第2章 〜落ちこぼれの魔術師〜
「おお、やっと見えてきたな、ソルフレイム!」
額に手を当てながら、クラインが言う。
あの後、何度か魔物に遭遇したものの、レフィの案内のお陰で、無事に森を通り抜けることが出来た。
それにしても、彼女は何者なのだろう。これまで数時間ほど、共に旅をしてきたが、彼女は身の上を全く語らなかった。最も、クラインだって、聞き出す気は毛頭ない。依頼や依頼主について深く干渉しないのが、ルールでありマナーでもある。
しかし、それにしても、レフィの神秘的で近寄りがたい雰囲気は、彼女が只者でないことを感じさせた。
「せめてもうちょっと、打ち解けてもらいたいんだけどな……」
「あの……何か?」
「い、いや、何でもないんだ!」
クラインは、慌てて手を大きく振る。やっぱりやりにくいな、と感じた。
ソルフレイムは、魔術によって確立した都市である。当然、中心となるのも、魔術に関係した建物である。
魔術書の置かれた図書館、魔術に関連した品々を売っている商店街、そして……
「ついた、ここが『ソルフレイム魔術アカデミー』だ!」
二人の目前に、石造りの大きな建物があった。
ソルフレイム魔術アカデミー。子供の学生から大人の研究者まで、己の魔術を鍛えようと志す者が集まる、魔術の中心地である。
そんな由緒正しき場所にも、悪ガキはいるらしい。
「わーん、返してよ、私の杖〜」
「やーい、やーい、悔しかったらここまで飛んでみろ!」
「……留まることなき風よ、我が身に宿りて翼となれ!」
少女が呪文を唱えると、一瞬身体が浮き上がり、すぐ地面に着く。
「ギャハハハハハハ!」
「そんなの飛んだって言えね〜よ〜!」
地上で今にも泣きそうになっている、赤毛を二つに結んだ、紅い瞳の少女は、紫のローブを着ている。
対して、杖を取り上げてからかっている二人の少年は、青いローブを着ている。
「やれやれ……ガキだなあ、クラスが下の子をいじめて楽しんでやがる」
「少々、懲らしめてやった方がいいのでは?」
「え……?」
どうも、レフィらしからぬ発言である。
と、その時。突然少女が、呪文を唱え出した。
「我が心よ、大気と交わり、熱き炎と成せ!」
少女の前に現れた炎が、二人の少年をかすめ、後ろにあった大木を一部吹き飛ばす。
「うわ、こ、こいつ、無茶しやがる!」
そこに冒険者二人が、すかさず罵声を飛ばす。
「いい加減にしなさい!」
「男らしくないぜっ!」
「げげっ!」
「に、逃げろぉっ!」
少年たちは、杖を投げ捨てると、慌てて逃げていった。
「やれやれ……」
「大丈夫だった?」
どうやら少女に、怪我はなかったらしい。涙を拭うと、こくりと頷いた。
「うーん、いざとなったら助けようと思ったけど、必要なかったみたいだな」
「ところでおにいちゃんたち、ここで何してるの?」
「ああ、ちょっと依頼を……って、忘れてたっ!」
慌ててアカデミーに入るクライン。レフィも、その後に続く。
「……おにいちゃんたち、強そうだなあ……」
少女は、溜め息をついた。
「今回の依頼主は、ここの校長なんだ……」
その言葉に、レフィは目を丸くする。
「そんな凄い方の依頼を……!?」
「ああ、信じられないかもしれないけど、おれは若手の中じゃいちばん腕が立つんだ。……って、ほんとに信用してないな」
まあいいか、とクラインは溜め息をつく。当然といえば当然だ。道に迷ったあげく、魔物に倒されそうになったところを助けられたのだから。
アカデミーの廊下を歩いていると、色とりどりのローブを着た子供たちと、何度もすれ違う。ローブは、階級によって色分けされている、とクラインは説明した。
しかし、先程の少女と同じ、紫のローブを着た子は、ほとんど見かけない。いるとしても、まだ七、八歳程の、小さな子ばかりだ。
