第6章 〜彼女の求めた強さ〜



シルフィニール。ヴァンダーク帝国領のこの町は、活気に溢れた商業都市である。一行がこの町に寄った目的は、他でもない。
「すみません……僕のためにわざわざ」
そう言ったのは、鎧の替わりに冒険者用の服を着た、ジェイクであった。普段見慣れていないせいか、印象が違って見える。
「いいんですよ、無料で同行して貰ってるんですから……。折角ですから、ゆっくりしていきましょう」
「まあ……たまには、こういうのもいいかもな」
クラインは、楽しそうに言った。
コレットは、相変わらず物珍しそうに辺りを見回している。レイシーは、こういう場所に慣れていないらしく、途惑っている様子だ。
「そこの二人、とりあえず武器屋に行くからな。はぐれるなよ!」
クラインは念を押したが、どうもあの二人を見ていると不安になる。

シルフィニールの武器屋の品揃えは、中々のものだ。武器も防具も、かなりの種類がある。
「どうだジェイク、良さそうなのはあるか?」
「……う〜ん……。これ……かな?」
ジェイクが示したのは、金と銀が混ざったような光沢を放つ鎧であった。しかし……。
「……高い……」
豪華な宝石でも手に入りそうな値段だ。もっと安価なものを探すが、どれもさほど変わらない。
「すみません、相場を知らなかったんです……。この鎧、支給品ですから……」
「いや、相場がどうとかじゃなくて、明らかに高すぎるぞ……?」
「申し訳ありません、お客様……」
いつの間に現れたのか、店員らしき人物が立っていた。
「実は、帝国からのお達しで、帝国の兵士以外には、高値で売れと言われたのですよ……。我々としましても、もっと値下げしたいんですがね、そうすると、帝国側に、武器を買っていただけなくなるんですよ、ええ……」
どうやら、他の客にも、散々文句をつけられているらしい。哀れな様子である。
「……どうします?」
「……でも、これだけ高額の物を買う余裕はありませんよ?」
「う〜ん……。あっ、そうだ!」
クラインは、何か思い付いたらしい。
「お金がないなら、稼げばいいんだよ!」
「でも、どうやって……?」
「おいおい、おれが今まで、どうやって生活してきたと思ってんだよ?」
クラインが笑って言う。
「依頼だよ、これだけ大きな町なら、冒険者協会くらいあるだろ?」
『あ……っ!』
そう言われてみれば、そうである。一行は、現在は冒険者なのだから、お金は依頼を受けて手に入れればいいのだ。
「そうと決まれば、善は急げだな!」
一行は、店を後にした。

依頼というものは、種類も報酬も、千差万別である。冒険者は、数ある依頼の中から、もっとも自分にあったものを探さねばならない。
「すぐにこなせそうで、金額も良さそうなのは……これしかないな」
クラインは、依頼書の一つを指差す。そこには、この町に近いエアリアルマウンテンの魔物を、退治して欲しい、と書かれている。
「魔物退治?いいじゃん、それ!」
コレットが声を上げると、周囲の冒険者たちが、好奇の目を向ける。そもそも、こんな所に子供がいるなど、滅多にない事だ。
「すいません、この依頼……」
「この依頼、受けさせてもらう」
突然割り込んできた人物が、同時に声を上げる。
「あ、ちょっと、横入りしないでよっ!」
「何だよ、名も上げてない冒険者が、俺に口出しする気か?」
その人物は、翠色の目を鋭く細め、こちらを睨みつける。
「……坊主たち、ここは引いた方がいいぜ。その女……セリアには、並大抵の男じゃかなわねえんだ。下手に逆らうと、怪我するぜ」
「女……?」
男は忠告をしたつもりなのだが、冒険者一行は、別の部分に注目している。
一行は、セリアという名の人物を、まじまじと見た。
確かに女に見えなくもないが、彼女からは女らしさというものが伝わってこない。長い琥珀色の髪は、後ろで束ねただけという感じだし、翠色の瞳はとにかく鋭い。大体が、話し方からして、女らしくない。
「ふん、どう思われようと、俺には関係ないな。ただ、俺が言いたいのはな……群がってるような奴らには、絶対に負けないって事だよ!!」
セリアは語尾を荒げた。
「……どうする?」
困り果てた顔で、クラインが言う。
「……あの……」
レフィが、セリアに話し掛ける。
「もしよろしければ、私たちに協力していただけませんか?依頼料は、私たちとあなたで、半分ずつという事でいいですから……」
「お前らとつるむ!?冗談じゃねえ!」
セリアは一行に背を向ける。
「俺とお前ら、先に魔物を倒した方が依頼料を受け取る。それでいいな!」
返事も聞かずに、セリアは行ってしまった。
「……ほんと、どうするんだよ?今回は、諦めるか?」
相手はどうやら、この辺りの人間らしい。勝ち目はなさそうだ。
「……ぼく……」
レイシーが、小さく声をだす。
「ぼく、あの人を、放っておいちゃいけないと思う。……なんだか、無理してる気がするんだ……」
「無理してる? あいつ、強いんじゃないのか?」
「違う、そういう事じゃなくて……。ぼく、なんだか、あの雰囲気は、無理矢理つくってる気がするんだ……」
「……とりあえず、追いかけてみたらどうです?気になるなら、放っておくのは良くないですよ?」
「うーん……。そうだな、うまくいけば依頼料も手に入るしな!」
思わぬ展開になったものの、一行はとりあえず、エアリアルマウンテンに向かう事にした。

