RING



パシィンッ
「っ!?」
突然、瑞江の体から大きな音が出る。
尋常ではない様子に一彦が身構える。
ふらふらと立ち上がる瑞江の体。・・・その目に、あの優しさは消えている。
「おはようございます、一彦さん」
「力に食われたのか・・・・・・瑞江!!」


重い空気が一瞬にして部屋中に広がる。
瑞江の体から放たれる異様な空気。一彦には、それが何であるかがわかっていた。
力に飲み込まれた瑞江。
そう、これは瑞江であって瑞江ではない。
細いからだから吹き出る黒いオーラは、力の残酷さを現しているようだった。
(負けたのか・・・・)
一彦は最初にそう心の中で呟いた。
もっと注意してやれば良かったと、いまさらながらに後悔している。
そんな考えをよそに、『瑞江』は地色で少し黒い腕を口元に持っていって微笑した。
「くすっ。どうしたんですか、一彦さん?」
戦闘態勢を崩さない一彦を警戒するわけでも、嘲笑うわけでもなく、ただそこに立っている瑞江。
その微笑みは、妖しく、そして闇に染まった笑みである。
「どうやって、瑞江を食った・・・・?」
一彦はやっとの事でその一言をしぼり出した。
初めての仕事よりも緊張しているだろうと、そんな事を考えながら。
瑞江は一彦の気持ちが手に取るように分かるのか、今までよりも口を歪ませた。
「食った、ですって?・・・・ふふ、人聞きの悪い事を言うのね。
私はただ、“この子”の中にある罪を再認識させてあげただけよ」
「・・・・・村の事か?」
「いいえ。いいえ、違いますとも!!この娘は最悪の罪を犯した!親殺しという名のね!!
誰が自分を愛してくれる親を殺すでしょう、なに不自由のない生活を遅らせてくれる父親を!
・・・・母亡き後男手一つで大切に育ててくれた優しい優しい父親をね!」
『瑞江』は“瑞江”を苦しめるようにそういった。
二度と“瑞江”が目覚めぬよう、自分の殻により一層閉じこもるように。
だが、一彦はその声に違和感を覚えた。
たしかに瑞江が、破滅のリングが言っている事なのだが、何かが引っかかる。
「この子を助けようと必死のようね、一彦さん?・・・・でも駄目☆
この子はもう私の手から離れる事は出来ないわ。一生、この肉体が滅びるまで硬い殻の中で
甘美な夢を見つづけてもらうわ。父親と一緒にいる楽しい夢をネ♪」
「・・・・・・違う」
一彦は自分にも聞こえない程、小さな声で呟いた。
確信も、呟く理由もないまま、ただ、それだけ呟いた。
一彦の瞳は真っ直ぐ瑞江を捉える。
その瞳に瑞江が顔をしかめて唇を動かした。
「・・・・物分かりの悪い人ね〜。いい加減瑞江から離れてくれる?目障りのよ。
貴方のせいで、この子は一瞬立ち直ってしまった。
・・・・・ま☆かる〜い決心だったけどね。きゃはははは♪」
「違う」
今度は聞こえるような声で言葉を発する。
瑞江が首をかしげる。そう、とても嫌そうに。
「物分かりが悪いのは、君だよ、“瑞江”。・・・・泣いても良いと、俺は言ったはずだよな?
なのに、そうやって殻にこもって涙を我慢して・・・・・ずっとそこに引き篭っているつもりなのか?
・・・・嘘の甘い夢を見るよりも、本当の辛い現実に居る事を君は望んだはずだ。・・・・違うか?」
ガタッ
瑞江が一歩後ろに下がって椅子を倒した。
「ヒトリが辛いなら、俺のところに来ればいい。悲しい事があったら俺に相談すればいい。
・・・・もし、俺にもいえないことがあるのなら、少し休んで、自分で解決すればいい」
「・・・・・やめろ・・・・・」
『瑞江』が耳を塞ぐ。
“瑞江”が耳を傾ける。
一彦の言葉が少しずつ、殻を突き破る。

“・・・・・一彦・・・・・さん・・・・・”