校長室は、最上階にあった。クラインが名を告げると、すぐに扉が開けられる。
「待っていたぞ。例の物は、持って来たかね?」
「はい。……これでよろしいですか?」
「ああ、結構だ。……報酬だ。受け取りなさい」
「ありがとうございます」
「ところで……そこの白いローブの娘は、一体何者なんだね?」
「ああ、彼女は……おれに護衛を依頼した、依頼主なんです。」
「ふむ。……実は、折り入って話があるのだが……」
「おれでよろしければ、どうぞ」
「ああ。……実は、私には、コレットという娘がおる。親馬鹿かもしれんが、彼女には魔術の才能があると感じておる。しかし……だ。アカデミーに入学させ、教育を受けさせているにも関わらず、未だに藍色(インディゴ)クラスにすら昇格できん」
二人は顔を見合わせた。確か、先程の赤毛の少女も、最下級の紫のローブを着ていた。
「コレットももう十一歳。同い年の子には、そろそろ青(ブルー)クラスに昇格する者も出てきておる。そこで、お二人の腕を見込んで頼みがある。我が娘に、魔術を教えてほしいのだ」
「え……そんな、困ります」
「教えるのは、あなたたちの専門でしょう!?」
「無理は承知だ。しかし、我が校のどんな教師が就いても、コレットに魔術を教えることは出来なかった。この際、少々荒療治でも構わん。頼む……!」
二人は顔を見合わせ、頷いた。
「その依頼、引き受けさせてもらいます!」
「そうか!それはありがたい!成功の暁には、僅かながらお礼をさせてもらおう」
「はい!」
「では早速、コレットちゃんを探してきます!」
「おいおい、顔を知っておるのか?」
「赤毛を二つに縛った、紫のローブの子でしょう?」
クラインが答えると、校長は苦笑する。
「……どうやら、もう知っておったようだな。しかし……」
校長は、遠くを見る目つきをした。
「何故コレットは、魔術を使えんのだ。これほど調べてもわからんとは……」
クラインとレフィは、まさに、最後の希望であった。
「……驚いたな、まさかおれたちが、魔術を教えることになるなんて……」
「でも、よかったんでしょうか?私たちは呪文を唱えていないから、正確には魔術と言えないのでは……」
クラインは、一瞬ぐっと詰まったが、すぐに笑顔をつくる。
「ま、まあ、いいんじゃねえの?呪文を唱えるか唱えないかの違いだけで、使い方自体は変わらないだろ」
「……だといいですね……」
レフィが、少々汗をかきながら苦笑する。どうやら、大分心を許してくれたらしい。
「それにしても……いないなあ、コレット」
「街の中には、いるはずですけどね……」
「おやあんたら、コレットちゃんを探してるのかい?」
人の良さそうなおばさんが、話し掛けてきた。
「おばさん……、コレットちゃんの居場所、知りませんか?」
「ああ、コレットちゃんなら、例の二人組に連れてかれたよ。炎の塔に行くとか言ってたけど、何するつもりかねえ……」
「炎の塔……。この街の、北西にある塔でしょうか?」
「ああ、そうだよ」
「……どうします?」
レフィが訊ねると、クラインはすぐに答える。
「手掛かりはそこだけだ。とりあえず、行ってみようぜ!」
二人は、塔に向かって走り出した。
丁度その頃、コレットと悪ガキ二人組は、炎の塔の前にいた。
「なんなのよう、こんな所に連れて来て……」
「何言ってんだよ。特訓だよ、特訓!」
「聞こえるだろ、魔物の唸り声!こんなとこで修行すれば、絶対強くなるって!」
「……でもここって、伝説の塔でしょ?扉は開かないんじゃないの?」
「バッカだなあ、そうやって噂流して、誰も近づかないようにしてるだけに決まってるだろ!」
「ん……?待てよ?ってことは、中には財宝が眠ってるかも!」
「ひゃっほう!早く中に入ろうぜ!」
いつの間にかコレットのことなど忘れ、二人は財宝に夢中になる。