「何なんだ、あいつら……」
セリアは、むしゃくしゃした気分で、エアリアルマウンテンへの道を歩いていた。
実を言うと、あんな依頼など、どうでもよかったのだ。お金に困っている訳ではない。しかし……。
群がって和気藹々としていた彼らの雰囲気が、なぜか気に入らなかったのだ。
「あんな奴らに……群がってなきゃ何も出来ない奴らに、負けてたまるかっ!」
この地に住む彼女が……この地では、名を知らぬ者はないとまで言われた彼女が、余所者に負けるはずがない。
そう、彼女に……負ける理由など、ないのだ。

標的の魔物は、竜だ。
竜。硬い体と様々な攻撃方法を持ち、数ある魔物の種族の中でも、最強とすら言われる。
「ふん……。相手に不足はないな!」
セリアの目の前には、体長が彼女の二倍ほどもある竜がいた。
竜はセリアの姿を認めると、炎の息を吐き、地面の草を薙ぎ払う。
「俺に見つかったのが運の尽きだな!!」
セリアは両手に二本ずつの短剣を持ち、力を集中する。
「はああぁぁぁっ!!」
目にも留まらぬ速さで、短剣は竜の鱗を切り裂いた。その速さは、彼女の腕の振りのみで生まれたのではない。
短剣の纏った風。これこそが、彼女の最大の武器であった。
しかし竜は、痛みすら感じていないかのように、攻撃を続ける。
攻撃直後で、不安定な態勢のセリアを、炎の息が襲う。しかし、セリアの力が、風向きを追い風に変え、熱気を押し戻した。
「さあ……どうする?」
もっとも、セリアにはわかっていた。竜の次に取る行動が。
肉弾戦に持ち込もうと、間合いを詰めた竜に、セリアの力が襲い掛かる。
竜の体の周囲にできた、無数の真空。そこに押し寄せる風は、いとも容易く竜の体を刻む。
大量の血飛沫を上げ、竜は倒れた。
「覚えておけ……微風は時に、牙を向く事を」
その時、セリアの背に、鋭い痛みが走る。
敵は、一匹ではなかった。セリアは、地面に倒れこみながら、その正体を見た。
それは、巨木とすら肩を並べるほどの竜。
先程の竜の二倍……いや、それ以上はあろうかという体。
「まさか……さっきの竜は、子供……!?」
負ける……。
このままでは、待つのは死のみ。
やはり……女の俺に、兄貴は越えられなかったのか。
竜の爪が、迫ってくるのが見える。
その時。
水の鞭が、竜の手を弾いた。