「・・・っ瑞江!?」
「やめろ!!!」
パシンッ!
一瞬だけ聞こえた“瑞江”の声がまた途切れる。
今度は、無理矢理瑞江を閉じ込めたらしい。
「・・・・危なかったわ。もう少しで・・・・・。
・・・・やっぱり、貴方は邪魔・・・・だわ。・・・・・・消えてもらうしかないようね!!」
瑞江が一彦に向けて手をかざす。
力の波動を感じて即座に左に飛ぶ。
左の袖が少しだけ消えている。掠ったのだろう。
しかし・・・・・
「なぜ・・・・・?」
「何故?・・・・ふ、一彦さん、私はリングそのものなのよ?
もちろん輪など出ないし、力を自由に飛ばす事だってできるわ。ほら」
瑞江は一彦の後方を指差す。
一彦は瑞江に気をつけながらも、そちらのほうに目を向ける。
「!!」
壁がない。
いや、正確にはあるのだが、ぽっかりと大きな穴があいていて、ほとんど区切りとしての役目を果たしていない。
「・・・・まさか、こんな事まで・・・・」
そう、瑞江は対象を触る事でしかそのものを消滅させる事が出来なかったはずなのだ。
それが触らずに、しかも結構距離がある。
今まで抑えられていた力が、いや、使いこなせていなかった力が全て解放されている。
「さあ!今度こそ死んでもらうわ!!」



・・・・・ここは・・・・・どこ・・・・・?
「・・・・ずえ・・・・み・・・・みず・・・・・・・瑞江?」
「あ、お父さん?ごめんなさい。ぼーっとしてたみたい」
ああ、そうか。今日はお父さんと街に出かけてたんだ。
「大丈夫かい?熱でもあるのか?」
「ううん。大丈夫。ちょっと疲れてるだけみたい」
「そうか?ならいいが・・・・。まあ、今日は色々回ったし疲れもするだろう」
「・・・・うん・・・・」
色々か。・・・・・あれ?どんな所に行ったっけ?
なんだか、頭が重い・・・・。
「瑞江?本当に大丈夫か?」
「ダイジョーブ、ダイジョーブ!もう、お父さんは心配性だなぁ〜」
しっかりしなきゃ。お父さんに心配はかけられないよ。

――・・・・・・う・・・・――

「?・・・・お父さん、何か言った?」
「いや?何も言ってないが?」
「そう?じゃあ、気のせいね」

――違う――

「あれっ、また・・・・?」
今度ははっきり・・・気のせいじゃないみたい。どこから?
・・・・聞いた事のあるような、声のトーン・・・・?

――――物分かりが悪いのは、君だよ、“瑞江”。―――――

「!?」

――――泣いても良いと、俺は言ったはずだよな?―――

誰?・・・ううん。やっぱり知ってる・・・・!

――――なのに、そうやって殻にこもって涙を我慢して・・・・・ずっとそこに引き篭っているつもりなのか?――――

なんなの・・・・?私は引き篭ってなんか・・・・!!

―――嘘の甘い夢を見るよりも、本当の辛い現実に居る事を君は望んだはずだ。――――

・・・・甘い、夢?辛い現実・・・・?

―――ヒトリが辛いなら、俺のところに来ればいい。―――

俺の、所?

―――悲しい事があったら俺に相談すればいい。―――

そうだ・・・・この人は・・・・

――――・・・・もし、俺にもいえないことがあるのなら、少し休んで、自分で解決すればいい―――

・・・・一彦・・・さん・・・


「・・・・そう、私は望んだわ・・・・」
「瑞江?」
―――辛い現実に居る事を・・・――
「自分の罪を自分で見ることを。目を背けないと、あの人と約束した!」
「どうしたんだ、瑞江。落ち着きなさいっ」
「落ち着いてる。貴方は、私のお父さんじゃない。こんなところに居る筈がないもの。
・・・・いいえ、違うわ。場違いなのは、私。ココは、私の居るべき所じゃない!!」
パシンッ!
「きゃあぁっ!!!」



