第4章 〜奇跡と悪夢の力〜



ライトニア王都。平和で豊かな国として知られるだけあり、街の風景も穏やかだ。
「……いい町だな」
ライトニアには何度か訪れたことのあるクラインも、ついこんな感想をもらしてしまう。
一方、ライトニアは初めてのコレットは、もの珍しげに辺りを眺めている。
「でも、信じられないですね。この町は……」
「すいません!」
突然ジェイクの会話に割り込んだのは、レフィであった。彼女だけは、他の者と雰囲気が違う。何かを恐れている様子だ。
「あの、私……、船、出してもらえるように、頼んできます!」
「あっ、おい!」
レフィは街並みに背を向け、走り去ってしまった。
「……なんなんだよ……」
「……そっとしておいてあげましょう」
そう言ったのはジェイク。
「この辺りに知り合いがいるという事は、レフィさんはおそらくここの出身でしょう。……この町は、三年前にヴァンダーク軍の攻撃を受け、壊滅寸前にまで陥ったのです。だから……、何か、嫌な思い出が、あるのかもしれません」
「そういえば、おねえちゃん、時々夜にうなされてた気がする……」
コレットは、宿屋では同室だから、わかるのであろう。
その時、誰かがクラインたちの名を呼んだ。一行がそれぞれに反応を示して振り返ると、そこには、銀の鎧を纏ったライトニア兵がいた。
「……お前たちか?炎の塔と大地の塔の魔物を退治したという者たちは……」
「は、はあ……」
「王様から直々に、お話があるそうだ。用事がすんだら、城に出向いてもらいたい」
「はあ……」
「よいか、忘れるでないぞ」
三人は、立ち去るライトニア兵を見送った。
「……あたしたち、意外と有名人!?」
「……こういう噂は、すぐ広まるんだな……」
「……そういえば、僕は他国の兵士なのに、何も言われませんでしたね」
三人は首を傾げつつ、街路を歩いた。
その時、横合いから誰かが声を掛けた。
「……あんたたちかね?王様の依頼を受けるのは……」
声の主は、中年の男であった。
「え……、ええ、まあ」
「……大変だねえ」
「どうしてですか?」
「……今の王様は、とてもお若いんだ。しかし、不幸なお方でね。三年前の戦争で、ご両親を亡くされ、双子の妹も行方不明だとか。あんたたちも、妹の捜索を頼まれるだろうが……、なんせ、敵国のヴァンダークにさらわれたそうだからなあ……。生きちゃ、戻れんだろう」
「……」
王には失礼だが、三人もそう思った。ヴァンダーク帝国が、敵国の王女を、そう簡単に逃がすとは思えない。
「……どうします?この依頼、無理なんじゃあ……」
「……行くだけ行ってみよう。顔出さなきゃまずいだろ」
三人は、城へと足を運んだ。

その頃、船着き場では。
「……久しぶりだな。まさか、生きた君に会えるとは思わなかった」
「……レインフォール経由ヴァンダーク帝国行き、頼めますか?」
「ああ、他でもない、君の頼みだからな。……でも、いいのか?あの国に戻らなくて……」
「……私は、戻れません。戻る資格など、ないのです」
「……まだ、気に病んでるのか?あの事を……」
「……」

ライトニア城は、世界で最も美しい城とされる。壁は美しく磨かれた石によって造られ、城のあちこちに芸術的なステンドグラスが見られる。
「……すごい城だな……」
「こんなすごい城の王様に、依頼されるんだね……」
「……気を付けないと、ガイアロードとライトニアの友好関係が……」
「何ぶつぶつ言ってんだ、着いたぞ!」
そこには、一際大きな扉があった。
「……冒険者一行だな?……ん?一人足りないが……」
「あ、その……。他に、用事があるそうで」
「そうか……。まあ、仕方ないな。入れ」
三人は、王の間に通された。
三人は、王の顔を見た。確かに、若かった。クラインと、そう変わらないであろう。しかし、そんな事より……。
銀色の髪。瑠璃色の瞳。男だとは思えないほど、美しい顔……。
そう。ライトニア王は、レフィに似ていた。