「あ、あれ、開かないぞ……。おい、お前もこっち来て手伝え!」
小柄で黒髪の少年が、大柄で茶髪の少年を呼ぶ。しかし、二人で力を込めても、扉は開かない。
「おい、コレットも手伝うんだよ!」
「う……うん」
コレットは全く乗り気でなかったが、渋々手伝う。
コレットは、二人の間に入り、扉に手を触れる。すると、さほど力を込めていないのに、扉が開いた。
「お、おい、開いたぞ……」
「やっぱりあの噂、嘘だったんだな」
「見ろよ!宝があるぜ!」
「うおおおお!やったぜ!!」
今にも塔に飛び込みそうな二人を、コレットは慌てて引き止める。
「待ってよ、魔物がいるじゃない!子供が入ったりしたら危ないよ!」
「バーカ、おれたちはお前とは違うんだよ!あーんな魔物、魔法を使ってちょちょいのちょいさ!」
「怖いんだったらそこにいな。宝は分けてやんないぜ!」
二人はそう言うと、コレットの制止も聞かず行ってしまった。
「ほんとに知らないからね!」
コレットは最後の警告をして、入り口に座り込んだ。
「大丈夫かな……。大丈夫よね、あの二人、あれでも腕は確かだし!」
でも、魔物って、あの地震の後に、突然現れたのよね……。だから、どれだけ強い魔物がいるかなんて、わからないじゃない……。
やっぱり、誰かに知らせるべきだろうか。そう思って立ち上がったとき、遠くに見覚えのある人影が見えた。
「おにいちゃんとおねえちゃん!」
まさか、あの二人に、こんなところで再会するとは思わなかった。
「何しに来たの!?」
「ああ、ちょっと、依頼でな……。悪ガキどもは、一緒じゃないのか?」
「ルイとユーリの事?二人なら、塔の中に入ってっちゃったよ」
「何だって!塔の中!?」
見ると、開かないはずの塔の扉が開いている。
「どうして塔の扉が……?」
「わかんない……。ほんの少し押しただけなのに、開いちゃったの」
「そうか……」
一体何が起こったのか、まるで思いつかない。何気なく塔の中を見ると、かなりの数の魔物が目に付いた。どうやら、考え事をしている暇はないらしい。
「……行くか、レフィ?」
「ええ、もちろん」
「コレット、お前は街に戻って、助けを呼んでくれ」
「……いや」
「え……?」
「あたしも、塔の中に行く。あたしも、おにいちゃんやおねえちゃんみたく、強くなりたい!」
クラインとレフィは顔を見合わせ、やれやれ、と溜め息をつく。
「……ついでに依頼も、こなすとしますか」
「コレットちゃん、私たちから絶対離れないで。それと、危なくなったら、とにかく逃げるのよ。わかった?」
「うん!」
「よし、決まりだな!」
三人は、塔の中へと進んだ。その先に待つものも知らずに。
「すごい数だな……。あいつらを見つけるまで、もつか?」
「力を使うのは、出来るだけ抑えましょう!」
塔の中は、まさに魔物の巣窟であった。森の中とは比べ物にならない程の数が、塔の中に密集している。
それでも三人は、どんどん奥へと進んでいく。コレットの炎の魔術も、かなり役に立っていた。校長の勘は正しかったらしく、かなりの数を撃っているのに、ほとんど消耗がない。
「これだけすごい魔術師が、どうして紫(パープル)クラスなんだ?」
クラインの問いに、コレットが答える。
「進級試験はね、六属性魔法のうち五つが使えないと、合格できないの。あたしがまともに使えるの、炎だけでしょ……?全部、魔力さえあれば、呪文唱えるだけで使える魔法なのにね……」
「そうなんだ……」
どうも腑に落ちない顔で、クラインが呟く。一方レフィは、思い当たる節があるのか、少々考えこんでいる。
と、その時。
三人の耳に、悲鳴が飛び込む。
「あの声って……!」
「行ってみよう!」
三人が声のした方向へ走る。するとそこには、一際大きな魔物と、それに捕まっている二人の少年がいた。