「くっ!」
瑞江の攻撃が繰り返される。
目に見えない攻撃を避けるのはかなりの困難のようだ。
もう既に何度も掠ったらしく、服のあちこちに穴があいている。
だが、無駄に逃げ回っていたわけではない。
たしかに破滅のリングは凄い威力を持っているが、攻略できない点が無いわけではなかった。
まず一つ。破滅のリングは何でも壊せるが、それは範囲内に入ったものだけだという事。
それと、二つ並んだものを同時には壊せない。
・・・例えばシールドを持っている者がいるとする。
瑞江のリングは持っているシールドは壊せるが、その人を滅ぼそうと思ったら、もう一撃加えなければならないということだ。
つまり、範囲外で自分と瑞江を挟む何かがあれば、とりあえずの攻撃は免れる。
そのことがわかっただけでも収穫としては十分なのだが、このまま部屋の中だけで逃げているというのは辛い。
(眼力を使って少しだけ攻撃を止めてその間に外へ・・・・!)
簡単な作戦、いや、作戦と言えるのかどうかもわからないほどの単純な考えだが。
とりあえず今はそれしか最善の方法が思いつかなかった。
一彦が意識を集中し始める。
手、首、足に、いたるところに金の輪が現れる。
それを見た瑞江が少し警戒するように攻撃の手を緩めた。
一彦が目を見開く。銀色に光る瞳が瑞江の姿を捉える。
「!」
瑞江が顔をしかめた。それと同時に体が動かなくなったようだ。
一彦が後退して部屋から出ようとした、その時・・・!
「っぐあ・・・・!?」
一彦のリングが無理矢理切られ、銀色の瞳から真っ赤な血が涙のように吹き出ている。
「な・・・・に・・・・!?」
「私の力をなめてもらったら困るわね。私の力は破滅!!
私に壊して滅ぼせないものは何も無いのよ!・・・・アサハカだったわね!」
「まさか、俺のリングを破るとは・・・・」
一彦が自分の目から流れ出る血を拭う。
視界が赤い。全てのものが真っ赤に染まって見える。
「このまま無様にやられてたまるか!」
一彦は懐から白狼を取り出す。
瑞江の方に向け、そっち用に作られた音がでない銃の引き金を引く。
「無駄よ!私のところにつく前に弾丸は消滅するわ!!」
ガシャンッ!!
「!?」
瑞江の真上にあった蛍光灯が破裂した。
そう、瑞江を狙ったのではなく、蛍光灯を狙ったのだ。
砕けた蛍光灯の破片が瑞江を目掛けて落ちていく。
「っこんなもので私を傷つけられるとでも・・・・!!」
瑞江が破片を振り払うように手を一回振ると、その動きと同時に破片が全て消え去る。
「これでどう・・・・・・あ。」
そこには一彦の姿は無く、紅い血痕が点々と残っているだけである。
「・・・・逃げられた」
瑞江は部屋から廊下に出る。
左右を確認するが長い廊下にすでに一彦の姿は無い。
「しょうがない。あの人ごとこの施設を破壊するしかないみたいね・・・・♪」



「きゃあぁっ!!!」
「・・・・・イケナイ子ね、瑞江」
「!!貴方は・・・・!」
さっきの女の人・・・・リング!!
「駄目じゃない。あんな事で、心を開いちゃ。でなきゃ、もう少し夢を見ていられたのに」
「いったはずよ!私が見たいのは夢じゃない!私が存在したいのは現実だけなの!!」
「・・・・あの男がいるからね?」
「・・・・え?」
「貴方は罪を償うために現実に戻りたいんじゃないわ。あの女男、武上一彦がいるから。
結局、あんたはあの人がいないと何も出来ないのよ。無能で、無知で甘えん坊。
あの人の傍にいるのはさぞかし楽でしょうね。全てをしてくれるわ。全てを包み込んでくれる。
そりゃあ、居心地もいいし、恋もするわよね?」
「わ、私は・・・・!」
ココから先、言葉が続かない。いわれていることが本当だと、認めてしまっているから?
「・・・図星のようね?イイのかしら。あの人はそんなあんたをいつまでも傍に置くと思う?」
「そ・・・・・それは・・・・・」
「ウザイ女って捨てられるに決まっているでしょ。泣き虫で自分からはな〜んにもしないもの」
「・・・・・・・・・・・・・」



バタンッ!!
一彦は一つの部屋に乗り込む。
その部屋には・・・・・
「おう、どうした?一彦・・・・って、どうしたその顔!!」
「まあまあまあ、大変!救急箱は・・・・」
二人の男女が呑気にお茶をしていた。
男はいうまでも無く光久。
女性はの名前はマリア・スライダ。一彦達よりも2〜3年上のようで、髪の毛を馬の尻尾のようにまとめている。
目が細めだが、微笑んでいるように見えるので本人も気に入っているらしい。
「光久っマリ姉!ちょっと力を貸してくれ!!」
「ど、どうしたんだよ。そんなに慌てて・・・・・」
「とりあえず落ち着いて。そんなに焦っていたら解決するものも解決しないわよ?ね?」
ふんわりとした雰囲気で一瞬にして一彦を落ちつかせる。
とはいうものの、彼もこんな仕事柄だ。すぐに落ち着く事もできる。
はぁ〜、と体の中の空気を全部吐き出して、事情を話し始める一彦。
「実は・・・・・・」