「あいつ、どこいったんだ……?」
一行は、山道を、出来る限りの速さで登っていた。しかし、セリアの姿は、どこにも見当たらない。
「竜がどこにいるかぐらい、訊いて来ればよかっのに……」
呼吸の合間に、コレットが文句を言う。
「うるさいな、あいつは足速いから、そんな悠長な事、してられないと思ったんだよ!」
「! 待って!」
突然レイシーが立ち止まる。彼は、精霊を使って、辺りの様子を探っていた。
「……こっち!」
レイシーは、迷う事なく、一つの方向を目指して走る。他の者も、慌てて後を追う。
「本当に、こっちで合ってるんですか?」
「間違いない。……竜の気配なんて、精霊が間違えるはずないよ!」
木々や茂みがなくなり、視界が開ける。
そこにいたのは……見た事もないほど巨大な竜と、背中から血を流したセリア。
「セリアさんっ!」
竜が、その大きな爪を、振り下ろそうとする。
レイシーは、素早く呪印を描く。
水の鞭は、竜の手を強く弾き、意識をこちらに向けさせた。
「馬鹿、何やってるんだ……」
セリアの声がする。傷が痛むのか、苦しそうな声だ。
「早く逃げろ……。お前らのかなう相手じゃない……!」
「そんな、それでは、あなたが……!」
「俺に構うな……!ここで死を迎えるなら……所詮、それまでの人間って事さ……」
セリアは瞳を閉じる。
「駄目だよ!死は……そんな簡単に、迎えていいものじゃない!!」
レイシーの手が呪印を描く。大きく鋭い氷柱が、竜の体に深く刺さる。
炎の息が、辺りの木々を焼き払う。しかし、その炎が、セリアの身体を焼く前に、クラインが、竜のもとから救い出していた。
「レフィ、回復頼むぞ!おれたちは……あいつを倒す!」
冒険者たちの戦いから少し離れた所で、レフィは治癒の力を施した。
「くっ……」
「動かないでください、結構深く傷ついていますから……」
「情けない、敵に助けられるとはな……」
「敵も味方も関係ないです。今は、あの竜が、共通の敵ですから……」
会話をしながらの治療なのに、レフィの力は、異様なほど治りが早い。
竜と戦っている者たちも、あれだけの敵相手に、たった四人で押している。
「何者なんだ、お前ら……。それだけの強さがありながら、何故群がっていようとする……?」
「私たち、何かを探しているんです。それぞれ、求めるものは違うけれど……一緒にいる事で、何かが得られるような気がするんです」
「そうか、それが……理由か」
セリアは立ち上がった。傷は、完治している。
「……俺も加勢する。お前の仲間、大分傷を負っているようだからな、回復してやれ」
「……はい」
セリアは短剣を構え、力を込める。
突然変わる、空気の流れ。
「え……?」
彼女に、呪文を唱えた様子はない。
「まさか……!」
「どいてろっ!」
四本の、風を纏った短剣が、竜に突き刺さる。しかし、それだけでは、決定打にはならない。
もちろん……それだけで終わらせるつもりなど、ない。
短剣を中心に巻き起こった風は、竜の体を深く切り裂く。
「止めだ……っ!」
真空の刃が、敵の首をはねていた。

「……すごぉい……」
コレットは、驚いて眼を丸くしている。
「……ふん」
セリアは背を向ける。
「俺の負けだ。依頼料は、お前らが受け取れ」
「……いえ、半分は、あなたのものですよ」
レフィが言った。
「先に魔物を見つけたのも、止めを刺したのも、あなたでしょう?」
「なっ……何言ってんだよ!」
セリアは焦った様子だ。
「……それで、いいですよね?」
一行は、みんな頷いた。
「……素直に全額受け取っときゃいいのに……」
セリアは溜め息をつく。
「お前ら、よくそんなんで冒険者が務まるな……」
「別に、金のためにやってるんじゃないからな」
クラインが言った。
「……そうか」
そういえば、レフィとかいう、銀髪の女が言っていた。「何かを探している」と……。
それなら、俺も、同じだ。
「じゃあ、せめて、宿代くらい払わせろよ。……お情けかけられたと、思われたくないからな」
セリアは背を向け、さっさと歩いていってしまう。
その背中は、彼らを拒絶してはいなかった。