「このやろう、放しやがれ!」
「ちくしょう、なんでこいつだけ魔術が効かねえんだ!」
魔物は、一見人間のような姿をしていた。しかし、全身は鱗につつまれ、口は大きく裂け、大きな眼の瞳孔は細い線の形をしていた。
強いていえば、人型をした大蜥蜴であろうか。
「ククク……人間のガキにしては、なかなかいい魔力じゃねえか。あとでたっぷり味わうとしよう」
「ねえ、ルイとユーリが……」
「わかってる……。待て、そこまでだ!」
クラインが声を張り上げると、少年たちに夢中だった魔物が、ぎろりとこちらを向く。
「……ちっ、邪魔が入ったか」
「あれ、さっきのにいちゃんねえちゃんと、それに……」
「コ、コレットォ!?」
「ふん、ガキどもの助けか。……少々ここでは分が悪いな……」
突然、魔物の周りから炎が噴き出す。魔物に抱えられたままの少年たちは、怯えた声を出す。
しかし、どうやらそれは、体を焼き尽くす為のものではなく、姿を隠す為のものであったらしい。炎に包まれた魔物が、言葉を発する。
「ガキどもを返して欲しくば、塔の最上階までこい。もっとも、俺様の餌が、三匹ほど増えるだけだろうがな……」
不気味な笑い声が、少しずつ遠ざかっていき、炎が消えた頃には、魔物は少年たちと共に消え去っていた。
「……どうしよう……」
コレットが、力なく呟く。
「あたしが入口で、二人をちゃんと止めてれば、こんな事にはならなかったんだ!」
「落ち着け、コレット!」
今にも泣き出しそうなコレットに、クラインが励ますように声を掛ける。レフィも、それに続く。
「大丈夫、まだ取り返しのつかない事にはなってないわ。まだ、どうにでもできる。だから今は、少しでも早く助け出せるように、頑張りましょう?」
「……うん」
コレットは、どうにか気を持ち直したらしい。一行は、さらに数を増した敵を打ち倒しながら、奥へ奥へと進んだ。
「……いよいよだな」
「あの魔物、力を増しています」
「……コレット」
クラインは、決心したように、コレットに話し掛ける。
「何?」
「コレットは、ここで待っていてほしい」
「え!?どうして!」
クラインの意図するところを呑み込めたのか、レフィが続く。
「……あの魔物、はっきり言ってかなり強いわ。私たちでも、倒されてしまうかもしれない。だから、そうなった時は……コレットちゃんだけでも、助けを呼びに行ってほしいの」
「……」
「わかってくれないか?」
「……わかった。しょうがないもんね」
二人はほっとしたようだ。
「これで思い切り戦えるな!……ん?心配するなって、ちゃんと戻ってくるよ!」
クラインが頭をなでると、コレットは一層機嫌を悪くする。
「子供扱いしないでよ〜」
「わ、悪い!」
二人のやりとりを見て、レフィは少し微笑み、すぐ表情を引き締める」
「……行きますよ、クラインさん!」
「……ああ!」
先程までとまったく違う、冒険者の顔。コレットは、二人の無事を、そっと祈った。
「のこのこと現れたか、人間ども……。おや、一匹足りないな……」
「お前ごとき、おれたち二人で十分だ!」
「……俺様も、見くびられたものだ……。よかろう、その言葉、あの世で後悔するがいい!」
「それはこっちの台詞ですよ!」
レフィは弓を構え、力を込める。矢の先が、金色に輝く。力を帯びた矢が魔物を掠めた。その隙にクラインは、敵の懐に跳び込み、攻撃を仕掛ける。
「なっ……なんだ!?」
「攻撃が……効いてない!?」
レフィの矢が鱗に掠り傷をつけ、クラインの拳が腹に少し減り込む。しかし、それだけだった。
「……なかなかの動きだ。だが、その程度では、到底勝てぬな!」
「! クラインさん、危ない!」
魔物が眼を煌かせ、力を集める。それは火炎の弾となり、近くにいたクラインを襲う。
「くっ!」