「……君たちが、噂の冒険者ですか?ふふ、やはり驚いているようですね……。予想していたより、ずっと若かったでしょう?」
「……はい」
本当は、そんな事に驚いているのではないのだが。
「……依頼の内容は、察しがつくでしょうね……。僕の双子の妹を、探してほしいのです。名前はセルフィア。歳は僕と同じ17歳で、顔もよく似ている……はずです。最後に顔を見たのが三年前ですからね、確信はないですが……」
そこで王は話を止め、笑いをもらした。
「ふふっ……。我ながら、馬鹿みたいだと思います。三年前、敵国に連れ去られ、未だにまったく手掛かりも掴めない……それどころか、死んだという情報さえある妹を、探し出そうとしてるのですから……」
「そんな事……」
「おい、何者だ!王は謁見中だぞ!」
突然、声が響く。見ると、怪しい雰囲気の男が、王の間に入ろうとしている。
「止まれ!無礼者!」
「おいおい、そんなに邪険に扱っていいんですかい?折角、王の愛するセルフィア王女様の情報を、仕入れてやったというのに……」
「そんな出鱈目……」
「……通してくれ」
「王!?しかし……」
「どんな小さな事でも構いません。出鱈目でもいい。……手掛かりが、ほしいのです」
「はっ!おい、通っていいぞ!」
「ふふ、ありがたいな……」
「……で、情報とは何ですか?」
「それは……」
その時、クラインの眼に、男の懐で光る物が映った。
「逃げろ!」
咄嗟に叫び、男を取り押さえる。しかし、それより一瞬早く、男は手にしていた物を投げた。
「王様!」
男が投げた短剣は、王の肩口を掠めていた。
「……大丈夫、掠り傷です」
「くくく……それはどうかな?」
「何……?くっ……、身体が……痺れて……」
「近頃開発された新種の毒だ……。治療法はない、半日もすれば死に至る……。残念だったな、ライトニア王家の血は絶えた!」
「く……」
「そうだ、お前の知りたがっていた情報をやろう!王女は死んだ、俺の目の前でな!」
ライトニア兵に取り押えられながらも、男は不敵に笑っていた。
「……すいません、おれたちがいながら……」
「……気にする事はありません、僕が迂闊だったのです。……こんな無様な姿、セルフィアが見たら笑いますね……」
連絡を受け、医師団が駆けつけていたが、いずれも首を振るばかりだ。
「何も……出来ないのか……?」
「……そうだ、いるじゃない!助けられる人が!」
「……そうか、あいつなら!」
「あたし、呼んでくるよ!」
コレットは、王の間を跳び出す。
「……まさか、王を救える人がいるのですか!?」
「ああ!……おれたちの仲間だ、きっとやってくれる!」

「おねえちゃん!レフィおねえちゃん、いる!?」
コレットは、息切れしながら、船着き場で叫んだ。
「レフィ……?」
船乗りの少年は、首を傾げた。
「コレットちゃん!そんなに慌てて、どうしたの!?」
「い、一大事なの!王様が、王様が……」
「王様!?」
「おい、こんな所でのんびりしてる場合じゃないぜ!」
「……」
レフィは、ほんの少しだけ迷った。しかし、決心したように立ち上がると、ローブのフードを深く被った。
「おねえちゃん、なにを……」
「……早く、行きましょう」
「……うん」
船乗りの少年は、二人の後姿を見送っていた。
幼き日に見た笑顔を、再び見られる事を祈りながら。

人々は、ひたすら祈り続けていた。その時、コレットに連れられ、白いローブの人影が現れた。
「……この方が……?」
「はい、僕らの仲間です」
「お願いします、王様を助けてください!」
「……」
レフィは無言で屈みこみ、低く呪文を唱えた。光がレフィの手に集まり、王の身体へと流れていく。
「おお……」
見守る王の側近たちから、感嘆の声がもれる。しかし……。
レフィの力が切れ、光が消えても、王の病状は変わらなかった。
「そ、そんな……」
「これほどの魔術師にも不可能なのか!?」
王の間に、再び絶望が訪れる。もう、希望は、消えた。
その時、王が眼を開いた。
「お、王様……」
「……セルフィア……?」
王は、麻痺した身体を動かす。しかし、その瞳に映ったのは、最愛の妹ではなく、白いローブを纏った、見知らぬ人影であった。
「……セルフィアでは、ないのですね……」
「……」
「……あなたにも、この毒を取り除く事は、出来なかったようですね……。しかし、気を落とさないでください……。あなたの優しい力は、まるでセルフィア……僕の妹の、奇跡の力のようでした……。その力を、再び目にする事が出来ただけで、僕は幸せです……」
「……!」
レフィは、何も言わず、背を向けて駆け出す。
「おい、待てよっ!」
クラインは、慌てて駆け出す。コレットとジェイクも、その後を追う。
「……やはり、冒険者風情には、荷が重すぎたようだ……」
「可哀相に、あんなに気落ちして……。もう二度と、立ち直れないかもしれませんな……」
三年前も、同じだった。奇跡は、悪夢を越えられなかった。
悲劇は、再び繰り返されるのか……。