セリアは、宿屋のベランダから、外を見詰めていた。
と、足音がする。
「……誰だ」
低い声で言って、セリアは振り向く。そこには、青い髪の少年がいた。
「……なんだ、レイシーか」
「……ごめん、驚かしちゃったかな」
「……いや。どうしたんだ?」
「急にいなくなってたからさ、探してたんだ」
エアリアルマウンテンに一軒だけある宿屋は、一部屋しかない小さなものだった。一行は、仕方なく、同じ部屋に泊まっていたのである。
「……大勢でいるのは、落ち着かないんだ」
「……どうしてセリアさんは、いつも独りでいるの?」
「……シリウスって名前の冒険者、知ってるか?」
シリウス。今生きている中では、最も有名な冒険者であろう。 ……なぜなら、レイシーが、その名を知っているから。
「……うん。すごいよ、僕の村まで情報が入ってるんだから」
「……シリウスは、俺の兄貴だ」
「えっ!?」
まさか、あの有名な冒険者の、妹だったとは。
「……俺は、物心ついた頃から、兄貴に育てられていた」
「……優しかった?」
「まさか。自分の実の妹を、命懸けの冒険に連れてくんだぜ?ナイフ投げも、無理矢理教え込まれたし」
そう言いながらも、セリアは楽しそうだ。
「……でもな。突然……いなくなったんだ。……置き手紙が残ってた。『強くなれ』……それだけ書いてあったんだ」
セリアは溜め息をつく。
「……じゃあ、強くなるために独りでいるの?……男言葉なのも?」
「……そうだ」
「……それは、違うと思うよ」
「なぜだ?……独りじゃ生きていけないような奴は、強くないだろう?」
「そうかもしれない。……でも、ぼくは、あの人たちと出会ってから……独りでいた頃より、強くなれた気がするんだ」
レイシーは話を止め、少し俯いた。それから、決心したように、顔を上げる。
「ぼくの住んでいた村は、レインフォール……ガイアロードに、滅ぼされた村だ。……生き残ったのは、ぼく一人なんだよ」
セリアは、驚いた様子で、レイシーの顔を見る。
「その時のぼくは、心が弱かったから……魔物の誘いにのって、邪悪な力を手に入れてしまったんだ。その時の力は、きっと今より強かったけど……でもぼくは、それを強さとは思わない」
「それなら……お前の考える強さって、何だ?」
「……自分が正しいと思う道を、まっすぐ進める人がいたら……その人は、強いと思うよ」
「……例え、誰かに支えられていても?」
「うん」
「そうか……」
セリアは、夜空を見上げた。レイシーも、同じ空を見る。
「星……綺麗だな」
「うん……そうだね」
「……レイシー」
「何?」
「……いや、何でもない」
「そう。……そろそろ、寝ようか?」
「ああ……そうだな」
寝床に戻るレイシーの後姿を見ながら、セリアは、さっき言いかけた言葉を、そっと呟いた。
――こんな夜は、二人でいるってのも、いいかもしれないな……

「塔の魔物を倒した!?……お前らが」
「ああ、信じないなら別にいいけど」
一行は、シルフィニ―ルに戻り、依頼料を受け取っていた。ジェイクは、購入したばかりの鎧を着ている。
「……どうすれば、塔の魔物と戦えるんだ?」
「ん?ああ、まず、呪文を唱えずに魔術を使う、『鍵』を連れてきて……」
「……こういう事か?」
セリアは両手を前にかざし、力を込める。突然の風に、一行の服の裾がはためく。
「なっ……お前、こんな力持ってたのか?」
「……力だけじゃ、男には勝てない。この力があったから……俺は、名を上げる事が出来たんだ」
「じゃあ、お前、塔の中に入れるな。……おれたちは、どうするんだ?」
「……行きましょう。この力は何なのか……次こそ、知る事が出来るかもしれない」
「じゃ、決まりだな!……あれ、てっきり断わられると思ったのに……」
「……独りで倒せるような相手か?」
「まあ……そうだな」
「……さっさと行こうぜ。日の暮れる前に済ましたい」
「はいはい、独りで突っ走るのだけはやめろよ?」

セリアが扉を開き、一行は塔の中に入った。
「……形だけは、普通の塔と変わらないようだな」
「ああ。……でも気を付けろよ、魔物の強さは格段に上がってるから」
「わかってるよ……」

「なっ……こいつら、速すぎる!」
「攻撃が……当たらないです!」
風の塔の魔物は、かなりの速さを持っていた。攻撃がなかなか命中せず、一行は苦戦する。
「馬鹿……見切れない速さじゃないだろ!」
セリアは狙いを定め、短剣を投げる。足を負傷した魔物は速度を落とし、他の仲間によって息の根を止められた。
「さすがだね……セリアさん」
「ふん……伊達に冒険者はやっていない」
セリアは、自身に満ちた顔をする。
昨日は不覚だったが、戦いに集中してさえいれば、彼女は文句なしに一番の強さを持っていた。
「……油断しないでください。最上階の魔物は……予想も出来ない強さを持っていますから」
「ふん……」
そう、予想も出来ないのだ。
この時のセリアは、塔の魔物の強さを、予想していなかった。