クラインは、咄嗟に左腕で受ける。そこには、激しい痛みを伴う火傷ができる。
「クラインさん!」
レフィはすぐに集中し、回復の力を使う。しかしそれも、魔物の攻撃に遮られる。
「……このままじゃ……」
勝てない。でもそれは、認めたくない。きっと方法はあると、信じたい。
「……おれ、ちょっと賭けにでるぜ……」
「……あら、気が合いますね……」
「何をごちゃごちゃ言っとる!」
『賭け』に集中しながらも、二人は火炎弾を避ける。
初めに力を放ったのは、レフィであった。二人の前に、光の壁ができる。火炎弾がぶつかるが、向こう側には熱気しか伝わらない。
「な、なにぃ!」
続いて、クラインが力を使う。魔物の足元から噴き出す、闇色の炎。
「くくくっ、これで攻撃のつもりか!?ずいぶんと弱っているようだな!」
「何か勘違いしてないか?」
クラインが再び、攻撃を仕掛ける。鱗に弾かれるはずの拳は、魔物の腹に易々と食い込む。続いて放たれたレフィの矢も、体の奥深くまで突き刺さる。
「貴様、何をした!?」
「なあに、ちょっと鱗を柔らかくしたまでさ」
「こ、小癪なあぁぁ…!」
魔物が大きく口を開けた。
「何をする気だ!?」
「! 逃げ……」
レフィの判断は間に合わなかった。光の壁でも防ぎ切れないほど高温の炎が、魔物の口から吹き出される。
全身を焼かれ、二人は倒れた。魔物は、勝利を確信し、不気味な笑みを浮かべた。
コレットは、全てを見ていた。足が震える。
あの二人が……あのおにいちゃんとおねえちゃんが、やられるなんて。
「助け、呼ばなきゃ……」
その場から離れようとして、ふと立ち止まる。
本当にいいの?
本当にこれでいいの?
あの二人を見捨てていいの?
……強くなるって、決めたのに。
コレットは再び振り返った。杖を強く握り締める。
……大丈夫、いける。
「待ちなさい、トカゲ野郎!」
コレットは、大声を張り上げた。
「ほう、いなくなったと思ったら、そんな所に隠れておったか!」
「あたしが相手よ!」
「……身の程知らずめ。貴様も死に急ぐか!」
「我が胸に宿りし熱き心、炎のごとき魂よ!」
「今ならまだ、見逃してやろう!」
「今、大気と混じりて火炎の渦となり!」
「そのような魔術で、我を倒せると思うか!」
「我が前にその力を示せ!」
「ガキが、片腹痛いわ!」
「ファイアーストーム!」
「馬鹿めが……!?ぐ、ぐあああぁぁ!!」
魔物の足元から、渦を巻いた炎が現れる。魔物の炎より、なお高温の炎は、すべてを焼き尽くさんと燃え上がる。炎を操るはずの魔物が、炎に全身を焼かれていた。
「す、すげぇ……」
「本気で戦ったら、おれたち負けてたな……」
魔物のすぐ後ろにいた悪ガキ二人も、感嘆する。
「お、俺様が、負ける?こんなガキの魔術に?」
「ご名答!これが……止めだ!」
回復したクラインが、その拳を魔物に打ちつける。魔物は断末魔の悲鳴を上げ、そして……動かなくなった。
「ふう……やったな、コレット!」
「……」
コレットは、ぼんやりとした瞳で、燻って煙を出す魔物を見詰めている。
「あたしが……やったの?」
「ええ、そうよ。すごいじゃない!」
レフィが、笑顔を見せる。
「さてと、そろそろ帰るか。……ところでコレット、あそこで震えてるチビはどうしようか?」
「置いてっていいんじゃない?誰かさんたち、あたしと違って強いし〜」
「じょ、冗談じゃないよ〜!」
「連れてってください!コレット様様!この通り、宝は全部あげますから〜!」
「……だってよ?」
「……しょうがないなあ……」
『よ、よかったあ……』
散々コレットをからかった悪ガキは、すっかり縮こまっていた。
「まあ、とにかく帰ろうぜ!」
その時だった。どこからか、赤い光が射す。
光の出ている方向を見ると、そこには台座に置かれた、小さな珠があった。
「あ、あれ、一体なんだ?」