「レフィ!」
やっと追いついて、クラインは荒い息を吐いた。レフィは、バルコニーの手摺に凭れ掛かり、ぼんやりと外を見詰めていた。
「レフィ……!」
「慰めに、来たのですか?」
「違う!……お前、何で本当の事を言わないんだ!お前は、セルフィア……。この国の王女で、王様の妹なんだろ!?」
「違います!!」
信じられないほど強く叫び、レフィは振り向いた。その瞳は、強く……しかし、隠しきれぬ悲しみが、溢れかけていた。
「あなたは、知らないのでしょう!?三年前、この国が攻め込まれたのは……多くの人や、お父様やお母様が死んだのは……すべて、私のせいだって!!」
「え……?」
「ヴァンダーク帝国が狙っていたもの……。それは、他でもない、私の力です……。王都の人々も、お父様やお母様も……、私を守ろうとした人は、みんな死んだのです……。それなのに……!そんなに多くの人を死なせた私が、王女と名乗れると思いますか!?今だって……、レイゼルお兄様に、何も出来なかった……」
「じゃあ……、このまま、諦めていいのか!?大切な人を、また死なせてもいいのかよ!!」
「いいわけないでしょう!でも……、何が出来るって言うんですか!?あれが……、私が使える、最大の力なのに!!」
「なあ、レフィ……。自分の力について、考えた事ないか?呪文を唱えず魔術を使う以上、お前も『鍵』のはず……。おれはたぶん、お前の力は『光』だと思うんだ。……お前も見ただろ、この街の近くにあるのは、光の塔だ!」
「……まさか、守護神様に会いに行くのですか?」
「方法は、それしかないだろ」
「……出来るでしょうか。時間もないのに……」
「出来るさ。今までだって、何とかやってきただろ?それに……、頼もしい仲間も、いるし、な?」
「あちゃー……ばれてた?」
「すみません、立ち聞きしてしまったようで」
「コレットちゃんと、ジェイクさん!?」
「光の塔に行くなら、協力するよ?」
「僕も、お二人には、どこまでもお供します!」
「じゃ、決まりだな!善は急げだ、早速行くぜ!」
――考えてみれば、自分から塔に攻め込むなど、これが初めてだ。
最後の希望が、見つかる事を願って、一行は塔を目指した。

「……いきますよ」
レフィはゆっくりと手を伸ばす。もし鍵が開かなかったら……万事休すだ。
レフィは、扉に手を置いた。何の抵抗もなく、扉は開いた。思わず、溜め息がもれる。
「……本番はこれからだ。気を抜くなよ!」

塔の魔物は、さらに強さを増していた。先を急ぎたいが、数が多く、とても逃げ切れない。
「……こんな時に限って……!」
レフィは、明らかに焦っていた。そのためかえって、攻撃が乱れてしまう。
「レフィ、落ち着け!最上階まで、身がもたないぜ!」
そう言いながら、クラインも焦っていた。
レフィの抱える苦しみを、少しでも取り除いてあげたい。
自分がついている間は、絶対に悲しませない!
この想いが何なのか、クラインにはわからなかったけれど。

