキラさせていた。
(これは……断りきれそうにないな)
ルミーは観念した。
「わかった。入ろう。……でも、誰も見てない時にだよ」
「うん!」
人が見ていないのを見計らって、ルミーとエステルは建物のなかに入った。
建物の中には妙な匂いが充満していて、思わず二人とも顔をしかめた。香か何か焚いているのだろうか。
「あら、ずいぶんとかわいらしい恋人さんたちね?」
声がしたほうを見ると、建物と同じような黒い色の服に身を包んだ人が座っていた。声と体つきからして女性だろうが、顔が見えないのでよくわからない。
「えぇっと、ここは?」
「ここ? それが目的で入ってきたんじゃないのかしら?」
「え、いや、その・・・・・・」
慌てたルミーに気づいているのかいないのか、その人は目を細めて建物の説明をした。
「ただの『占いの館』よ。恋愛限定、だけどね」
「・・・え? 占いの館?」
「そう。・・・なんだと思ったのかしら?」
声に笑いが含まれていて、ルミーは恥ずかしそうに目を伏せた。
「まあ、せっかく来たんだもの、私の話を聞いていってちょうだいな。料金はサービス、1コインね」
ルミーが止める間もなく、エステルはコインを占い師に渡してしまった。
「まいどあり」
占い師はフードの中で、ニッコリ微笑んだ。ルミーはすっかり縮こまっている。
「それじゃあ……名前を教えてちょうだい。まずはお嬢さんから」
占い師の視線を受けて、エステルはコクンと頷く。
「エステル、です」
「…………」
占い師は、無言でエステルを見た。その瞳が、鋭くなる。
「あなた、本当にそんな名前なの? エステルちゃん」
エステルは一瞬身を震わせ、驚いた表情のまま硬直した。
「・・・・・・どういう・・・?」
「そのままの意味よ」
占い師は、はっきりとした口調でエステルに言った。鋭い眼光がエステルを捕らえて放さない。
見つめられているだけなのに、全身が縛られているように動かない。香の匂いが妙に鼻について頭がくらくらする。
エステルの目の前にルミーが割り込むように立ち、占い師を少し睨むように見た。
「・・・ルミー・・・」
エステルが呆けながらつぶやいた。
ルミーを見て占い師が、ふ、と目を細めた。
「まあ、いいわ。それぞれ事情があるものね・・・」
占い師は、もう一度エステルに視線を戻す。もうその瞳に鋭さはなく、ただ、優し
げに微笑んでいるだけだった。
「エステルちゃん。あなたは……もしかしたら、自分が一体何者なのか、自分でもわ
かっていないのではないかしら? だから、自分の名前を口にした時、心が揺らいだ……」
それから彼女は、ルミーを見る。
「そして……ルミーくんといったかしら?」
「本名はルミナスです」
「そう……ルミナスくん。あなたは本当に、真っ直ぐな心を持っているわ。あなたの
強さが、エステルちゃんを支えているって事、とてもよくわかる」
ルミーは、暗がりでもわかるくらい真っ赤になって俯いた。
占い師は楽しそうに笑いながら、水晶球を取り出し、それを透かすように二人を見詰める。
「……綺麗ね。あなたたちのオーラは、宝石のように透き通ってる。まあそれは……
特にルミナスくんの場合、子供ゆえの純粋さって感じだけど」
もうイヤだ。早くここから逃げ出したい。ルミーは本気でそう思った。
恐る恐る顔を上げる。こちらを見ている占い師――その表情が、突然真剣になる。
「……でもね」
ドクン。
ルミーは、自分の体が、緊張で強張るのを感じた。
「その純粋さは、脆さでもあるのよ」
今度は占い師とルミーが真剣な眼差しをお互いにぶつけ合う。沈黙が続き、先に
視線を逸らしたのは占い師だった。ルミーから外されたそれは、ゆっくりと水晶球
へ移った。
「――純粋、子供ゆえに弱い。真っ直ぐ過ぎて、折れてしまったらもう二度と戻ら
ないような脆さがあるわ」
「・・・・・・・・・・・・」
占い師は微かにルミーを見て、もう一度水晶を覗く。
「綺麗な心は諸刃の剣。もう少し大人にならないと自分や味方すらも傷つけること
になるかもしれない。――でも」
占い師は、今度はしっかり顔を上げ、にっこりと微笑んだ。
「それは確かにあなたの強さでもあるわ。こんなに美しいオーラは初めてよ」
「はぁ・・・」
ルミーは少し緊張が解けるのを感じた。もっとも、完全に解けたわけではない。
占い師は、ルミーから後ろに隠れるようにしているエステルに視線を移し、警戒
心を少しでも和らげるために、笑んだまま話し掛けた。
「エステルちゃん。あなたに必要なのは、真実を恐れない心。それは確かに、あなた
たちに試練をもたらすかもしれない。だけど――わかるでしょ? あなたには、信じ
られる人がいるってこと」
エステルは、恐る恐るといった様子で頷いた。
占い師は、もう一度水晶を見る。
「あなたは……本当に強いオーラを持っている。もしかしたら、そのオーラの強さゆ
えに、あなたの心は潰されてしまうかもしれない。でも……もしも揺るぎない心を手
に入れる事が出来たのなら、あなたは――」
占い師は突然硬直した。その手から水晶球が滑り落ち、ゴトッと重い音が響く。
「ど、どうしたんですか!?」
ルミーは慌てて手を差し伸べる。
「――何でもないわ。心配しないで」
占い師は軽く首を振り、再び水晶を持ち上げた。
(今のは……見間違い、よね?)