「くく……ついに全員で、我らに刃向かうか!」
そこにいたのは、伝説上の生物……カマイタチであった。
鎌のごとく鋭き爪を持ち、目にも留まらぬ速さで人を切り裂く生物。
「……しかし、いくら六人集まろうと、我には勝てぬ!限界を超えた……我にはな!!」
次の瞬間、魔物の姿は、消えた。
僅かな残像を残して。
そして……次々に負う、無数の切り傷。
「くっ……」
レフィは回復魔術を使い、続いて防護魔術を使う。
しかし、防戦一方では、レフィの力の尽きた時が、最期だ。
「……はあっ!」
敵が突っ込んでくるのを見計らい、ジェイクが剣を振り上げる。しかし魔物は、鋭角的な動きで、それをあっさりとかわした。
「なっ……なぜそんな動きが……!?」
「言っただろう……限界を超えた、と」
「……コレット!どうにか魔術を当てられないか?」
「……無理だよ!こんな近くで使ったら、みんなまで……!」
「……セリアさん……!」
「無理だ……。いくら俺でも、目で追えないものには当てられない……」
「……そんな……」
体力は、確実に削られてゆく。このままでは……いつか、最期が訪れるのみ。
「負けたくねえ……。俺の命を、こんな所で終わらせてたまるか!」
まだ、兄貴にも認められていないのに。
そう……目標は、一つも達成していないのに。
「……セリアさん……」
セリアに声を掛けたのは、レイシーであった。レイシーはセリアに、何事か耳打ちする。
「……俺に指図するとは、度胸あるじゃねえか」
「これしか、思いつかなかったんだ……」
「ふん……しくじるなよ!」
レイシーは、左手で呪印を描き出した。セリアも、力を集中させる。
「……いくぞ」
一行の周りに、穏やかな上昇気流が巻き起こる。
「くくっ……そんな微風、痛くも痒くもないわ!」
その時。
急に、辺りの気温が下がった。
そして……。
風の中に、無数の煌きが現れた。
「ぐっ……ぐあぁぁっ!?」
魔物が全身から血を流し、動きを鈍らせた。
そこに、一気に攻撃が集中する。
「レイシー……お前、一体何を……」
「……風の中に、氷の粒を生み出したんだ。……硝子のように鋭い粒を、ね」
「……やるな、お前」
セリアが、ほんの少しだけ、笑みを浮かべる。
「俺も……負けてられないな」
セリアは、短剣にありったけの力を込める。
「……俺を苦しめた借りは返すぜ」
セリアは、四本の短剣を、連続で投げる。
切り裂かれる、魔物の体。
――微風は時に、牙を向く。
その生き方は孤高でも――決して仲間だけは見捨てない、狼のように。

「ついにすべて揃ったか……。最早これは、単なる過ちでは、済まされなくなってしまったようだ」
風の守護神。その姿は、美しき白狼であった。
「……過ちとは、一体何なのですか?」
レフィは、抱き続けた疑問を口に出す。
「……その真実は、過ちを犯した者にしかわからぬ。そなたたち自身で確かめるしかない。……一つだけ言えるのは、そなたちは力を守り、世界の均衡を保つべく、その力を授かったという事だ」
「……俺は、そんな事のために力を使おうなどと、考えた事はなかったが?」
「……しかし今、ここにいるではないか」
「……」
「……そなたの求めるもの、それは、彼らと共に行く事で、手に入るかもしれぬ」
「……」
「忘れるな。言葉の意味は一つではない。……自分の思っている意味が、すべてではない事を」

「セリアさん……これから、どうするの?」
レイシーの問いに、少し間を置いて、セリアが答えた。
「……ついて行くさ、お前らに。……ヴァンダーク帝都なら、そう遠くないしな」
「ありがとうございます。……心強いです」
レフィにそう言われたが、セリアは背を向ける。
「勘違いするな。お前らとつるむ気はない。……いつか兄貴を超える、その目的を果たすためだ」
「かぁっこいい事言っちゃって、本当は……」
「わっ、だめだめ!」
何か言いかけるコレットの口を、ジェイクが塞ぐ。
「……?」
「何でもないです、……気にしないでください」
「フフッ……」
セリアは、笑った。
こんな楽しい気分は、何年ぶりだろう。
不思議だ……本当に、今、強くなれた気がする。
人の強さなんて、本当は曖昧だ。
独りでいた兄貴、共に旅しているこいつら……。
どちらも、本当に強いのだから。


〜後書き〜
みなさんこんにちは!すでに受験終了した鈴掛です!
いやあ、実はセリアさん、結構お気に入り。本当は、武器を銃にしたかったんだけど……この世界の時代設定(?)に合ってないと思い、投げナイフにしました。
しかし、「セリア」って名前もよくあるなあ……。実は、とあるマンガにも出てるの見たんだけど、その時すでに「セリア」で固まっちゃってて、どうしても変えられなかったのです。だから、他の「セリア」を意識しないで読んでいただけるとありがたいです。はい。
実は本章で、『鍵』の仲間たちは、全員集合しました。次章はいよいよ、物語の核心にせまります。意外な展開か在り来たりかはみなさんの判断に任せますが、出来るだけ楽しめる作品になるよう頑張ります。


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