最上階にいたのは、異形の魔物ではなく、美しい女性であった。
「……いらっしゃい……」
身構えながら近づいたものの、攻撃する素振りをまったく見せない。
「一体、何しに来たの……」
「……光の守護神様に、会いに来たんです」
答えたのは、レフィであった。妙にゆっくりと喋る女性に、心なしか焦っている。
「そうなの、あなたたちが……。残念だわ、キレイな子ばかりだから、いい夢見させてあげようと思ったけれど……。アタシたちに楯突くのなら、許さない!悪夢にもがいて死ぬがいいわ!」
女性の顔が豹変した。振り上げた両手に、力が集まる。レフィは防護魔術を放ち、攻撃に備える。
「はあっ!!」
魔物の力は光の破片となり、今まさに攻撃しようとしたレフィに降り注ぐ。
「レフィ!」
「うっ……」
レフィの身体に、外傷はなかった。しかし、レフィは頭を抱え、うずくまる。
「レフィ!?」
クラインは攻撃を中断し、レフィを軽く揺り動かす。しかし、レフィはどこかを見詰めたまま、小刻みに震えるだけであった。
「お前、レフィに何をした!」
「悪夢を見させただけよ……。もっとも辛い記憶の夢をね!!」
三人が攻撃するより一瞬早く、魔物はコレットとジェイクに力を放った。
「きゃっ!」
「くっ……」
思い出したくもない光景が、鮮明に蘇る。
叱られても叱られても、魔術が使えなかった日々。
流血、炎、何一つ出来ない自分……。
「ふふふっ……。辛いでしょう?さあ、ボーヤも、すぐに夢を見させてあげる!」
クラインは、攻撃態勢に入った。魔物が力を使う。しかし……。
クラインは、止まらなかった。その勢いのまま、魔物を殴り飛ばす。
「ぐはあっ!」
思いがけない攻撃に、魔物は力を途切れさせる。
「なぜ……?なぜこの攻撃が効かないの!?」
「おれには……過去なんか、ないからなっ!」
次の一撃で、魔物は完全に力を止めた。苦しんでいた三人が、はっと我に返る。
「そんな……。もういいわ!このまま私の力でっ!」
魔物がその力を電撃に変え、攻撃を加える。しかし、正気にさえなれば、怖いものではない。
「いくぜっ!反撃だ!」
クラインの声で、一斉攻撃に移る……はずだった。しかし。
レフィは、動かなかった。弓矢をきつく握り締めたまま、震え続けている。
「レフィ!?どうしたんだよ!!」
「だめ……。出来ない……。この力を使うことなんて……!」
「いい加減、目を覚ませよ!!」
クラインの平手が飛び、レフィの頬を打つ。
「お前の過去に、何があったかなんて知らないけどな……。過去の事にいつまでも悩んでるくらいなら、目の前の事に集中しろよ!多くの人を死なせて後悔してるなら、少しでも多くの人を救えばいいだろっ!!」
「……っ」
同じだ。あの人と。
言葉は違うけれど……。
きっと、あの人も、同じ事を言ってくれる。
レフィは頷き、立ち上がった。
魔物は、心底憎らしげな顔をした。
「そんな……。この攻撃から、立ち直れるなんて……!」
「この程度で、やられるわけないだろっ!!」
クラインの蹴りで、魔物は壁に叩きつけられる。
「借りは返させてもらいますよ!」
ジェイクの大剣が、魔物の体を切り裂く。
「みんなを悲しませるなんて……。絶対、許さないんだから!!」
コレットの炎が、魔物を包む。
そして。
「もう……悪夢になんか、負けない!これで……終わりです!!」
レフィの矢が輝く。
いや、ただの光ではない。
これは……。
「電撃!?アタシと同じ……!?」
矢は、魔物の胸を貫いた。
音もなく、魔物は息絶えた。

宝珠の銀色の輝きの中から現れたのは、純白の翼を持つ天使であった。
美しい。思わず、息を飲むほど。
「ありがとう、私を救い出してくれて……」
光の守護神は、微笑む。
「あの……」
「何です?」
「私は……その……。どうしても、救いたい人がいるんです!だけど、このままでは、力が足りない……。だから……!」
「あなたは……あなたの成そうとする事に、十分な力を持っていますよ……」
「そんな……。この前は……」
「……その時あなたは、力を使う事に、迷いがありませんでしたか?」
「……!」
まるで、心を見透かされているようだ。
「自分の力を信じなさい。あなたの……いえ、あなたたちの力は、『救う』ための力。だから、あなたの強い意志があれば、出来ない事はない。そう……命を救うことさえ」
「本当……ですか?」
「ええ……」
命を、救う?
出来るはずがない。
もし出来るのなら……。
クリスは、死ななかった。