彼女はもう一度微笑んだが、それは取ってつけたような笑顔に見えた。
「わたしには、もうこれ以上のことは見えないみたいね」
誤魔化すようにいい、占い師は水晶球をなでた。それを聞いて、ルミーがいい難そ
うに口を開く。
「・・・・・・あの、ちょっとお聞きしたいんですけど」
「どうぞ?」
占い師は即答で質問の先を促した。
「ここって、恋愛限定じゃ・・・・・・? あ、ごめんなさい・・・」
ルミーが謝りながらいうが、占い師はますます笑みを深める。なんだか怖い笑顔だ
った。
「そうね、本当なら恋愛限定だけど、あなた達は特別。・・・それとも恋愛で見て欲しか
った?」
「あ、いえ、そういうわけじゃ・・・」
占い師の口調はとてもやわらかかったが、なぜか棘があるのを感じる。慌てて否定
したが、占い師はすでに水晶を覗き込んでいた。
「そうね、二人の相性は悪くないわねむしろいいほうじゃないかしらルミナスくんのオ
ーラとエステルちゃんのオーラはとても心地の良い調和しているしこれからもそれはか
わらないでしょうね試練や障害も多いと思うけどちゃんと乗り越えていけるわよ」
(うわぁ、超投げやり)
占い師は口調に起伏をつけず、息継ぎもなしで一気に喋り、ピタリと黙った。そんな
占い師に下手な突っ込みをいれることができず、ルミーは心の中でつぶやくだけだった。
「…………」
エステルは、占い師をじっと見詰めて震えている。
「エステル? だいじょ――」
「す、すごいです! そんな事までわかるなんて……ありがとうございます!!」
(はあー?)
エステルは立ち上がり、占い師と握手を交わした。
「……女の子って、わかんない」
ルミーの素直な感想であった。
「お幸せにねー」
小さなカップルを見送った後、占い師は水晶で撫でながら、「フフフ」と妖しい笑いを零した。
「いいネタ見つけちゃったわ……」
ある時は恋愛専門の占い師、またある時は浮気調査専門の探偵。しかしてその実態
は――売れっ子恋愛小説家、ウィング=フローレンス(25)である。
「まさかあんなモノが見られるなんて……だからこの仕事はやめられないわ……ウフッ」
数年後、彼女の著書「ダイアモンドは永遠の輝き」は、ベストセラーになるのであった。
占いの館を後にした二人は、もう一度村を一通り回っていた。
「・・・・・・あ、エステル、ちょっと待って」
「え? どうしたの?」
「あそこ、ほら」
ルミーの指差すほうをみると、人波から離れたところでうずくまっているアルディアと、その隣で懸命に彼女の背中をさすっているメディスがいた。どうやら、二人ともすでに正気に戻っているらしい。
「どうする? 行く?」
「・・・うん。もうたくさん遊んだし、いいかな」
エステルとルミーは人波をかき分けながら二人のところへ向かった。
「ぎもぢわるい〜・・・・・・」
「気を失うまで飲むからだ。限界を知ったほうがいい」
「・・・メディス、何でもう酔いが醒めて・・・ウッ・・・」
「俺はもともと酔いにくい上に醒めやすいんだ。・・・・・・水飲むか?」
「うぅ〜〜〜〜〜〜・・・・・・」
アルディアはメディスの助けを借りて、どうにか水を喉に流し込む。
「アルディア!! 大丈夫!?」
本気で心配そうな顔をして駆け寄るルミー。
「あ〜……だいじょうぶだ……」
アルディアはそう言ったが、その顔は真っ青だった。
「……メディスさん」
溜め息混じりでメディスを睨むのは、エステル。
「あなた、うら若い美少女になにをしたんですか?」
「俺は悪くないと思うのだが……おい、一旦吐いた方がいいんじゃないか?」
メディスにそう訊かれたアルディアは、痛む頭を左右に振って拒否した。
「し、しかし、王女がそんな醜態を晒すなんて……」
「今更だと思うが……。そうだ、エステルさん、悪いけどトイレにでも連れていって
やってくれないか? 俺が入るわけにはいかないからな」
「口に手を突っ込んで無理矢理吐かせてもいいですか?」
「それしかないだろうな……」
「わかりました」