「なんだって!?瑞ちゃんが力に飲まれた!?」
「瑞江ちゃんっていうと、一彦くんの後輩の子よね?」
「そうです。まさかリングの力があそこまで強いとは・・・・計算外でした」
先程とはうって変わって冷静な一彦。
随分落ち着きを取り戻しているが、時間を気にしている事はバレバレだ。
たしかに、ゆっくりはしていられない。
「んで。俺たちにどうしろと?」
「説得して欲しい」
「リングちゃんを?」
マリアは確認の意味でわかりきった事を聞く。
が、一彦は首を横に振る。
「瑞江を、です」
「・・・・なんでっ!?普通は、瑞ちゃんを返してくれ!って説得するもんだろ!?」
一彦の言葉に光久が驚いて大声をだす。
マリアのほうは少し考えているようだ。
「・・・・・瑞江は、きっと“破滅”を拒絶している。しかも強い、強い拒絶・・・・」
一彦が視線を下に向けたまま、考えながら言葉を放つ。
「・・・・そうよね。リングは受け入れなきゃいけない。
自分の一部・これも自分だと。リングと自分は一対だという事を」
少し黙っていたマリアが一彦に同意する。
「拒絶か。そういう事なら説得するしかねぇけど・・・・。難しくないか?
リングのせいで瑞ちゃんは色々傷付いたりしてんだろ?」
「確かそうだ。・・・だからこそ、二人に頼んでいるんだ。俺以外で最初に親しくなったお前と、
聖母のように優しいマリ姉に」
「聖母って・・・・いいすぎじゃない?」
照れながら空気をよんでないとまるわかりの発言をするマリアさん。
「やさしいっつーか・・・・・・天然だろ」



「・・・・・いい加減にして・・・・・・。私は、一彦さんの傍にいたい為にこの夢から覚めたいわけじゃない!
・・・・・でも、貴方の傍にはいたくない!!私の心の中にいて欲しくない!!
ここから出して!私の前に現れないで!もう、もうこれ以上何かを壊さないで!!」
「本当に、あまちゃんね、あんたは。それに言ったはずよ?私はあんただと。
私が消えるという事は、あんたが消えるという事。そこんとこ、わかってないでしょ?
それともう一つ。立場的には私の方が弱いけど、力は私の方が上なのよ。
あんたをこの力でいつでも消す事ができるんだからね?・・・・私?私は死ぬ事は怖くない!
どうせ消える運命だったんだし。それに、あんたを巻添えにできるしね?」
「・・・・なんてひと・・・・!」
「だから、私=あんた。なんとでも言うがいいわよ?結局自分への悪口なんだしね」



「そいやーさ、もうヒゲには報告したのか?」
「まだだ。真っ先にここに走ってきたからな」
「だが、もう知っているよ。武上くん」
「あら、所長」
あきっぱなしになっていたドアに立っていたのはヒゲの男、所長だった。
後ろにお付きの者を左右に二人連れて相変わらず偉そうにしている。
二歩ほど部屋の中に入ってきて足を止めた。
「君は、一番に報告しにきてくれなければ困るのだがね?もう既に施設の四分の一が花森くんによって
破壊されてしまっている。傷付いた人も少なくは無い。どうしてくれるんだね?」
「傷付いた・・・・ってまさか!?束縛型のリングを向かわせたんじゃ・・・・!?」
一彦が勢いよく立ち上がった。
少し驚いたように所長は後ろに下がった。
「なにかまずかったのかね?」
「瑞江のリングを知っているだろう!?アレは破滅!!ヤツに壊せないものはないんだっ!
リングがなくなりはしないものの、その分肉体が傷付く!!」
「・・・・・そういう事を報告しに来いと言っているのだよ、私は」
「・・・・あ・・・・」
一瞬一彦が白くなった。


「なんだこれは!?何故力がきかない!?」
「きゃああっ!!」
「あっはっはっはっは!!壊れなさい!!全てなくなってしまえば良い!」



〜あとがき〜

書けました。
う〜ん。中途半端ぁ・・・・。
早いし。ホントに。早い。展開が。
急ぎすぎ。デス。
。多っ!?
いや、それはどうでもよくって・・・・
ああ〜・・・・疲れてます。今回は以上で。



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