ライトニア城の者たちは、冒険者の帰りを、今か今かと待っていた。
一分一秒でも惜しい。
こうしている間にも、王はどんどん衰弱している。
「神様……!」
その時。
扉が、開いた。
彼らは……戻ってきたのだ。
「おおっ……!」
「助かるのか……王は」
「助かりますよ……きっと」
クラインは、レフィの背を押す。
レフィは、王の傍らにひざまずいた。
信じている。
きっと、王様は――レイゼルお兄様は、助かる。
光が、溢れた。
あの時より、ずっと強い光。
その光の中で……王は、瞳を開けた。
「王様……!」
「僕は……、助かったの、ですか?」
「ええ、この方が……!」
それは、先程、失敗したはずの人物であった。
「そうですか……。礼を言います。ありがとう……」
「……」
「何やってんだよ!」
クラインが立ち上がった。
「取っちゃえよ、こんな物!」
レフィのフードを、無理矢理取る。
「え……?」
「あ……」
『セルフィア様!?』
城内は騒然となった。
「まさか、セルフィア様が戻ってくるとは……」
「いい事は、続くものだな!」
「いや、そうじゃないかって気はしてたんだ!」
その騒がしい中で、兄妹は静かに、再会を喜びあった。
「よかった……。再び会えると信じていたよ、セルフィア……」
「私もです、お兄様……」
「……よかったな」
「ほんと」
「願いは、叶うものですね……」
三人も、それぞれの想いを抱く。
「しかし、お兄様……。私は、この街にいることは出来ません」
「なっ……なぜ!?どうしてそんな事を言うんだい、セルフィア!」
「三年前……私のために、多くの民が死にました。例え、お兄様が許してくださっても、民は……」
「おっと、心配無用だぜっ!」
元気な声が響く。
そこにいたのは、船着き場にいた、船乗りの少年であった。
「ティム!?」
「おれだけじゃないぜっ!」
ティムの後ろには、数え切れないほどの人影があった。
「王女様!」
「よくぞご無事で……」
「随分とお綺麗になったねえ……」
「また、奇跡を起こしたのかい!?」
「なんと、瀕死の王様を救っただと……」
「素晴らしい!」
「セルフィア王女、万歳!」
「ライトニア王国、万歳!!」
鳴り止まぬ歓声。
『信じなさい、自分の力を……』
レフィの瞳には、光る物があった。

「そうか、まだ旅を続けるのか……」
「はい……。私にはまだ、やらなければいけない事があるのです」
「そうですか……。寂しいですが、旅の無事を祈り、待っているとしましょう」
「約束します、お兄様。必ず戻って来ると……!」
「ええ。……みなさん、セルフィア……いえ、レフィアスの事、よろしく頼みますよ……!」
「はい!」
「任せてよ!」
「もちろんです!」
旅立ちの朝。
涙は、なかった。
この先の事など、何一つわからないけど。
信じているから……!

「なあ……レフィ」
クラインは、船の上で、レフィに話し掛けた。
「何です?」
「悪かったな……その、叩いたりして」
「いいですよ、気にしてませんから。私も……ずっと王女って事、隠してましたしね」
「そっか。……なら、いいんだ」
またしばらく、沈黙が続く。
「ねえ……クライン」
「んっ!?」
次に話し掛けたのは、レフィの方であった。クラインは、突然呼び方を変えられて、驚く。レフィの方も、顔を赤らめる。
「あ、その……。クラインの家族や、故郷の話も、聞かせてほしいと思って……」
「……ないんだ」
「え?」
「いや……わからない、かな。……記憶が、ないんだ。三年くらい前で、きれいに途切れてる」
「そんな……」
まさか。
あの人は、生きていた……?
いや、そんなはずはない。
レフィは、その思いを振り切った。
奇跡を夢見たのは何度目だろう。
でも……彼は違う。
あの人の瞳は、藍色だったから。


〜後書き〜
どうも、ようやく折り返し地点って感じです。ここまで読んでくださった方、本当に感謝です。あと半分、頑張りますね。
さて、今回の後書きはレフィアス(=セルフィア)について。あっ、王女ってのも、ありきたり……。
まあ、その辺は気にせずに。
なぜセルフィアは、レフィアスと名乗っていたのか?推理物が好きな人には、簡単ですね。

答え:セルフィアは、アルファベットで書くと「Selfia」。レフィアスは、「Lefias」となります。つまり、並び替えですね。
えっ?この世界では英語が使われてるのかって?
気にしないでください。


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