去っていくエステルとアルディア。その後ろ姿を見ながら、ルミーはボソッと呟いた。
「見ちゃいけないものを見ちゃった気がするな……」
「なにが?」
しっかり聞こえていたらしく、メディスが少しだけ首をかしげながらきいてきた。
「え、あー・・・・・・。その、僕もアルディアのあんな姿初めて見たから。それに、未成
年じゃないですか・・・」
「普段はあんなになるまで飲まないんだろう。しかし、ルミーくんは固いな」
自分も同じ事を突っ込んだことを棚に上げてルミーに言った。ルミーは、そうかな
?と首をかしげながら、二人が消えていった先を見た。
「ところで、あんなに潰れるまで飲ませるなんて、何やってたんですか?」
「いや・・・その、なんだ。アルディアに飲み比べをしようといわれて・・・・・・止めれば良
かったんだが・・・・・・つい、な」
メディスは苦笑いしながら頭を掻いた。正直、飲み比べをしようというぐらいだから
、自分の限界は知っているものだと思っていた。しかしきっと、負けず嫌いの性格と、
普段やらないハイペースのせいで限界を間違えたのだろう。
「正直、俺でもきつかったから、アルディアでは倒れても無理なかったな」
「なんかもう……ぼくは頭痛いですよ。いくらなんでも羽目外しすぎじゃないですか」
「まあ、大目に見てくれよ。こんな風に騒げるのも……今日が最後かもしれないんだから」
「…………」
メディスの言葉は、予想以上に重く響いた。
今日が最後。
そう……夜が明けて、この村から旅立ったら、その後に待つのは戦争。そして――
(ぼくたちに待つのは、残酷すぎる真実かもしれない)
「ルミーくん? どうしたんだ?」
メディスは心配そうにルミーの顔を覗き込む。
「いえ――」
「あーもう! アルディアってば散々わたしに絡んだ挙げ句寝ちゃうんだから……」
元気な声が響いて、二人は我に返った。エステルは、割と長身のアルディアを、半ば引きずるように運んでいる。
「大丈夫かエステルさん? 俺も手伝うよ」
「あ、ぼくも」
二人は素早くエステルに手を貸す。
「あーあ……酔っぱらいの介抱なんて、もうこりごりだわ」
もはやただの酔っぱらい扱い。哀れなり、フェイノリア王国王女アルディア。
「うあぁッ!!」
「!! ビックリした! 何、アルディア!?」
「緑! 緑と金の何かがあぁぁ!! ・・・・・・・・・グゥ・・・」
唐突にアルディアが叫びながら目を覚まし、意味不明なことを言ってから、またも
急に眠った。
「・・・・・・」
三人が顔を見合わせる。意味があるのか無いのかわからない叫びに、皆がみんなそ
れぞれの顔を見渡した。
ルミーは本当にどうしたらいいのかわからない顔をし、エステルは呆れたような笑
みを浮かべ、メディスは懸命に笑いをこらえていた。
「・・・これは、明日確実に二日酔いだな」
「ですね」
笑いで声を震わせながらメディスが言った言葉に、ルミーが眉根を下げながら同意
した。
「とりあえず、宿に向かった方がいいな」
メディスが言い、ルミーとエステルも頷く。
「でも、部屋はまだ空いてるかな?」
「さあ……先に予約してくれば良かったわね」
そういえば、宿がどこにあるのかもわからない。とりあえず、家が立ち並んでいる辺りに向かってみる。
周りを見渡すと、小さな子供やその家族は、そろそろ家路についているようだった。店じまいをしている屋台もある。若者や旅人風の人々だけは、遅くまで営業している酒屋の前で、陽気に騒いでいた。
明日になれば、祭は終わる。村人たちは日常へ戻り、旅人や商人は次の目的地へと向かう。
そして、この四人は――
遥か上空から、彼らを見詰める者があった。
彼女は、ほんの少しだけ哀しそうに表情を歪めながら、人間たちを眺めている。
「幸せそうね。本当に……本当に」
バサリ。彼女は翼をはためかせ、その場を離れた。
目指す場所は、リーグロットタウン――ミュートラス最西端の、小さな町。
戦いは、そこから始まる。
BACK NEXT
('04/9/20)