「もしかして、本物のお宝……!?」
光は呼吸するように明滅し、突然目映く輝く。そして、光の中から、全身を炎に包まれた、美しい鳥が現れた。
『ありがとう、私を解き放ってくれて……』
その声は、美しい旋律のように、心に響く。
「……あなたは?」
そう訊ねたのはレフィであった。
『私は炎の守護神。母なる神の子であり、世界を司どる守護神の一人……。少女よ、私に尋ねたいことがあるのなら、言ってみなさい』
炎の守護神は、コレットに顔を向けた。
「あ、あの、どうして私は、魔術が使えないの?」
『……炎を出してごらんなさい。ただし、呪文を唱えずに』
「む、無理だよ……」
『やってみるのです。方法は簡単。ただ、心に、思い描けばいい……』
コレットは、瞳を閉じ、炎を思い浮かべた。赤く燃える炎。瞳を開けると、それは本当に、目の前にあった。
『……やはり。そなたは私、炎の守護神の加護を受けた者。塔の扉を開き、呪文を唱えず炎を出し、しかし他の力は扱えない……』
「……どういう、事なの……?」
『私の口からは、これ以上は語れない。知りたいと望むなら、先へと進みなさい、我が娘よ。答えはきっと見つかる……』
炎の守護神は、珠の中へと消えた。役目は果たしたとでもいうように。
「ふむ……。結局、魔術を使うのは、無理だったということだな」
事の次第を聞いた魔術アカデミー校長は、そう言った。
「では、依頼は失敗という事か……」
「パパってば、そんな言い方ないじゃない!」
机を思い切り叩いて、コレットは反論する。
「それじゃあパパは、あたしが『ファイアーストームの呪文を使った』って言っても、嬉しくないんだ!」
「何、今なんと!」
「ファイアーストーム!黄色(イエロー)クラスレベルの呪文って、パパ言ってたよね!?」
「いや……うむ、しかし……」
「ねえ、それってすごい事でしょ?依頼料払うだけの価値はあるんじゃない?」
「う、うむ……。仕方ない、全額とは言えんが、半額は支払おう!」
「やったあ!パパ大好き!」
「……結局父親ってのは、娘に甘いんだな」
クラインは、そっとレフィに耳打ちする。
「ねえパパ、ついでにお願いがあるんだけど……」
「何だ、言ってみなさい」
「あたしも、クラインおにいちゃんやレフィおねえちゃんと一緒に、旅に出たい!」
『ええええっ!?』
クラインとレフィ、校長の慌てた声が重なる。
「しししししかしコレット、旅とは危険なものだぞ!?」
「大丈夫よ、おにいちゃんもおねえちゃんも強いし、あたしも炎の魔術は使えるし!」
「わわわわ私、二人分の依頼料は……」
「いらない、いらない!自分の旅行費は、自分でなんとかするって!」
「おおおお女が二人!?どうすりゃいいんだ!」
「……何考えてるんだか」
コレットは、慌てている三人を適当にあしらい、高らかに宣言する。
「あたし、何があっても、この二人についてくわ!」
「……やれやれ」
「元気な仲間が増えましたね……」
新しい仲間二人の呟きをよそに、コレットは鼻歌でも歌い出しそうな雰囲気だ。
力強い(?)仲間を加え、一行は一路北、ライト二ア王国を目指した。
〜後書き〜
どうも(略)ありがとうございます。第2章から一気に量が増え、時間がかかってしまいました。
今回の後書きは、この物語の誕生秘話。と言っても、この物語をいつ思いついたのか、作者自身よく覚えていません。おそらく、中一か中二の頃だろうと思います。最初は、ヒロイン(作品中のレフィ)が、さらわれた恋人(クライン)を助けに行くというストーリーでした。
その後一度、ヘボヘボで途中で投げ出したような作品を書き、その流れを継いで、この作品が出来たわけです。
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